「あたしだけの気のせいじゃなかったわけね」
 ケーキにフォークを突き刺しながら、フレイがこう呟く。
「……言われてみれば、私にも思い当たることがあるわ」
 ミリアリアもまたこう言って頷いて見せた。
「やっぱり?」
 どうしてかな、とキラはテーブルに肘をついたてにあごを乗せる。あまり行儀はよくないが、そんなことは気にしていられない。
「どうしてなのかな……」
 そのまま、ため息をつく。
「しょっちゅう顔を合わせているんだから、もう少し仲良くしてくれると嬉しいんだけど」
 少なくとも、ラウは表面上だけ取り繕っているのに……と言うのはほめていいことなのだろうか。少し悩むが、それでも所構わず突っかかるレイよりはマシだと思う。
「顔だけ見ていれば、キラよりあいつの方が兄弟みたいなのにね」
 もっとも、中身はキラの方がよく似ているが……とフレイは口にした。
「だからよね。キラのお兄さん達の中で一番付き合いやすいわ」
 コーディネイターだからって、偉ぶってもいないし、困ったときにはさりげなく手を貸してくれるところは尊敬するし……と彼女は続ける。
「そうなのよね。この前も、機材を運んでいたら、手伝ってくださったのよ」
 うちの男どもは逃げたのに、とミリアリアは笑う。
「もっとも、それは私たちがキラの友人だから、何だろうけどね」
 でなければ、あそこまで気遣ってくれないのではないか。そう彼女は続けた。
「それに、あたしたちが《女》だからって事も関係しているのかも」
 でも、それが男尊女卑とかに繋がらないのは、きっと、彼は自分たちが出来ることは自分でさせるようにしているからだろう。出来ないことだけに手を出してくるのだ……とフレイも頷いてみせる。
「兄さんったら、いつの間に……」
 自分の友人達に愛想を振りまいてくれていたのか。そういいたくなる。だが、それも間違いなく自分のためだろう……と言うことはわかっていた。
 しかし、それで余計な騒動が起きなければいいとも考えてしまう。
「ラウ兄さんだから、まだ、そのあたりのことは考えていてくれるだろうけど」
 これがムウであれば、刃傷沙汰の一つや二つは覚悟しなければいけないかもしれない。そう考えてしまうのも、過去の経験からだ。
「それこそ心配のしすぎよ」
 小さな笑いと共にミリアリアが口を開く。
「ラウさんが手を貸してくれるのは、私たちだから、だもの」
 他の女性陣にはあまり手を出していないから、と彼女は続ける。
「本当に困っているときには、それでも手を差し伸べてくれているみたいだけど」
 それで相手が誤解をしたとしても、それはそちらが悪い。ラウはあくまでも、困っている相手だから手を貸しているだけなのだ。そういったのはフレイだ。
「まぁ、夢見るのは勝手だけどね」
 でも、突撃して断られる可能性の方が大きいって考えておかないとダメでしょう、と彼女はさらに言葉を重ねた。
「相変わらず、厳しいわね」
 苦笑と共にミリアリアがそんな彼女に言い返す。
「考えてみればすぐにわかるじゃない」
 キラが彼等と他の男達を比較してしまうように、彼等もキラと比較をするのだから、とフレイは笑う。
「そこいらの連中がキラに勝てるわけないじゃない」
「……そんなことはないと思うけど」
 人はそれぞれ、いいところが違うんだから……とキラは言い返す。
「そう言えるのは、キラだからよ」
 でも、キラのそう言うところが好きなんだけど……とフレイはいいながら笑った。
「そうよね。そう言えるのはキラの美点の一つだわ」
 ミリアリアも頷いてみせる。
「……言い過ぎだよ、二人とも。僕は普通のことをしているだけだって」
 面はゆさに耐えきれなくなって、キラはこう言い返す。
「それにしても……もう少し仲良くなってくれないかな」
 不意に聞こえてきた声に、思わずこう言ってしまう。
「確かに、あれはね……」
 周囲の女性陣がびっくりとしているわ、とミリアリアもため息をつく。
「って言うか、一方的にレイがラウさんに突っかかっているだけでしょ」
 本当に、とフレイもあきれたような視線を向けていた。
「普段は、シンの方がうるさいのに」
 と言うよりも、自分たちに突っかかってくるのはシンの方で、レイはそんな彼を諫めるのが恒例になっている。それなのに、相手がラウとなるとその立場が逆転するのだ。
「兄さんも、からかわなければいいのに」
 きっと、あれは間違いなく遊んでいる……とキラは呟く。
「まぁ、よく似ているから、見ていて微笑ましいと言えば言えるのかもしれないけど」
「兄弟げんかみたいで?」
「そういうこと」
 ひょっとして、同族嫌悪というものなのだろうか。不意にフレイがこう呟く。だから、レイはラウ限定で突っかかっていっているのかもしれない、とも。
「あぁ、それはあり得るわね」
 だとするなら、当分はあのままだろう。二人はそういう結論に達したらしい。
「……あまり嬉しくないな、それ」
 それを耳にして、キラはまたため息をついた。