「シン・アスカとレイ・ザ・バレル?」
 留学生に興味を持っていることはわかっていた。だから、と思ってキラはラウに彼等のことを教えようと口にしたのは、夕食後だった。
「そう。それで……何故か、レイ君は、兄さんに似ているんだよね。シン君は……どこかであったことがあったかな?」
 何か、気にかかるんだよね……とキラは素直に口にする。
「そうか……」
 しかし、その瞬間、彼がここまで厳しい表情を作るとは思わなかった。
「ラウ兄さん?」
 それはどうしてなのだろうか。そう考えて、キラは首をかしげる。
「……あぁ、キラ。心配しなくていいよ」
 その仕草に気が付いたのだろう。ラウが苦笑を浮かべた。その表情のまま口を開く。
「あの男――私たちの父親が、また、どこか知らないところで子供を作っていたのか。そう考えただけだよ」
 しかも、作るだけ作って、後は放置という最低の人間だったしね。ラウはそうも続ける。
「……本当に?」
 だが、キラは、それを素直に信じることが出来なかった。
 確かに《父》と呼ぶべき人はそう言う人物だったのかもしれない。しかし、ラウやムウが、自分たちに彼のことを口にしたことは今までなかったのだ。それがこんな繰り言だとしても、である。
 それを急に口にしたのはどうしてなのだろう。
「そうだよ。君が生まれる前の騒動を思い出してしまってね」
 しかし、ラウは苦笑と共にこう言い返してくる。
「私とムウが初めて顔を合わせたときのことだがね」
 あの時は大変だった。もっとも、自分よりもムウの方が衝撃の度合いが大きかったようだが……とラウは告げた。
「カナードのときには何も言う気になれなくなってきてね。でも、君のときは嬉しかったな」
 家族は自分たちの手で作るもの。そう開き直ったからかもしれないね、と優しい視線をラウは向けてくる。
「ラウ兄さん……」
「それに、君のお母さんは、私たちにも過分なほどの愛情を与えてくれた」
 今まで与えられなかったそれは、自分たちにとっては黄金にも勝るものだった……と彼はさらに目を細めながら続けた。
「だから、同じだけの愛情を君に与えたいだけなのだよ、私たちは」
 過保護と言われようが、と言う彼にキラは小さく首を横に振ってくれる。
「……僕は、兄さん達が迎えに来てくれたとき、とても嬉しかったんだ」
 どうしてそうなったのか、思い出せないんだけど……その時のことだけは覚えているから、とキラは口にした。
「それだけで十分だよ、キラ」
 自分たちが迎えに行ったことだけ覚えていてくれればいい。
「その他のことは、覚えていない方がいいことだからね」
 辛いことや哀しいことは、キラが受け止められるようになったときにきっと思い出せるだろう。そう彼は言葉を重ねた。
「うん」
 それが慰めだとしても、そういってもらえて安心できる。だから、とキラは小さく頷いてみせた。
「それよりも……」
 困ったことになったよ、と不意にラウは表情を変えると別の話題を口にし始める。
「兄さん?」
「どうやら、依頼者とケンカしたらしくてね。仕事が一つ、キャンセルになったようだ」
 と言うわけで、あの二人がいきなり帰ってくることになった……と彼はため息をつく。
「大丈夫なの、それって」
 これからの仕事に支障が出るのではないか。生活のことはともかく、彼等がそのせいで困った状況になるのはあまりよくないような気がする。そう思って、問いかけた。
「大丈夫だろう。他の者達も一斉に引き上げたようだからね」
 確かに、ジャンク屋というのはある意味、チーム単位で動く。
 そんな彼等にとって見れば、国籍など関係ない。必要なのは実力だけだ。
 だが、それを認められない者もいるのだ……とラウは苦笑と共に教えてくれる。
「と言うことで、今回の依頼者は、今後、ジャンク屋ギルドからの援助は受けられないだろうね」
 それに関しては、問題がない。
「問題があるとすれば……仕事がなくなったことで機嫌が悪くなっている二人が、家の中でごろごろとしていることか」
 カナードはいいのだが、問題はムウだろうな……とラウは続けた。
「あの男のことだ。本気で何もしないだろうからね、家では」
 誰が片づけると思っているんだ、と彼はまたため息をつく。
「僕も、出来るだけ早く帰ってくるようにするから……」
 だから、とキラはそんな彼を少しでも浮上させようと口にする。
「いや、いざとなったら、あれの面倒はカナードに押しつけるさ」
 カレッジから、仕事を依頼されているからね……とラウはふわりと笑みを浮かべながら視線を向けてきた。
「キラと一緒にカレッジに行くのも悪くないだろう」
 帰りも待ち合わせれば、買い物なども楽だろうしね……という言葉にキラもようやく口元に笑みを浮かべる余裕が出てきた。
「そうできれば、嬉しいです」
 でも、とすぐに小首をかしげる。
「帰ってきたとき、家の中が凄いことになっていなければいいんですけど」
 ムウならやりかねない、と不安になってきた。
「だから、カナードだよ」
 それにラウは笑いながら言い返してくる。
「まぁ、彼等が帰ってきてからの話だけどね」
 それから、まずは話し合わないと。そういう彼にキラは今度は笑みと共にしっかりと頷いて見せた。