小さなため息とともに彼はソファーの上に体を投げ出した。
「またハズレだ」
 あそこにはなかった……と告げる声には疲労が色濃く滲み出ている。
「……そうか」
 と言うことは、また移動をしなければいけないな……と言葉を返す。
「あぁ……疲れたなどと言っていられないしな」
 急いで見つけ出さないと、と彼も頷いてみせる。
「でなければ、取り返しの付かないことになる」
 それだけは避けたい。そう彼は続けた。
「あぁ……」
 それに、頷いてみせる。
「そうなったら、宝物が壊されてしまうかもしれない」
 自分たちに残された、唯一の宝物。それも、この世で一番尊敬していた人に預けられたものだ。
「それだけは、命に替えても阻止しないと……」
「もちろんだ」
 だから、疲れたなんて言っていられない。そういいながら、彼は視線を向けてくる。
「お前のことだ。次の目星はついているんだろう?」
 この言葉に、小さな笑いを漏らす。
「可能性があるのは、後三カ所ほどだな」
 さて、どこから行く? と資料が映し出されているモニターを彼の方に向けながら聞き返した。残念ながら、自分の技量ではこれ以上絞り込めなかったのだ。ならば、彼曰く『野生のカン』というのに任せた方がいいのかもしれない。
「三択か」
 まぁ、かなり絞られたよな……と彼は笑う。
「使える施設が限られているのと、今までの場所はきちんと潰しておいたのがよかったのか?」
 さらに付け加えられた言葉に、思わず苦笑を返す。
「かもしれない」
 だが、それも宝物を取り戻すためだ。こちらにしてみれば、当然の権利だ、と思っている。
「と言うところで、どこにする?」
 それさえ決めてもらえれば、内部の構造などを大至急調べ上げるから。そう口にすれば「そうだな」と彼は考え込むような表情を作る。
 やがて、モニターのある部分を指さした。
「ここにしておくか」
 一番遠い場所だから、おそらく油断しているだろうし。そういう彼に頷いてみせる。
「朝までには全ての資料と移動の手配を整えておく」
 だから、休んでくれ。そう続ければ、彼は頷いて見せた。
「頼む」
 この言葉とともに、彼はソファーに横になる。その次の瞬間には、もう、寝息が聞こえた。
「彼にだけ負担をかけるわけにはいかないな」
 自分だって取り戻したい気持ちは同じなのだ。だから、と呟くと、モニターの位置を変える。そして、そのままそれをにらみつけながらキーボードを叩き始めた。

 ほぼ一月の間に、地球軍関連の研究室が数カ所、壊滅状態に追い込まれた。
 最初はコーディネイターのテロか、と言われていたそれだが、その研究所で非合法とも言える実験が行われていた事実を知ると、逆に非難の声は地球軍へと向けられた。
 しかし、そのデーターを送り付けたのが誰なのか。
 どれだけ捜査の手を尽くしても、誰もそれを見つけ出すことは出来なかった。
 しかし、時が経つに連れて、その話題も他のニュースによってかき消されていく。いや、そうなるようにマスコミを操作していたものがいると言うべきか。
 だが、その事実に、民衆は誰も気付いていない。
 彼等は、目の前の平和にしがみつくことで精一杯だったのだ。

 そのまま、時は流れた……