キラ達が、その留学生の顔を見たのはそれから一週間ほど経ってからのことだった。
「レイ・ザ・バレルです」
「シン・アスカ、です」
 どちらも、自分たちよりは年下だとわかる。しかし、ここに来られる程度の実力は持っていると言うことなのだろうか。
 それよりも、キラには別のことが気にかかっていた。
 何故、彼はラウに似ているのだろうか。
 そして、何故、彼の紅玉の瞳が気になるのだろうか。
 多分、それはきっと、その色が綺麗だからだよな……と心の中で呟く。あるいは、そこに浮かんでいる光が兄たちのそれに似ているからかもしれない。
 こんなことを考えていたときだ。
「……とりあえず、困ったときにはキラに相談をしなさい。彼女もコーディネイターだからね」
 カトーのこんなセリフが耳に届く。
「教授!」
 反射的に、キラは反論の意をこめて彼の名を呼んだ。
「ここはプラントではなくオーブです。ナチュラルもコーディネイターも同等の存在だ、とわかっていて、彼等はここに留学をしてきたのではありませんか?」
 ならば、せめてこのゼミにいるものには同等に接して欲しい。そう続ける。
「それが出来ないのなら、プラントに帰った方がいいと思いますし」
 留学というのは、周囲との交流も含めてのことではないのか。キラはそうも言った。
「……キラ……」
 それに困ったような表情でカトーが見つめてくる。
「別に、僕が彼等の面倒を見てもいいですよ。その代わり、作業が大幅に遅延する可能性は理解しておいてくださいね」
 にっこりと微笑みながら、キラは彼にこう告げた。
 その瞬間、カトーの顔が強ばる。
「それは……」
「いくら僕でも、あれこれいっぺんに出来ません。今だって、みんなに協力して貰っているから、何とかこなしていられるだけです」
 それでなくても、兄たちには『やりすぎ』と言われているのだ。そう付け加えれば、彼は面白いように顔を赤くしたり青くしたりしている。
「君達も、それで納得できないなら、僕は君達に関わらないから」
 最初にきちんと言っておけ。ラウに言われたとおりに、キラは宣言をした。
「……何だよ……」
 偉そうに、とシンが呟いている。そんな彼の後頭部をレイが軽く小突いた。
「最初にきっぱりと言ってもらった方が、後からあれこれ言われるよりマシだろう?」
 それに、と彼は付け加えながら、キラへと視線を向ける。
「その人の主張は当然のことだ」
 自分たちがいるのはプラントではなくオーブだから……とレイは続けた。
「……そうだけど、さ……」
「それに、そうできるだけの実力を持っているはずだぞ」
 こちらに来る前にカトー教授の論文を読んだだろう? とレイはシンにさらに話しかけている。
「その中に、学生との共著があったのを覚えているな?」
 彼が何を読んだのか。それは想像が付いた。
 しかし、とキラは心の中で付け加える。あれを理解できたのであれば、かなりのレベルだよな、とそうも心の中で付け加えた。
「……ひょっとして、こいつ?」
 少し目を丸くしながら、シンがキラを指さす。
「シン……失礼だろう」
 そんな彼に、レイがあきれたように声をかけた。
「多分、そうだと思うが……違いましたか?」
 それに続けて、確認を求めるかのように彼は視線を向けてくる。
「そうだぞ。キラとサイが、このゼミの中心メンバーなんだから」
 自分のことではないのに、妙に自慢げな口調でこう言ったのは、トールだ。
「それも、みんなのフォローがあるからだよ」
 微笑みと共にこう言ったのは、二人が他のメンバーを軽んじないようにと言う理由からである。それに気付いてくれたのか。ミリアリアが小さく頷いていた。
「と言うように、ここのゼミはみんな協力関係にある。それを壊さないようにしてくれ」
 それだけが自分たちの望みだ、とサイが締めくくる。
「わかりました。気をつけます」
 レイが代表をするようにこう告げた。
 しかし、シンがどこまで納得をしているのか。それがわからない。だから不安だ、とキラは心の中で呟く。
 同時に、彼等に話をするときにはレイに先に声をかけた方がいいかもしれない、とそうも思う。
「それでは、頼むよ」
 どうやら大丈夫と踏んだのだろうか。カトーはこう言うと同時に、自分の研究室へと逃げ込んでしまう。
「教授!」
 そんな彼を、キラ達は慌てて引き留めようと声をかけた。しかし、それよりも先に彼の背中はドアの向こうに消えてしまった。
「……もう……」
 無責任なんだから、とキラはため息をつく。
「こうなったら、今日の分のデーター整理を後に回しちゃえば?」
 ミリアリアがそっと囁いてきた。
「そうしようかな……ともかく、ラボ内の説明をするから」
 最低限のルールだけは守ってね、と視線を二人に向けながら言葉を口にする。それに彼等は頷いて見せた。