「何か、兄さん達……今日はおかしくない?」
 ようやく終わった二人の言い争いの後、キラはこう告げる。
「……そうか?」
 別に、普通だろう? と即座にカナードが言い返した。
「ただ、ムウ兄さんがふてくされているだけだ」
 暴れられなかったから、と彼はさらに言葉を重ねている。それが正しいわけではないが、少なくともキラを納得させられるだけの威力はあったらしい。
「だって、あれはムウ兄さんが悪いと思う」
 言葉とともに視線を彼へと移した。
「お前達が細かいだけだって」
 男ならこのくらい普通なんだぞ、とムウは言い返してくる。
「だから、振られるの?」
 こんなセリフを口にしたのには不快意味はない。しかし、ムウにはかなりきつい一言だったのだろうか。
「……キラ……」
 それは言ってくれるな……と彼はため息とともに付け加える。
「だが、それがお前の考えが間違っている証拠だろう?」
 さらにラウが追い打ちをかけるように笑いを漏らした。
「カナード!」
 お前だけは俺の味方だよな、とムウが視線を向けている。
「俺は、無条件でキラの味方です」
 しかし、彼は一言、こう言っただけだ。
「……カナード……」
「そもそも、仕事に行っている間、誰があなたのフォローをしていると思っているんですか?」
 一部屋ですんでいるからさほど手間ではないが、それでも、半日もしないうちに足の踏み場がなくなるのは困る。そう彼は言葉を重ねた。
「しかも、ですよ。仕事に持っていくのは最小限の荷物だけでしょう!」
 それなのに、と彼は続ける。
 流石に、これにはいたたまれなくなったのか。それとも、ただふてくされただけなのか。
「これじゃ、四面楚歌だろうが」
 ぼそっとムウは呟く。
「一番の年長者が周囲の手本にならなくてどうする」
 それに、ラウがあきれたようにこういった。
「……ラウ。世の中には反面教師という言葉もあるぞ」
 実は、一番辛辣だったのは彼だったのか。カナードが平然とこう言い放つ。
「カナード……お前にそこまで言われなければならないようなことを、したか?」
 俺は、とムウはショックを隠せないという表情で聞き返した。
「それを全部、キラの前で言っていいのか?」
 だが、カナードは平然と彼に疑問をぶつけている。
 その言葉に、ムウが凍り付いたのはどうしてなのだろうか。
「……ムウ兄さん?」
 どうかしたの? とキラは首をかしげながら彼に視線を向ける。しかし、それに彼が大きな体を予想以上に小さくしているのはどうしてなのだろう。
「キラ……」
 訳がわからないとラウへと視線を向ければ、彼は苦笑を浮かべながらキラの肩に手を置いた。
「お前に知られたくないことを山ほど抱えているからだよ」
 だから、あえて聞かないでおきなさい。そう続ける。
「……訳がわからないけど……ラウ兄さんがそういうなら」
 そういうことにしておく、とキラは笑った。
「ずいぶんと、俺のときと態度が違うな」
 しかし、それにますますムウがふてくされてしまう。
「……だって……」
「普段一緒にいる時間が長い人間の方が信頼度が高いのは当然のことだろう?」
 もっとも、お前が一緒にいても、キラの負担が増えるだけだろうが。そういってラウはため息をつく。
「だからってなぁ……」
 ぶつぶつとムウが呟き出す。
「……ムウ兄さん……」
 いったいどうすれば彼の機嫌が直るのだろうか。そう考えて、キラは他の兄を順番に見つめる。
「放っておけ。それよりも、そろそろオーブンの中身を確認してこないとまずいぞ」
 カナードがさりげなくキラの意識をそらそうと言葉を口にした。
「うん、わかった」
 あまりに見え見えなせりふではある。だが、それはきっと、これ以上つっこむなと言う忠告なのだろう。そう判断をしてキラは立ち上がる。
「他の料理は出来ているから、そうしたら飯だな」
 ムウがふてくされているのは、空腹のせいもあるのかもしれない。そういいながらカナードも立ち上がる。
「そういうものなの?」
 お腹が空いて哀しくなることはあるけど、とキラは聞き返す。
「そういうもんだよ」
 まぁ、夕食が終わってもふてくされているようなら考えなければいけないが。そう続ける彼に、キラは小さく頷いて見せた。