「……頼むから、放っておいてくれよ」 シンがこう言いながらキラの足下に座り込む。 「まぁ、諦めてもらうしかないよ」 自分たちの関係なんてみんなにばれているんだし、それが現在、恰好の娯楽のネタになっているらしいことはわかりきっていることだ。キラは冷静にそう告げる。 「そうだけどさ……」 だからといって、回数とか何かまで聞かなくてもいいじゃん……とシンは呟く。 「ムウさん?」 「そ。根掘り葉掘り聞いてくれるよ」 黙秘権発動させているけど、と彼は付け加える。 「本当にあの人達は……」 自分たちを見守ってくれているのか、それとも波風を立てさせようとしているのか……とキラはため息をついた。 「だって、答えようないじゃん」 最後まで言ったのは、まだ片手の数で足りるくらいだなんて……とシンはシンでぼやく。 「シン君」 それに関しては、自分も悪いのだろうか。キラは思わず悩んでしまう。 だが、最近、またテロリストが騒ぎ出した関係で、自分たちの周囲もごたごたしていたのだ。そんなときにあんなことをできるはずがないだろう、と思う。 「タイミングが悪いって言うのはわかってるけどさ」 シンもそれはわかっていたようだ。 こう言いながら、キラの足下にうずくまるように腰を下ろす。 「軍服が汚れるよ」 そのまま膝に頭を乗せてきた彼に向かって、キラは小さな笑いとともにこう言葉を投げかけた。 「いいよ。キラさんの側にいられるし」 これなら邪魔にならないだろう? といわれてしまえば、キラとしては文句のいいようもない。 「本当に君は」 キラはシンの髪の毛に指を絡める。そして、そっとそのまま梳いた。 「くすぐったい」 くすくすと笑いながら、シンは目を細める。それでも彼は、キラの手のひらに額をすりつけるような仕草を見せた。 「でも、なでられるの、好きでしょ?」 気持ちよさそうにしているから、とキラは問いかける。 「キラさんの手が気持ちいいから、だよ」 他の人なら殴ってる、とシンは言い返してきた。その口調が本当に子供っぽくて可愛らしいと思う。 「なら、甘えてていいよ。これだけ目を通して……指示を出せば、今日の仕事は終わりだから」 もっとも、明日からは別の意味で忙しいけどね……とキラは付け加える。 「今度は、月だっけ?」 会合の場所、とシンは問いかけてきた。 「そう。大西洋連合の代表も出てくるからね。そっちの方がいいだろうという話になったんだ」 まぁ、オーブ軍とザフトも警戒を強めるだろうし、地球軍のメンバーにもこちらのシンパが増えてきたから、少しは楽じゃないかな……とキラは首をかしげてみせる。 「まぁ、キラさんは俺が守るからいいけど」 そういう問題なのだろうか。キラはそう思う。 同時に、彼があのころの自分のように、その気持ちに押しつぶされなければいいとも考える。 「じゃ、僕がシン君を守ってあげるね」 だから、こう言い返す。 「それならおあいこでしょう?」 シンが自分を守ってくれるなら、自分は彼を守るというのは……キラは微笑む。自分だって、守られているだけじゃいやだから、とも。 「そうだよな。キラさんが俺を守ってくれればおあいこか」 くすくすと笑いながら、シンが顔の向きを変えてくる。そして、そのまま彼はキラの膝にキスをしてきた。そして、次はキラの指先を捕まえるとそこにキスをしてくる。 「ダメだよ。まだ仕事が残っているって」 明日は久々の休み――といっても、何かあったらでなければいけないのは当然のことだ――だから、しても大丈夫だけど、とキラは笑みを深めながら彼の手から自分の指を取り返す。 「それに……これをやってしまわないと、明日辺りカガリかラクスから連絡が来るよ?」 二人のイヤミを引き受けてくれる? とキラは彼に問いかけた。 「……それは、いやだ……」 さすがに、とシンは思いきり顔をしかめる。 「絶対、フラガさんとかバルトフェルド隊長達よりもえげつない質問をしてくるんだ」 そして、自分には逆らえないような状況に追い込んでくれるんだ……とシンは呟いた。権力の使い方も間違えているよな、とも付け加える。 「……いい加減、あの二人も誰か特定の相手を見つけてくれればいいんだろうけど……」 それはそれで難しいだろうな、とキラは呟く。カガリはその立場が、ラクスの場合、さらに次世代を生み出すことができるかどうかと言う問題があるはずだ。 それ以前に、彼女たちに出会いがあるかというと悩む。ついでに、彼女たちの場合、目だけは肥えているからさらにハードルが高くなる。 「見た目だけは、二人とも美人なのに」 性格が性格だしなぁ……とシンも苦笑を浮かべて見せた。 「今のセリフは……オフレコにしておいて上げた方がいいよね」 笑いを漏らしながら、シンに確認をする。 「お願いします……」 自分がこんなことを言ったなんて知られたら、絶対ただではすまないだろう……とシンは慌てて口にした。 「大丈夫だよ。せいぜいこき使われるだけじゃないかな?」 でなければ、イヤミの嵐だろうか、とキラは首をかしげながら付け加える。 「それこそ、胃が痛くなるって」 カガリはともかく、ラクスのイヤミは考えただけでも恐い……とシンは呟く。 「なら、少し大人しくしていて。早めに終わらせるようにするから」 この言葉に、シンは渋々ながら頷いてみせる。その頬を軽くなでると、キラは書類に意識を戻した。 |