しかし、彼女の存在は……とキラは目の前の光景に、苦笑を浮かべてしまう。サイはともかく、トールとカズイにいたっては敵前逃亡を開始している。
「……フレイらしいと言えばフレイらしいけど……」
 ミリアリアがそっと囁いてきた。
「適当なところで止めないとね」
「そうだね」
 男性陣はあてにできないようだから、とキラは苦笑を深める。
「本当にだらしない」
 ミリアリアはミリアリアであきれたようにこう呟いた。
「でも、あの状態のフレイを止めるのは、はっきり言って難しいと思うよ」
 自分でも、とキラは苦笑を返す。
「そうなのよね」
 まぁ、それもいい経験でしょ……とミリアリアは笑う。
「……諦めてもらうしかないよね?」
「そうね」
 これもまた、カトーゼミの名物になりつつあるのだから……と彼女たちは頷きあった。もっとも、そのすぐ後でため息をつくことになったが。
 そんな彼女たちの目の前で繰り広げられている光景は、ある意味、このカレッジでは日常的に見られるものではある。いわゆる、キラにあれこれしようとした男子学生がフレイの逆鱗に触れた、と言うものだ。
 そのせいか、周囲の者達は一瞥しただけで通り過ぎていく。
 しかし、絡まれているレイとシンはそのことがわからないらしい。
「何で、誰も助けないんだよ!」
 自分たちがコーディネイターだからなのか? とそろそろ限界に近いのでは、と判断できる表情になりつつある。
「……フレイ……まだ、気が済まない?」
 これは、止めた方がいいだろう。そう判断をしてキラは立ち上がる。
「みんなが気にしないのは、フレイがこうするのはよくあることだから、だよ。シン君」
 でも、手が出ないだけマシ? とキラは首をかしげた。
「だって、最初に言っておかないと、バカには意味がないじゃない!」
 第一、この程度で逃げ出すような可愛い性格をしているわけ? とフレイはさらに相手を煽るようなセリフを口にしてくれる。
「フレイ……お願いだから、そこまでにしておいて」
 ため息とともにキラはこう告げる。
「キラがそういうなら、やめておくわ」
 フレイは即座にこういった。
「あなたに迷惑をかけたいわけじゃないもの」
 もっとも、と付け加えながら彼女はシンへと視線を向ける。
「あんた達がキラに迷惑をかけたり、泣かせたりしたら、ただじゃすまないんだから!」
 絶対に、後悔させてやる! と口にしながら彼女はそのまま勢いよく指を突きつけた。
「あんたに何が出来るわけ?」
 心意気は買うけど、とシンが聞き返している。
「何かできるわよ!」
 嫌がらせの一つや二つぐらいなら、とフレイは言い返す。
「……フレイの嫌がらせは、肉体的はともかく、精神的ダメージが大きいからな」
 一番経験しているからだろうか。カズイの言葉には妙な実感がこもっている。
「女性を侮っちゃダメだって。それはコーディネイターもナチュラルもないはずだ」
 さらにトールが口を開く。
「特に、フレイのキラ大好きは婚約者のサイ好きよりも上だから」
「そして、状況次第では私たちも手を貸すしね」
 その場に、ここでは聞くと思わなかった声が周囲に響いた。
「ラウ兄さん……」
 どうして、とキラは思わず呟いてしまう。
「仕事の打ち合わせだ。機材を確認しておかないと、後で困ることになるからね」
 思ったよりも早く終わったから、キラと一緒に帰ろうと思ったのだ。そういいながら、彼は微笑む。
「……そうなの?」
 確かに、そういう話をしていたな、と思いながらも確認のために問いかけた。
「兄を信用しなさい」
 苦笑と共に彼はこういう。
「……でも、ずいぶんとタイミングがよかったですね?」
 同じような表情を浮かべながらミリアリアが彼に問いかけた。
「先ほどから、声をかけるタイミングを見計らっていたからね」
 この言葉をどう判断すればいいのか。キラは思わずため息をつきたくなる。
「そういうことだからね。可愛い妹を泣かせないでくれるとありがたいかな?」
 にっこりと微笑みながらラウは背後からキラの体を抱きしめてきた。そのまま二人に視線を向ける。
 レイもまた、ラウを見つめかえていた。
 その視線がぶつかっている場所に火花が散っているように感じられたのは錯覚なのだろか。
「兄さん?」
 その場の空気に不安を感じて、キラは思わずラウに呼びかける。
「あぁ、何でもないよ。ひょっとして、この中に君を私たちの手から奪う相手がいるかもしれないと思ってね」
 まだまだ、手放す気はないのだが……と言う彼に、キラは気が抜けていく気がした。
「兄さん……」
「まぁ、私が認めても、他の二人がそうだとは限らないからね」
 だから、どうしてそうなるのか。あきれるべきなのか怒るべきなのか。キラは本気でなたんでしまった。