カナードのいらいらがそろそろ限界に達しそうだ。
「まったく……」
 彼が本気でぶち切れれば、自分では止めきれないぞ……とムウは小さなため息とともにはき出す。
「ポットの軌道さえわかれば、何とかなるんだろうが……」
 いい加減、それが判明してもいい頃ではないか。そう思うのだが、何かの影響で、記録が残っていないのだとか。
 ひょっとしたら、それは人為的なものなのかもしれない。あの一件で行方不明になっているのは、キラとラウ達だけではないのだ。
 その中に、キラ達のラボの教授であるカトーも含まれていた。
「……いったい、どこの連中だか……」
 現在、この宙域にはオーブだけではなくザフトと地球軍の艦艇が航行している。しかも、それぞれが正当な理由を持っているのだ。
 そのせいで、強引に臨検も出来ない。
「まったく……厄介な……」
 どうして、それぞれがここで会見を行おうとしていたのか。
 思わずこう言いたくなってしまったとしても当然のことだろう。
「それでも、ザフトの船の方はまだましなんだよな」
 目的が《サハクの双子》との会談だ。いざとなれば、彼等と共に艦内にはいることが可能だろう。
 それに、とムウは呟く。
「あちらであれば、拘束されていることはないだろうからな」
 ある程度の自由が確保されているのであれば、ラウが何とかするだろう。そして、キラが側にいれば、あの艦のシステムを掌握することも不可能ではないはずだ。
 もっとも、それはそれで別の問題が出てきそうな気はする。
「保険をかけておくか……」
 万が一、あの艦がサハクの双子と接触をする前にこの宙域を離れるようなことになった場合、自分たちでは手が出せなくなるだろう。
 だが、彼等であれば可能ではないか。
「……もっとも、そうなった場合、確実に引っ越しをしなければいけないが……」
 キラが悲しむだろうな、と小さな声でこう呟く。それでも、あの子を守るためにはしかたがないのではないか。
「まぁ、そのあたりはロンド・ミナからうまく持ちかけてもらうしかないか」
 そう呟くと、とりあえずカナードに相談をするために通信機に手を伸ばした。

 ムウの話を聞いて、カナードは思いきり嫌そうな表情を作る。
「俺は反対です」
 そして、こう告げた。
『まぁ、お前ながらそういうだろうと思ったがな』
 苦笑と共にムウはこう言い返してくる。
『だが、人選次第だと思うぞ』
 人選さえ誤らなければ、懸念を小さくすることは出来る。そう彼は続けた。
「……それは、否定できない……」
 確かに、キラの人格と意思を尊重してくれる相手であれば心配はいらない。そして、その他の者達に対して絶大な力を持っていれば、さらにいいのではないか。
「……そのままだな」
 自分で挙げた条件がもろに当てはまる人物がいるだろう、とカナードは呟いてしまう。
 いや、その相手が記憶の中に残っていたから、ついついこんな条件を思いついてしまったのか。
 だが、ムウはどうやってその相手に連絡を取るつもりなのか。
 しかし、すぐにカナードはその疑問を打ち消す。
 相手はムウだ。その位は既に目星をつけているだろう。
『納得したか?』
 忌々しいことに、カナードの思考がまとまるのを見計らったかのようにムウはこう問いかけてくる。
 こう言うところは、間違いなくラウとそっくりだ。
 問題は、ムウの場合、滅多にこのような場面は見られないと言うことかもかもしれない。
「納得はしたが、同意は出来ない……今は」
 もう少し、自分たち――自分があがいてからでも遅くはないのではないか。何よりも、あちらにまで不安を広げることはないように思う。カナードはそう口にする。
『それでておくれにならなければいいが、な』
 即座にムウがこう反論をしてきた。
「ムウ!」
『大丈夫だ。あいつなら悟られないように動くさ』
 本当、敵に回したくないお嬢さんだよ……と彼は続ける。それだけで、彼が考えているのも自分が思い描いた相手と同じなのだとわかった。
『何よりも、あのお嬢さんのキラに対する気持ちは、俺たちにも劣らない』
 他の連中に任せるよりも安心だ。この言葉にはカナードも頷かざるを得ない。
『とりあえず、今、出来る手は全て打っておけ』
 何なら、ハッキングを仕掛けてもいいぞ……と彼は笑う。
「そうだな。そうさせてもらう」
 何もしていないよりは何かをしている方がマシだ。そう考えて、カナードは頷いて見せた。