フリーダムと新型、それにフラガとバルトフェルドの機体は組織の中でも別格だから、だろうか。ルナマリア達の機体とは別の場所に収納されている。それはきっと、これらの機体のシステムをキラが手がけていることと関係しているはずだ。 実際、これらの機体に関してはマードックが直接、整備の指示を出している。彼か機体のパイロットが立ち会わない限り、他の者達は触れることすら許されない。 それだけ厳重に管理しなければいけない理由も、シンにはわかっていた。 機体のスペックも高いが、それ以上にキラが作り上げたシステムが秀逸なのだ。 もし、これを解析することができれば、ジンでもザク以上の性能を持つことが可能なのではないか。 それが可能だとは思わないが、不可能だとも言い切れない。 誰かがそれを行うことができれば、世界はまた混乱の渦に巻き込まれてしまうだろう。 キラ達はそれを心配しているのではないか。 だが、逆に言えば、そんな機体を預けられている自分は、キラに信頼されていると言うことだろう。 「……そっちの方が重要だよな、俺には」 恋人になるだけでは足りない。 仕事の面でも彼から信頼を勝ち得て、なおかつ側で守れるポジションを獲得しなければ、自分は満たされないことをシンはわかっていた。 キラが自分を「必要だ」と言ってくれたというときから、その目的に向かって行動をしてくれたのかもしれない。そして、少なくとも後者に関しては成功しているように思える。 しかし、問題は前者なんだよな……とシンは心の中で呟いた。 拒まれてはいないが、受け入れてもらえるかというと疑問だ。 いや、行為に関しては受け入れてもらえているのかもしれない。少なくとも、快感を追っているときのキラは積極的にすがってくれているし。しかし、それが正気の時にはなかなか感じられないのは辛いのだ。 無意識には頼ってくれるのに。そうも思う。 それとも、何か理由があるのか。 そういえば、話をしようと言われたのに、できていなかったな……とシンは思う。半分はアスランのせいだが、後の半分は、間違いなく自分のせいだろうという自覚はあった。 二人だけになると、ついついキラの気持ちいい顔を見たくなってしまう。 それでも、それ以上の行為にまではさすがに及べない。キラが完全に受け入れてくれないのにそこまでやってしまうのはルール違反だと思えるからだ。 しかし、アスランのことも片づいたし、少しは機会が増えるだろうか。シンはそんなことを考えながら、ラクスとカガリに説明をしているキラへと意識を戻した。 「……取りあえず、ここの機体には、パーソナルデーターでロックを解除するシステムも組み込んであるから、システムだけ解析されても機体は使用できないようになっているよ」 このシステムに関しては、ザフト及びオーブ軍に提供可能だけど、とキラが付け加えている。 「だが、それでは、パイロットに何かあったときに困らないか?」 「だね。この四機に関しては、もう、それは除外してあるからいいけど……そちらに提供するときには、他に二人分ぐらい登録できるようにしておくよ」 整備のチーフとかその他の人間の分を。後はパスワードで設定を変更できるようにしておけばいいかな? と小首をかしげるキラは可愛いと思う。 「なるほど。それならば、いざというときに設定を変更してしまえばいいか」 一度システムをフォーマットしなければいけなくなったとしても、奪取された機体が敵に使われるよりはマシだ、とカガリは頷く。 「そうですわね。そうなれば、テロリストは新しいMSを自作する以外に入手する方法がなくなりますわね」 もっとも、ジャンク屋ギルドからは何か言われるかもしれないが……とラクスは付け加えた。 「かまわないだろう。その時には武器の使用を制限したOSを組み込んで渡せばいいだけだ」 もしくは、システムがない状態でもいいかもしれない。彼等であれば、自前で何とかできるだろうしな、とカガリが言い返す。 「その通りです。彼等の技術力には一目置く必要があります」 さりげなくイザークが口を挟んだ。 「実力もね。やっぱり、自分たちの力だけで全てを解決できないと仕事にならないからかな?」 「そうだろうな。敵に回すと厄介な連中だ」 だからといって、排除もできん……とイザークは苦虫をかみつぶす。 「連中がいるからこそ、助かっている面は否定できないからな」 自分たちの目の届かない危険を彼等が排除してくれていることも事実だ、と彼は付け加える。 「彼等は、自分たちが納得しない契約は行わない。犯罪性がある仕事も引き受けていないから、大丈夫だろう」 実際、現状では自分たちは手一杯で、手が回らない部分を彼等が補ってくれている以上、何も言えないだろう、とカガリは告げた。 「どちらにしても、キラが作ってくださったシステムがあれば、問題はかなり減るのではありませんか?」 ラクスが微笑みとともにこう言ってくる。それは、おそらくそれに関する話題はそこまで……と言う意味なのではないか、とシンは判断をした。 「それよりも、いい加減、この機体の名称を教えていただけません?」 いつまでも『新型』では、言いにくいだろう……と彼女は微笑みとともに付け加える。 「そうだね」 その話は後でゆっくりとしようか、とキラはイザークに問いかけた。それに、彼も頷いてみせる。 「確かに。どうせなら、オーブ軍の代表も交えて話を詰めた方がいいだろう」 いっそのこと、こちらに取り込んでしまってもいいだろうしな……と彼は付け加えた。 「それは難しいと思うけどね。まぁ、マルキオ様に間に入っていただければ、話し合いのテーブルには着いてもらえると思うよ」 もっとも、その後のことはその時次第だろうが、とキラは付け加える。 「それで十分だ」 相手のことを知ることが一番の目的だからな、と言いきるイザークにキラは微笑みを浮かべ、脇に控えていたディアッカはため息をつく。 「システムについても、後で相談だな」 まぁ、それはディアッカに任せておくか……とイザークはそんな彼をにらみつけながら付け加えた。 「もう少し、お前に貸し出してやってもかまわない」 既に所有物扱いですか、とシンは心の中で呟いてしまう。 「イザーク、おい!」 今度は無視できなくなったのだろうか。ディアッカが慌てて口を挟んだ。しかし、イザークは気にする様子を見せない。 「そいつの性能は昨日みせてもらったが……いろいろと興味はあるな」 ファクトリーとモルゲンレーテが協力をして開発した機体が凄いのか、それともキラの作ったOSの方か。イザークは本気で考え込んでいる。 「……ハヤブサ、だよ」 微笑みとともに、キラがシンとともに決めた機体の名前を口にした。 「キラ?」 「この機体の名前。ハヤブサ、と付けたんだ」 さらに深められた微笑みに、シンは思わず見とれてしまう。 「いい名前だな」 「そうですわね」 「……オーブ風というのは気に入らんが、確かにそうだな」 なし崩しに披露されてしまったそれに、誰もが苦笑を禁じ得ない。それでも、こう言ってくれる彼等に、キラは満足そうな表情を作っていた。 |