同じ情報をラウは別の場所から入手していた。
「……プラントからの留学生……」
 しかも、わざわざカトーゼミに、と彼は顔をしかめる。
「この時期に、というのは、裏に何かあると考えるべきなのだろうね」
 別に、それ自体は構わない。キラに関わらない事態であれば、研究を盗んでいこうと何をしようと、相手の勝手だ、とそう考えていた。
「だが、あの子に危害を加えるなら……」
 ただではすまさない。それなりの対処を取らせて貰おう。
 相手が何者であろうと、自分たちにはそうする義務がある。
「もっとも、何もせずに帰ってくれるのであれば、そのようなことはしないがね」
 下手に動けば、逆にキラの存在を知らしめてしまうことになってしまう。それでは、あの子の安全が保てなくなってしまうのではないか。それでは本末転倒になる。
「とりあえず……万が一のときの算段だけは立てておかないとな」
 キラにはかわいそうだが、最悪、この地を離れることも含めて……とラウはため息をつく。
「そうならないことを期待したいが」
 どうだろうな、と彼は続ける。
「あの子がようやく、心の底から笑ってくれるようになったのに」
 それはきっと、友人達のおかげだろう。
「本当に、無粋な連中だ」
 こう呟くと、再びモニターに向き直る。
「……ともかく、あの二人には一報を入れておかなければいけないだろうね」
 この呟きと共に、ラウはキーボードに指を走らせた。

 そのころ、ムウとカナードはアメノミハシラ、と呼ばれる施設にいた。
「……わざわざ、俺たちをここに呼び出した理由は?」
 自分たちの目的地が別にあると知っていたはずだろう、と不機嫌さを隠さずにムウは言葉を口にする。目の前の相手に表面上取り繕っても意味はないとよくわかっているのだ。
「状況が変わったのだから、しかたがあるまい」
 向こうに言っても空振りになるだけだぞ、と女性にしては低い声でロンド・ミナが笑う。
「空振り?」
 どういう意味だ、とカナードが問いかけた。その表情にもしっかりと不快感が表れている。
「目標がいないから、だ」
 姉に対しこんな態度をとっている自分たちが気に入らないのだろう。ロンド・ギナが即座にこう言い返してきた。
「いない?」
 それはどういう意味だ、とムウは問いかける。
「数日前に出国している。目的は、オーブのカレッジに留学、だそうだ」
 目的地がどこかはわからないが、あの国から留学をする価値があるとすれば、一カ所しかないだろう。そういってロンド・ミナは笑う。
「……ヘリオポリスか……」
 よりにもよって、とムウは顔をしかめる。
「と言うことは……あの子の居場所が連中にばれていたと?」
 あれだけ念には念を入れて隠してきたのに、と彼はさらに言葉を重ねた。
「いや……そうとも言い切れん」
 しかし、それをロンド・ミナが否定をする。
「と、言うと?」
 他にいったいどのような目的があるのか。言外にムウはこう問いかけた。
「お前達はキラのことしか見ていないからな」
 もっとも、それはそれでいい。と言うよりも、それでなくては困る。そういって彼女は笑う。
「……相手がお前でなければ、ぶん殴っているところだな」
 女性を殴るのは不本意だが、それでも許せないこともある。思わずムウがこう言い返せば、ロンド・ミナはさらに楽しげな色を顔に浮かべた。
「ムウ・ラ・フラガ?」
 しかし、ロンド・ギナの方は違う。怒りに拳を振るわせているのが確認できる。
「ギナ。そいつが素直にあれこれ言える性格ではないとお前も知っているだろう?」
 そいつらが素直に自分の感情を伝えるのはキラだけだ、と妙に余裕ありげな口調でロンド・ミナが弟を制止した。
「それに、そいつが怒りをぶつけるのは実力を認めている相手だけだ」
 そうだろうという言葉を、どう受け止めればいいのか。
「そう思いたければ、勝手にそう考えていろ」
 ともかく、こう言い返す。
「そうさせて貰おう」
 本当に、素直ではない……とロンド・ミナはまた笑う。
「ともかく、だ。話を本題に戻すぞ」
 だが、次の瞬間には、彼女は表情を引き締めると口を開く。
「カトーゼミ、だったか。あそこで研究されている作業用の外部骨格システムだがな……あれを兵器に流用したいと考えている連中がたくさんいる。もっとも、そんな申し出は私たちの方で拒否している」
 だが、とロンド・ミナは嫌そうに顔をしかめた。
「別の方法で潜り込まれてはそうも出来ない」
 そして、連中はそれに気が付いたのだ、と彼女は続ける。
「……留学、ですか?」
 同時に、その答えを見つけたのだろう。カナードが確認の言葉を口にした。
「そうだ。その名目では、こちらとしても拒否できない」
「そして、その留学生があれだと?」
 偶然なのだろうか、それは……とムウは顔をしかめながら問いかける。
「正確にはその中の一人だ」
 だからこそ、厄介なのだ。そう彼女は続ける。
「……ムウ……」
 すぐに戻るか、とカナードが問いかけてきた。
「いや……あちらにはラウがいる。当面は任せておいても大丈夫だろう」
 それよりも、自分たちは取れる対処を全て取っておいた方がいいのではないか。ムウはそう言い返す。
「その方がいいだろうな」
 ロンド・ミナも頷いてみせる。
「と言うわけで……もう少し話し合うか」
 自分たちがすべき事を確認するために、と告げるムウに他のものも静かに同意の意を示した。