ひょっとして、これからもう二度とキラに触れることはもちろん、同じベッドで寝ることも許可をされないのだろうか。シンはそう考えて不安になってしまう。 「……どうしたの?」 それが表情に出たのだろう。キラは少しだけ柔らかな視線を向けてくれた。 「嫌われたかなって……」 こんなことを考えているって知られたら……とシンは視線を落とす。 「嫌うって……男なら当然の感情だと思うけど」 それに応えられない自分はともかく、とキラは苦笑を返してくる。 「でも……それは当然のことだし……」 される方の立場を考えれば、とシンは言い返す。 「今の行為だけで満足しているカップルも多いって聞いたし、さ」 だから、自分が我慢すればいいんだろうけど……と思うのだが、やはりキラの熱をもっと知りたいという気持ちが抑えられないのだ。それが、キラに負担を強いる行為でも、だ。 「……でも、もっとキラさんの側に行きたいんだ……」 俺は、とシンははき出す。 「悩んでいたのはそれだけ」 本当にくだらないことでしょう、とシンは苦笑を浮かべる。 「……そう、なのかな?」 くだらないことなのだろうか、とキラは小首をかしげた。 「そうだよ。別段、そういうこと自体ができてないってわけじゃないし……こうして、キラさんを抱きしめるのはいつでも許可してもらえるし」 今の状況を考えたら、このままでいるのがいいのではないか、ということはわかっている。 でも、自分は今、やりたい盛りの年代らしいしなぁ……とシンは心の中で呟いた。だからこそ、フラガ達もあれこれ余計な知識を与えてくれるのだろう――キラの負担を少しでも軽くするために――それをありがた迷惑と言ってしまってはいけないと言うこともよくわかってはいた。 でも、知らなければこんなに悩まなかったのに……と思う気持ちもある。 「そのくらいは……付き合っているなら当然でしょ」 さらりと、キラがとんでもなく嬉しい言葉をくれた。 「……でも、キラさんがいやなら、我慢できることだし……」 それに、キラとしてはそういうことをしたくないような気がする。そう指摘をすれば、キラは頬を赤らめた。 「気付かれているとは、思わなかった……」 そして、こう呟くように口にする。 「キラさんのことだもん。気が付かないわけないって」 ただ、キラはされることすら手一杯のようだったし……それでなくても、快感を与えられることにまだためらいを持っているようだから、とシンは正直に付け加えた。 「……それは……否定しないけど、ね」 キラは視線を落としながら言葉を口にする。 「でも、俺のために頑張ってくれているんでしょう?」 ね、とシンが囁けば、キラの耳が真っ赤に染まった。 「……シン君……」 だが、それは羞恥のためだけだったわけではないらしい。その声に微かに怒りが滲んでいる。 それに気が付いたシンが『しまった』と思ったときには、もう遅かった。キラの機嫌は最悪に近いところにまで行き着いてしまっている。 「キラさん、あの……」 「そういうことなら、僕がシン君を押し倒してもいいんだよ」 女性との経験なら一応あるから……多分、それなりにできると思うけど? と人形のようにきれいな微笑みで宣言してくれた。 「それは、やです」 キラには悪いが、自分としては彼が自分の与える刺激で気持ちよさそうにしてくれる所を見たいのだ。それが嬉しいし、とシンは心の中で付け加える。 確かに、キラに触れてもらうのも気持ちはいいが、その前提条件としてそうである以上、譲れないよな、とも思う。 「俺は、キラさんが気持ちいいと言ってくれる方が嬉しい」 だから、とシンはぎゅっとキラの体を抱きしめた。 「いくらでも謝るから……恐いことは言わないでくれると、嬉しいかなって思うんだけど」 「……恐いことって……」 「だって、俺にとって、二番目に恐いことだもん」 一番恐いのは、キラに嫌われることだ……と開き直ったように口にする。 「本当に君は……」 その後に何と言っていいのかわからない、とキラはため息をつく。 「嫌いになんてならないよ。君の方が僕を嫌いになるかもしれないけど」 そしてこう付け加える。 「だから、そんなことはないってば!」 キラが側にいてくれるなら、絶対に! とシンは言い返す。 「大好きだって……愛してるって、顔を見るたびに言ったら、信じてくれる?」 それなら、いくらでも言うから……とシンは付け加えた。 「……そこまでしなくても、こうして抱きしめてくれるだけで十分だけど、ね」 キラがこう言い返してくる。 「じゃ、キスは?」 そこまではしなくていい? と問いかければ彼が恨めしそうに見上げてきた。 「……今、しても怒らない?」 何か、ものすごくキスしたくなったんだけど……とシンは視線を彷徨わせながら付け加える。 「……キス、までだからね」 それ以上はダメ、とキラははき出す。 「キラさん」 「仲直りの印、かな?」 取りあえずは……と彼は視線をそらそうとする。しかし、そんな彼のあごをシンは指先でそっと押さえた。そして、そのままそっと持ち上げる。 「キラさん、大好き」 この言葉とともに、シンは唇を重ねた。 もっとも、この調子で全てが収まったわけではない。 「最低でも、僕より十センチは身長が高くなってね」 人のことを押し倒そうとするなら……と微笑みながら、キラはさりげなく宣言してくれる。 「キラさん!」 「ついでに、抱き上げて運べる程度の力は付けてくれるといいかな〜」 だから、その条件は何なのか……とシンは思う。だからといって、ここで下手に反論をして本気であれこれ禁止をされたら、それこそアスラン以上に暴走しかねない、とも考えてしまうのだ。それでは、キラに迷惑がかかってしまう。 「……わかりました! でも、俺、今、成長期ですからね!!」 既にキラより三センチは高いですから! とシンは言い返す。 「すぐに大きくなって見せます」 こう宣言をした。 翌日から、ひたすら牛乳その他を摂取するシンが見られたのはご愛敬というものだろう。 |