いきなり鳴り響いた端末の音に、ムウは渋々ながら起きあがる。 「誰だよ……」 こんな時間に、と呟きながら、立ち上がった。そして、そのまま端末へと向かう。その動きにキレがないのは、彼の心情を表しているからだろう。 「はい?」 勢いのまま「何のようだ」と口にしなかった自分をほめてもいいのだろうか。そう思ったのは、モニターに映ったのがトダカだったからだ。 『……カレッジに賊が侵入したそうです……』 しかも、前置きも何もなく彼はこう言ってくる。 「賊?」 反射的に聞き返してしまったのは、すぐには信じられなかったからだ。 もちろん、その可能性があることはわかっていた。だからこそ、ラウはわざわざカレッジ内部に仕事場を移したのだ。 それでも、彼の地は一番、その手のことから遠い場所だと思っていたことは否定できない。いや、そう思っていたかった、と言った方が正しいのか。せいぜい、ハッキング程度だろうと考えていたことも否定しない。 『はい。どうやら、既に、数名、行方不明者がでているようですが……』 人数の確定が出来ていない、と彼は続けた。 「行方不明者?」 まさか、とムウは不安を隠せない。ラウが側にいるから心配はいらないとは思うが、万が一の可能性も否定できないのだ。 『弟君と妹君はご無事だそうです……今は、まだ……』 どうやら、確認をしておいてくれたらしい。 だが、それから自分に連絡を入れてくるまでの間に、どうしてもタイムラグが生じる。その間に万が一のことがないとじゃ言い切れないのだ。 「なら、だいじょうぶだな」 それでも、ムウはこう言って笑う。 「ラウが一緒なら、キラを危険な目に遭わせるはずがない。そして、キラが悲しむから、あいつ自身も無茶はしない」 きっと、二人とも無事だろう。 それでも、すこしでも早く駆けつけた方がいい、と言うことはわかっていた。 「それで? 俺たちが出て行ってもいいのか?」 だが、ここにもオーブの正規軍は駐留している。何よりも、今はホムラもいるのだ。そんなところに自分たちが出向いていっても厄介ごとを引き起こすだけではないのか。そう思って問いかける。 『ここにはホムラ様もおいでですし、今回随行してきたものはみな、皆様方の事情を知っている者達ですから』 そういわれて、ムウは頷く。 「すぐに合流する」 カレッジの前に行けばわかるな? と付け加えれば、トダカは静かに頷き返した。 「では、向こうで」 言葉とともにムウは通話を終わらせる。 「カナードに知らせねぇとな」 あいつの力は必要だから、とそう呟きながら振り向こうとした。 「その必要はない」 背後から、当人の声が聞こえてくる。 「必要だと思う物も用意してある。すぐに出かけられる」 怒りと不安を押し殺しているせいか、いつも以上に感情を感じさせない声音で、彼はさらに言葉を重ねてきた。 「そうか」 なら、すぐに行くか……と笑い返す。 「大丈夫だ。ラウが一緒にいる」 それだけが、彼だけではなく自分にとっても救いだ。でなければ、ここで三人、やきもきしていなければならなかったはず。 「あいつはどのような状況であろうとも、キラを護りきるさ」 だから、自分たちはそんな彼等を迎えに行けばいい。そういって、ムウはカナードの肩を叩く。 「……わかっています……」 カナードもまた、小さく頷いてみせる。それでも不安を隠せないのか。瞳が揺れている。 「わかってるって。だから、全速で迎えにいくんだろう?」 こう言うところは、本当にキラにそっくりだ。そう思いながら、ムウは彼の頭を軽く叩く。そして、そのまま歩き出した。 しかし、自体は予想外の方向へ進んでいたらしい。 「……もう一度言ってくれるかな?」 相手がキラの友人でなければ、怒鳴りつけていただろう。 だが、それでは、ただでさえ混乱している彼女たちをさらに混乱の中にたたき込んでしまうことになる。 それでは、大切な情報を手に入れることが出来ない。 何よりもキラに恨まれてしまうだろう。 個人的にも、野郎どもはともかく、女性には優しくするのが心情だ。 「多分、システムがバグちゃったのか、それとも、誰かの故意なのか……キラ達が避難をしたポットが、射出されちゃったんです……」 十五人乗りのそれに、キラを含めて四人で乗っていたから、酸素や何かの心配はいらないと思うが、それでも……とミリアリアが口にする。 「……トダカ一佐……」 そんな彼女の背中を軽く叩いて落ち着かせているムウの耳に、カナードの声が届く。 「大至急手配をしよう。確か、サハクの船ももうじき到着をすると聞いているから、そちらにも救援を要請しよう」 こちらから船を出すよりも早いかもしれない、と彼はそう続ける。 「お願いします」 サハクであれば信用できる。だから、とムウは頭を下げた。 「いえ。気になさらないでください」 当然の義務だ。そういって彼は笑う。 そのまま離れていく彼の姿を見送りながら、ムウはカナードへと目配せをした。万が一のことを考えて、二重三重の安全策をとっておくべきだ、と判断したのだ。 それを的確に受け止めてくれたのだろう。カナードは小さく頷き返すとその場を離れていく。 だから、大丈夫だ。 そう思っていた。 |