だからといって、周囲の人間がそんな状況で納得してくれるはずがない。というよりも、いい加減もどかしく思っていたのではないか。 それはわかっているのだが、今の状況で満足しているのだから、このままでいいような気がする。キラはそう考えていた。 しかし、そういうわけにはいかないらしい。 「なんつーかさ」 同じテーブルで食事を取っていたディアッカが苦笑とともに口を開く。 「あいつのことが片づいたら、トントン拍子にまとまるかと思ってたんだが……」 少しは進展しているわけ? と真顔で彼はシンに問いかけている。自分にではないのは、きっとはぐらかされるとわかっているからだろう。 「ちょっと、ディアッカ!」 そんな彼の隣に座っているミリアリアが、あきれたようにディアッカの肩を叩いている。 「ミリィだって、そういっていただろうが」 いいところまで言っているようだけど、とそうも付け加えただろう! と彼は即座に言い返す。 「あんたね!」 一言多いの! というと同時に、ミリアリアは遠慮なくディアッカの足を踏みつけたらしい。それでも悲鳴を上げないのはさすがと言っていいのだろうか。 「……僕たちがどうしているか、なんて、気にしなくてもいいでしょう?」 ともかく、と思いながらキラは口を開く。 「仕事に支障を来しているわけじゃないし……自分たちのペースで進めちゃダメなの?」 シンとの仲は、確かに進展しているとは言い難い。 でも、それは行為を伴うことに関しては、だ。気持ちの方はあれからさらに近づいていっているような気がする。 それでも、何というのか、越えられない一線というのが目の前にあるわけで。それがキラがさらに進もうとすることをためらわせていることも事実だ。 しかし、それをいくら目の前の二人とは言え、口にするのははばかられる。 そして、シンも同じ気持ちなのだろう。 「プライバシー尊重っていうのは、基本じゃないんですか?」 いくらディアッカでも、答えられないことがある……と彼もまた言い切っている。 「それはわかっているんだけどな……」 こう言いながら、彼は視線を彷徨わせる。 「こっちとしても、いろいろとあるんだよ」 無能ものといわれちゃったしなぁ……と彼はさらに付け加えた。 「そういうことに関しては、ラクスさんも容赦ないものね」 カガリもだけど……とミリアリアがはき出す。 それだけでも、キラには二人の背後にあるものはわかってしまう。そして、それに彼等――特にディアッカ――が逆らえるかと言えば、答えは『否』だろう。 「……議長とあいつかよ……あいつの方は、キラさんの姉だって言うから妥協してもいいけど……」 何でラクスまで気にするんだよ、とシンはため息をつく。 「……シン、お前なぁ……」 その言葉を耳にしたディアッカが、これ幸いという表情を浮かべて言葉を口にし始める。 「何で、カガリのことをいまだに名前で呼ばないんだ?」 けっこう仲良くやっているだろう、とディアッカはさらにつっこむ。 「……そういえばそうだよね」 キラも今更ながらにその事実に気が付いた、というように呟く。 「でも、それに関してカガリが何も言っていないから、気にしなくていいと思うけど?」 本当に気に入らなければ、彼女のことだ。自分が望む形に実力行使で変えるに決まっている。しかし、それをしないということは、彼女が気にしていないだろう。キラはそう判断をした。 「そうかもしれないけど……やっぱり、示しがつかないんじゃねぇ?」 公的な場でそれじゃ……とディアッカが言い返してくる。 「……そういうときは、ちゃんと『代表』といってるよ。本当は、あんまり言いたくないけどな」 自分にとって、まだ《アスハ》は許せないことがあるから……とシンは呟く。それでも《カガリ》の存在は妥協できるようになったのだ、と彼は続ける。 「……それはしかたがないよ。人の心なんて、そう簡単に変えられないんだから」 それでも受け入れようとするだけシンの精神は柔軟だ。そして、それが彼の美点でもある、とキラは思っている。 先日、現状を受け入れさせるのにそれこそ二カ国のトップと三つの組織を巻き込んで大騒動を繰り広げさせた幼なじみと違うのはそこだよな、とも心の中で付け加えた。 「カガリさんは、本当、気にしてないわね」 人目があるところでだけきちんと体面を整えられれば、とミリアリアは口にする。 「公私の区別さえ付けていれば、か」 カガリらしいな、とディアッカも頷く。 「でもな……俺たちに押しつけた内容は、公私混同にならないのか?」 今更ながら気が付いた、というようにディアッカがぼやいた。 「それこそ、今更でしょう。第一、あの二人に勝てるつもりなの、貴方は」 あきらめろ、とミリアリアは的確なセリフを口にしている。それに、シンだけではなくキラも苦笑を浮かべるしかない。 「まぁ、あの二人は好きにさせるしかないよ」 下手に反対をすると、それこそ何をしでかすかわからないから……とキラはその表情のまま告げる。 「権力を、無駄に使っているよな」 キラが心配だからってさ……とシンはシンでぼやいて見せた。 「まぁ、それこそ諦めるしかないな」 キラには身に覚えがあるだろう、とディアッカがはき出す。 「……まぁ、否定できないけどね」 あの二年間のことがあるから……とキラは苦笑を深めた。 「でも、今はもう、心配いらないんだけどな」 一人じゃないから……と言う彼に、誰もが微笑んでみせる。そして、シンはしっかりとキラの側に寄り添ってきた。 「まぁ、進展しているようだ、と報告はしておくよ」 そんなキラ達の様子を見てディアッカがこういう。 「ついでに、焦らせるとキラが逃げ出すかもしれない、とな」 「ディアッカ!」 本当に、どうして彼には自分が考えていることがわかるのだろうか。アスランよりも付き合いが短いはずなのに、と思いながらもこう怒鳴ってしまうキラだった。 |