ハッチから降りた瞬間、周囲の者達がキラに向かって敬礼をしてくる。様々な形式のそれに、キラはオーブ風のそれを返した。
「キラさま」
 その中の一人が進み出てくる。
「キサカさん。『さま』はやめてください」
 苦笑とともにキラが言い返す。
「そういうわけにはいきません。けじめは必要ですしね、准将」
 その呼び方もやめて欲しいのだけれど……とキラは苦笑を深める。昔は、自分だけではなくカガリも呼び捨てにしていたのに、とそう思うのだ。
 もっとも、彼が立場や礼儀にうるさいことも知っている。だから、しかたがないとため息をつくだけにしておく。
「カガリは着いているんですね。ラクスと大西洋連合の大統領は?」
 代わりにこう問いかけた。
「まだですよ。ですから、ゆっくりと話をしたいと、代表が」
 個人的なことで、といわれて、キラはまたため息をつく。
「わかりました……いじめられるかな、これは」
「諦めてください。最近、回りがうるさいですから」
 いろいろと、という言葉に含まれた深い意味に、キラは気付いてしまった。ということは、かなり煮詰まっているのだろう、カガリが。
「……ひょっとして、俺、八つ当たりの相手?」
 背後でぼそっとシンが呟く声が聞こえた。ということは、当然彼も一緒に付いてくるつもりなのだろう。
「いやなら、他の場所で待機している?」
 彼の立場であれば、それは当然のことだ。でも、キラとしても身内に恋人がいじめられているなどというシーンはみたくはない。だから、と思ってこう問いかけてみた。
「……そっちのほうがいやだから、付いていく」
 しかし、シンはきっぱりとこう言ってくる。
「それに、キラさんがかばってくれるんだろう?」
 だから、といわれてはこれ以上反対もできない。
「もちろん。じゃ、諦めてね」
 カガリに何を言われても、と言い返せば、シンは苦笑を見せる。それでも、それ以上のことをしてこないのは、きっと、ここに他人の目があるからだろう。
「では、話がまとまったところでいいかな? 疲れているだろうが、こちらも時間的に余裕がなくてね」
 ということは、そろそろあちらも突き上げがひどくなっている、ということなのだろうか。それとも別の理由からなのか、とキラは首をひねる。
「ともかく、行きましょう」
 まぁ、せいぜいシンとのことをからかわれるくらいだし……と思ってキラはキサカを促す。
「……すまんな」
 少しだけ、キラにもなじみのある表情を彼は作る。しかし次にはいつものきまじめそうな表情に戻った。
「こちらに」
 そのまま、キラ達を先導するように歩き出す。
「カガリの愚痴聞きか? 頑張れよ」
 そんな彼等の背中に、バルトフェルドのこんなセリフが届く。
「いっそ、付き合ってもらえばよかったかな」
 というよりも、次は付き合わせよう。そんなことを考えてしまうキラだった。

「やっぱり、キラは可愛いよな」
 キラの頭を抱きしめながら、カガリがこんなセリフを口にした。
「可愛いって、カガリ……僕はもう、そんな年じゃないんだけど」
 二十歳を超えた男に言うべきセリフじゃないだろう、とキラは言い返す。もっとも、女性にそれを言っても無駄だということも知ってはいた。
「いいんだよ! キラはいくつになっても可愛いんだから」
 お姉様にかいぐりさせろ! と口にしながら、カガリは遠慮なくキラの髪の毛をかき乱す。
「はい、そこまで!」
 いい加減にしないと、キラの髪の毛が痛むだろう! といいながらシンがカガリの腕の中からキラを奪い返す。
「……ずいぶんと心が狭いな、お前は」
 そういう意味で触れていないんだから、少しぐらいは妥協しろ! とカガリはシンをにらみつけた。
「キラさんの髪が傷まないなら、別段いいですよ」
 こう言いながら、シンは慎重な手つきでキラの髪を整えていく。その様子を、カガリがものすごく楽しそうに見つめている。
「愛されてるな、キラ」
 そして、こう口にした。
「カガリ……」
「しかし、お前は本気でかわいげがなくなったな。何だ? そんなにでかくなって」
 前の方がかわいげはあった、とカガリはわざとらしいため息をついてみせる。
「俺、まだ成長期だもん」
 キラだって、大きい方がいいと言ってくれた、とシンは言い返す。
「はいはい、ごちそうさま」
 お暑いことで、とカガリはソファーに体を投げ出すようにして座る。そして、手のひらで自分を扇いだ。
「……まったく、ミリィの方もそれなりに春が来ているようだし……アスランはアスランで、笑える状況だしな」
「アスランが、どうかしたの?」
 ここに来てはいないだろうとは思っていたけど、とキラは問いかける。
「あいつ、同年代の友達を作るのを諦めてな。子供達を手なずける方向に走ったんだよ」
 マルキオ様のところで、取りあえず子守に励んでいる……とカガリは笑いながら口にした。
「まぁ、他人との付き合い方を覚えるという点では丁度良さそうだしな」
 もっとも、彼等と同レベルという状況でかなりまずいと思うが……と彼女はさらに付け加える。
「アスラン、面倒見はいいからね」
 ともかく、とキラは苦笑とともに言い返す。
「そうだな」
 まぁ、アスランに関してはこれからだな……と彼女は付け加えた。
「ともかく、状況は好転している、ということだ」
 後は、バカがいなくなればいいだけだろう、と言う彼女に、
「……他にも、厄介ごとがあると思うけど」
 とシンが呟く。
「何を言いたいのかなぁ?」
「胸に手を当てて考えれば?」
 カガリの言葉を、シンはさりげなく受け流す。それが気に入らなかったのだろう。カガリが実力行使を始める。
「仲がいいよね、二人とも」
 そんな光景に、キラはこう言うしかできなかった。