騒がしいが、それでも充実した日々を過ごしていた。
 そんなある日のことだった。
「……ちょっといいかな?」
 珍しくもラウがラボのほうに顔を出した。
「どうしたの、兄さん」
 それに気が付いて、キラが腰を上げる。
「セキュリティのことでね。カトー教授と打ち合わせをすることになっていたんだが……待ち合わせの場所においでにならなかったのでね」
 この言葉を耳にした瞬間、サイ達は頭を抱えてしまった。
「また、研究で世界がわからなくなっているんだ、教授」
 自分の世界で生きている人だからな、と呟きながら、彼がいるであろう部屋へと歩き出そうと足を踏み出す。
 その時だ。
「……えっ?」
 いきなり、周囲に警報が鳴り響いた。
「何?」
 それに、キラは反射的に足を止める。
「キラさん!」
「キラ!」
 レイ達とラウが同時にキラの方へと歩み寄ろうとしてきた。ただ、元いた場所の関係で二人の方がラウよりも早くたどり着いたが。
「何が、あったのかな……」
 キラが小さな声でこう呟く。
「わかりません……」
 でも、何かあったことだけは事実だろう。そうレイが言ってくる。
「ともかく、避難をした方がいい。君達も、すぐに準備を」
 そっとキラの肩に手を置きながらラウが指示を出す。
「でも……教授は?」
 どうして出てこないのだろうか。キラにはそちらの方が気にかかる。そのまま、すがるように兄を見上げた。
「……サイ君。君に任せてもいいね?」
 他の者達と一緒に避難をして欲しい、とラウはため息とともに指示を出す。
「ですが……」
「どうやら、確認をしなければ動かないようだからね、この子は」
 自分が付いているから心配はいらない。ただ、万が一のときにサイ達までフォローする自信がないから、先に避難をしてくれるとありがたいのだ。ラウはそう続けた。
「ラウさん」
「私たちはコーディネイターだからね。すぐに追いつけるだろう」
 いざとなれば、自分がキラを抱えて走ればいいだけだ。そういってラウは安心させるように微笑んでみせる。
「もちろん、君達もだ」
 そのまま、シンとレイへと視線を向けた。
「それなら、俺たちもコーディネイターです」
 足手まといにはなりません、とレイが即座に口を開く。
「そうです! だから、一緒に行きます」
 反対しても付いていくから、とシンも言ってきた。
「勝手にしたまえ」
 ここで口論をして無駄な時間を使いたくない。そう判断したのだろう。ラウはどこか吐き捨てるような口調でこういった。
「君達は、すぐに避難を」
 それでもサイ達に対しては口調を和らげて言葉を告げる。
「……はい……」
 流石に、彼等も鳴りやまない警報に不安をかき立てられていたのか。素直に頷いて見せた。
「大丈夫……すぐに追いつくから」
 ごめんね、とキラは口にする。
「わかっている。でも、気をつけろよ?」
 キラはコーディネイターのくせに鈍くさいんだから、とトールがこう言ってきた。それは、ある意味、不安を打ち消そうとしての行動かもしれない。
「兄さんがいるから、大丈夫じゃない、かな?」
 キラはそんな彼に向かって、明るい口調を作って言い返す。
「……絶対よ?」
 ミリアリアの言葉を合図に、彼等は一足先に避難していく。
 その背中を見送ってから、キラはカトーがいるであろう部屋へと駆け寄った。そのまま、ドアのロックを外そうとする。
「待ちなさい」
 その手をラウが止めた。
「私が開ける」
 君は少し離れていなさい。そういったのは、いつものことだ。
 だが、今日はその表情が硬い。
 あるいは、彼もカトーに何かあったのだ、と判断したのではないか。そう思って、キラは静かに頷くと場所を開けた。
 代わりにラウがそこに体を滑り込ませる。そして、そのままドアを開いた。
「……嘘……」
 一目で室内の様子が確認できる狭い室内に、カトーの姿はない。
 それは一体どういう事なのか。キラにはすぐに判断できなかった。