しかし、きょうだいが揃っているとやはり安心できる。 何よりも、ラウが一緒に登校してくれているのは嬉しい。たわいのない会話でも、自分の研究にとってヒントになることが含まれているのだ。 「……そういえば、留学生とはうまくやっているのか?」 不意にラウがこう問いかけてきた。 「僕は、ね」 それに、キラはため息とともに言葉を返す。 「他のみんなとは、まだダメみたい」 コーディネイターとナチュラルの壁は、普通はそんなに高いものなのだろうか。言葉とともに首をかしげる。 「僕は第一世代だし……ムウ兄さんが側にいてくれたから、種族の差を感じたことはないんだけど……」 何よりも、自分はオーブで過ごしている時間が長い。だから、ナチュラルにもよい人や尊敬すべき人がたくさんいると知っている。 でも、とキラは言葉を重ねた。 「彼等は、ナチュラルに会うのは初めてみたいなことを言っていたから、きっと、とまどっているんだよね」 自分よりも優秀なナチュラルの存在に、とキラは続ける。 「おそらく、な」 しかし、ラウはすぐに納得をしてくれない。 「それ以前に、プラントの教育に問題があるとも言えるが……」 しかし、それをどうこう言う権利は自分たちにはないだろう。彼はため息とともにそう告げる。 「……ラウ兄さん……」 「そういった意味では、地球連合とよく似ているよ」 プラントは、と付け加えた彼の言葉にはどこか棘のような者が感じられた。それはどうしてなのだろうか、とキラは思う。 「もっとも、それは理解できるがね」 プラントにいる第一世代は、ナチュラルにより迫害され続けていた。だから、その記憶をわが子達に伝えてきたのだろう。 そう考えれば、地球連合よりはましかもしれない。 こう言って微笑んで見せたラウは、もういつもの彼だった。 「だとしたなら……彼等も被害者なのかな?」 偏見という魔物の、とキラは呟く。 「そうかもしれないな」 言葉とともに、彼の手がキラの頭に乗せられる。 「しかし、そう言えるのは君が優しいからだよ」 自分に関係のないことには無関心な者は、オーブにもいるだろう? と彼は続けた。 「そんなことはないと思うけど……」 自分だって、誰彼にこんな気持ちを抱くわけではない。たまたま、シンとレイという二人のプラント籍のコーディネイターが身近にいるから、そう判断をしただけだ。 それに、とキラは思う。 「僕がそうだって言うなら、それは兄さん達のおかげだろうし」 彼等がそうやっていたのを見て育ったから、自分もそれが普通だと思ったに決まっている。そういってキラはラウを見上げた。 「そういってくれると嬉しいね」 そんなキラの仕草に、ラウは目を細める。 「カナードにも教えておこう」 くすり、と低い笑いを漏らすとこういった。 「……ムウ兄さんには?」 「あの男に教えれば、図に乗るからダメだ」 キラも感謝をするのはいいが、決して教えてはいけないよ……と彼は続ける。彼菓子ったら、ますます手に負えなくなるから……と彼はさらに言葉を重ねた。 「よくわからないけど……兄さんがそういうなら、そうする」 確かに、ムウにあれこれされるのは困る。寝る前までは綺麗だったはずのリビングが、今朝、とんでもないことになっていたことを思いだして、キラも頷く。 「ともかく、帰れる時間がわかったらメールを寄越しなさい」 それに合わせて、自分も作業を終えるから……とラウは口にした。 「うん。でも、それでいいの?」 逆に仕事の邪魔にならないのか、とキラは彼に問いかける。 「構わないよ。でないと、ずるずると仕事をしてしまいそうだからね」 下手をしたら、帰宅することすら忘れてしまいかねない。その理由はキラにもわかった。 「そういうことなら、連絡するね」 もっとも、自分もいつ帰れるか自信はないが……と心の中で付け加える。 「連絡がないときには、私の方からメールを入れた方が良さそうだね」 キラの態度から何かを察したのだろう。ラウは苦笑と共にこう言って来る。 「そうしてください」 自分は早々に帰りたいのだが、教授が何か難題を押しつけてきたらどうなるかわからない。それに、最近はあの二人の面倒も押しつけられているような気がするし。そんなことを考えていたからだろうか。 「キラさん!」 シンの声が耳に届いたときに、少し驚いたのは。だが、それも一瞬のことだ。 「おはよう、シン君。それにレイ君も」 微笑みと共に彼等に視線を向ける。 「おはようございます、キラさん」 レイも静かな口調でこう言ってくれる。しかし、彼の視線がラウに向けられた一瞬、剣呑な光を孕んだような気がしたのは錯覚だろうか。 しかし、ラウはそれを気にするようなそぶりを見せない。だから、あえて、自分も気にしないようにしよう、とキラは判断をする。 「課題、終わった?」 だから、あえて別の話題を彼等に振ることにした。 |