実際、カナードはいつ噴火してもおかしくはない状況だった。 「どういう事ですか!」 救命ポットが見つからないというのは、と彼は周囲の者をにらみつけながら問いかける。 「おそらく、先にどこかの船に救助されたのだろうが……そこからの連絡がない、と言うことだろうね」 冷静な口調でこう言ってきたのは、事件を聞きつけてやって来たホムラだ。 「……同じポットに、プラントからの留学生も乗り込んでいたそうだ」 ムウが忌々しそうにこう呟く。 「ひょっとしたら、故意だったのかもしれないな」 もっとも、襲撃まではどうかはわからないが……と彼は続ける。 あれは間違いなく、ブルーコスモスの仕業だ。 「キラと同じポットに乗り込んだのを幸いに、射出させたんだろうな」 もっとも、ラウが乗っていたことは向こうには想定外、だったのだろうが。そうも続ける。 「となると……ムウは、連中はどこと繋がっていたと思っているわけですか?」 おそらく、彼の中では既に答えが出ているのだろう。 いや、それ以外にあり得ない、と言った方が正しいのか。 「おそらく、ザフト……だろうな」 ムウはため息とともに言葉をはき出す。 「こちらがあちらに注目していたとおなじように、あちらもそうしていたと言うだけだ」 問題は、いったいキラの何に注目をしたのか、と言うことだろう。 「あいつらが欲しがっているのが、キラの才能ならいいんだけどな」 そうであれば、キラの身の安全はかなり保証される。 いや、そうでなくても、命だけは保証されるだろう。しかし、あの子の心はどうだろうか。 「……ラウが側にいることだけが救いか」 同時に、自分たちの後見に付いてくれている者達の存在が、とムウは呟く。 「そのことだが……とりあえず、近隣にいる全ての船に、ウズミ名義で問い合わせることにした」 そういってくれたのはホムラだ。 「ホムラ様……」 「君達は私の子供だからね」 多少、そういうには年が行きすぎている者達もいるが……と付け加えたのは、彼なりに緊張を解そうとしてのことだろうか。 「それに、あの子はそれ以上に我々にとって大切な存在だ」 色々な意味で、と続けた彼の声音は真剣なものだ。 「こちらに向かっているサハクの二人も、それぞれの権限で確認行為をとっているようだ」 彼等もキラを可愛がっているからね、とそうも続ける。 「……ロンド・ミナはともかく、ギナはあまりキラに近づけたくないのですけどね」 ため息とともにこう告げれば、ホムラは苦笑を浮かべた。 「心配しなくていい。無理強いはさせないよ」 あくまでも、キラの意志が最優先だ……と彼は続ける。 「ギナにしても、アスハを敵に回してまで無理は通すまい」 何よりも、君達三人の怖さはわかっているだろうからね……とさらに言葉を重ねた。 「だといいのですがね」 それでも、自分たちには何の地位もない。だから、命じられれば頷かざるを得ないのではないか。 何よりも、キラは自分たちのことを持ち出されれば受け入れてしまいそうなのだ。 「こうなるとわかっていれば、さっさとどこかで地位を手に入れておくべきだったか」 今更言ってもしかたがないことだとはわかっている。それでも、ついついぼやきたくなってしまうのは、自分が人間だから、だろうか。 「今からでも遅くはないかもしれないが……あまり薦めないよ」 「わかっています。俺たちは自由に動ける方がいい」 キラのためにも、オーブのためにも、だ。 それでも、自分たちの名前であれこれ出来ないのは辛い。 「ともかく、焦らないように」 君達に何かあっても、キラは悲しむ。こういうホムラに、ムウもカナードも静かに頷いてみせた。 「ラウが一緒ですから……何かあっても、適切な対処を取ってくれるでしょう」 そして、二人とも無事に帰ってくるに決まっている。 それが出来ないようであれば、必ず自分たちに連絡を寄越すはずだ。 その時に、すぐに動けるようにしておこう。 「……カナード……」 その考えのまま、脇に立っている彼に声をかけた。 「何ですか?」 必死に我慢しているのだとわかる声音でカナードが言葉を返してくる。 「例のあれ、使えるのか?」 キラにばれたらすねられるなどと言ったものではないかもしれない。だが、モルゲンレーテでもたまたま同じ設計思想のそれが開発されていただけなのだ。そういって、納得してくれればいいが、と思いながら問いかける。 「……俺だけでいいのであれば」 他の人間が使えるようなOSにはなっていない。まして、ナチュラルには不可能だろう。カナードはそう言い返してくる。 「それでいい。準備をしておいてくれ」 いつでもでられるように、と付け加えれば、彼は頷いて見せた。 「俺も、でられるようにしておきます。構いませんね?」 ホムラにこう問いかける。 「それがいいだろうね」 彼の言葉を合図に、カナードがまず行動を開始した。 |