いったい、どうしてここにこんなものが……とアスランは思う。 それ以上に、この状況をこのメンバーに見つめられているのがいやだ、とそう思う。 「いいざまだな、アスラン」 あきれたようにイザークがこう言ってくる。 「まさか、お前がここまでバカだったとは……あまりにわかりやすすぎてあきれる以外できないな」 今度のことで、本格的にキラには見捨てられたかもしれないな、と彼は続けた。 「キラはそんなこと、しない!」 この程度のことで、キラが自分を見捨てることはない……とアスランは言い返す。 「……キラじゃなく、お前の方がキラに甘えていたんだな」 不意にディアッカがこんなセリフを口にした。 「俺がキラに、甘えていた?」 何を言っているんだ、とアスランは真顔で言い返す。いつだって、キラが自分に甘えていたはずだ、と。迷惑をかけられたのも振り回されたのも自分だし……とも付け加える。 「でもさ。そうしてくれることでお前が安心できたんだろう?」 しかし、ディアッカのこの一言にアスランは呼吸が止まるような衝撃を受けた。 確かに、キラが自分に甘えてくれることで安心できていたことは否定しない。 しかし、それは自分が彼に甘えていたからではなく、そうしてくれることでキラが安全な場所にいてくれることが確認できたからだ。 そう。 あのころのキラにとって安全な場所は自分の側にしかなかった。だから、自分たちはいつでも一緒にいたのだ。 お人好しでつけ込まれやすいキラの面倒を見ているのが、自分にとっては当然のことになったのも、それが原因だったはず。 しかし、それは自分がキラに甘えていただけだったのか。 「何を馬鹿なことを言っている……」 そんなことがあるはずないだろう、と言い返す自分の頬が、どこか引きつっていることに、アスランは気付いてしまった。 「甘えていたのは、キラの方だ」 しかし、本当にそうなのか……と言う声がアスランの中で響き始めている。 「貴様がいなくなってから、キラは自分一人で物事を解決できるようになったのにか?」 アスランに甘えていたのは、彼がそう望んでいたことをキラが知っていたからではないか。イザークはそういいきる。 「お前と離れて、今までの自分ではいけないと思ったからこそ、キラは新しい友人を作ることを選択したのではないか?」 そして、キラが努力したからこそ、いい友人達が彼の側には集まった。 「ナチュラルとはいえ、それなりに認められる者達があいつの回りには大勢いる。ハウ嬢も、こいつの相手として考えても十分認められる存在だしな」 まぁ、どこぞのバカは捨てられたようだな……とさりげなく付け加えられた瞬間、ディアッカが思いきり顔をしかめた。 「その原因が誰にあると思っていやがるんだよ、お前は」 お前のせいでふられたんだろうが……とディアッカがぼやく声が聞こえる。しかし、この場で追及しても意味がないと判断しているのか。それ以上追及する様子はない。 「しかし、貴様は、その努力すらしなかったのではないのか?」 アカデミーでも、十分にその機会はあったはずなのに、他人に対し壁を作っていたのはアスランの方だ、とイザークは付け加える。 「ニコルもラスティも、必死に歩み寄っていただろうが。それでも、貴様は最後の最後であの二人を受け入れなかった。キラとの違いはそこだ」 受け入れていれば、ヘリオポリスで何があったのか、キラ達があの時どのような状況にあったのか、彼等に相談していたはずだろう……とイザークは口にする。 「結果的に、キラ達がいたからこそあの時、戦争を終わらせることができた。しかし、その結果、あいつらがどれだけの傷を心に負ったかは、お前もよく知っているだろうが」 全ては、貴様が他人の手を拒んだせいだ! とイザークは言い切る。 「イザーク、落ちつけって」 そのままイザークが振り上げた拳をアスランに向けようとした瞬間、ディアッカが背後から押さえた。 「あの時、誰もそれを指摘してやらなかったんだからさ」 それもこいつの馬鹿さ加減を増長させたんだろうな、と彼は付け加える。 「だから、バカが治らなかったのか」 吐き捨てるようなイザークの言葉に、アスランは唇を噛んだ。 あの時のことを、改めて突きつけられれば否定できない。その結果、キラが一番辛い道を選択せざるを得なかったことも、同様だ。 それでも、まだ完全に認めるわけにはいかない。 「……いっそ、キラから恨み言を言われていれば、一発で納得したんだろうが……あの戦争の後の彼奴の様子を見ていれば、それが難しかったことも納得できるからな」 キラについては、批判できない……とイザークは結論づけた。 「だが、お前は違うぞ、アスラン」 誰も現実を指摘しなかったことで、また間違えたのであれば、今こそそれを正してやらなければいけないだろう、と彼は視線を向けてくる。 「キラだけではない。周囲の者達のためにもな」 いや、世界のためにも……と言うべきかと彼は意味ありげな口調で付け加えた。 「まぁ、キラの精神が安定していると、お姫様二人も落ち着いているよな」 そう考えれば、あながち間違ってないか……とディアッカも頷く。それに関しては、アスランも否定はできないと思う。 「そのためには、キラがかならず自分を選ぶという、お前の考えを捨ててもらわないといけない」 キラにとって、アスランがかならずも必要ではないのだと本人が認識しないといけないだろう、という言葉には、頷けない。 だが、他の誰もがそれを自分に強要する。 それはどうしてなのか。 「キラは、自分一人で選択をすることが可能だ。そんなキラの側に必要なのは、キラの選択を認め、それを後押しできる人間だろうが」 どれだけ有能でも、キラの先回りをしようとしてその邪魔をするような人間は必要はない! とイザークは続ける。 それに反論をしなければいけない。 そうしなければ、自分はその状況を受け入れたと判断されかねないのではないか。 しかし、何故か言葉を見つけ出せないアスランだった。 |