アスランに与えられたのは、おそらくキラの部屋から一番遠い場所にあるであろうと思われる部屋だった。しかも、ご丁寧に外からロックをかけてくれているらしい。
「……キラと、二人だけで話し合わないと……」
 もちろん、そんなものアスランにとっては障害でも何でもないというのは事実だ。
 彼にとっての障害は、やはりキラの周囲にいる者達だろうと考える。
「もっとも、ものすごく難易度の高い障害のようだがな」
 ラクスとカガリはもちろん、あの時からキラの周囲にいる者達は自分何かよりも経験が豊富だ。ナチュラルだろうと侮ってはいけないと言うこともよくわかっている。
 その上、イザークとディアッカの二人もあちら側だ。完全に自分の手の内は読まれていると言っていい。
 これは、やはりカガリにレジスタンスで使われていたテクニックを習っておくべきだったか。そんなことまで考えてしまう始末だ。もちろん、それでは意味がないということもわかってはいるが。
 それでも、とアスランは心の中で呟く。
「俺は、キラと二人だけで話をしたいんだ」
 考えてみれば、もう長い間キラと二人だけで話をしていない。
 だから、自分たちの間には溝ができてしまったのではないか。そんなことも考えてしまう。
 そして、その溝にちゃっかりとはまってくれた存在もいる。
「……そんなこと……」
 許せるはずがない。
 キラの隣にいるべきなのは、自分でなければいけない……とアスランは思う。
「でも、キラは……それを望まないのか?」
 それとも、これもまた、自分が作った思いこみなのか。アスランの心の中に、初めてそんな感情が生まれる。
 自分が知っている《キラ》と、目の前にいるキラに差違を感じたのは今日が初めてだったのだ。確かに、今のキラは自分のイメージしていた彼よりもしっかりしていることは否定できない。
 それでも、アスランの中でキラはまだ『守らなければいけない』存在なのだ。
「……お前と離れて、俺が幸せになれるはずがないだろう……」
 自分以外の誰かを見つけろ、とキラは言った。
 だが、それが自分の幸せにつながるとはアスランには考えられない。
 それについても、キラと話し合わなければいけないだろう。
「話をすれば、絶対、キラはわかってくれる」
 今までだってそうだったのだから、今回だってそうに決まっている。
 何よりも、キラのことを一番理解できるのは、間違いなく自分だけなのだ。
 自分が目をそらしていたことがあるのなら、それを治すこともやぶさかではないし……と思う。もっとも、それは他の連中に吹き込まれただけだという可能性もあるだろう。
 だから、とアスランは立ち上がる。そして、ロックを解除するために行動を開始した。

 どうしてこういう事になったのか。
 気が付けば同じベッドの中にいた。
「んっ……」
 しかも、先ほどからキスを何度も繰り返されて息継ぎも満足にできないほどだ。
「……やっ……もっ……」
 それだけならまだしも、中途半端に体の熱を煽られているのは辛い、とキラは思う。だからといって、これ以上の関係に進むのはまだ恐いし、とも。
「本当に、いや?」
 いやなら、やめるけど……といいながら、シンはそっと手をキラの中心に添える。
 そこは、既に形を変えていたことはキラも気付いていた。それだからこそ、恥ずかしいのだ……とシンは察してくれるだろうか、とキラは思う。
「……キスだけ、なのに……」
 どうして……と、そうはき出してしまった。
「相手が、俺だから?」
 それならば嬉しい、と囁きながら、シンはゆっくりと手を動かす。しかし、それはあくまでもキラの状況を確認しているだけらしい。他の意図は、今の動きからは感じられない。
「……ふっ、ぁっ……」
 それなのに、自分の体は勝手に快感を拾い出そうとする。
「感じてる?」
 ねぇ、とシンは問いかけてきた。
「……聞く、な……」
 そういうことは、とキラは視線を背ける。そうすれば、シンの視線の先にはキラの耳がさらされることになった。
「どうして?」
 教えて……とシンの声が直接そこに吹き込まれる。同時に、彼の唇がそっと耳たぶを挟んできた。
「ふぁっ!」
 その刺激に、びくん、とキラの体がはねる。
「……どこで」
 そんなことを覚えてきたのか……とキラは思う。少なくとも、夕べのシンは、もっと直接的な刺激しかしなかったではないか。それとも、それには何か理由があったのだろうか……とも思う。
「キラさんが耳が弱いって、本当だったんだ」
 しかし、シンはあっさりと答えを与えてくれる。
「あいつが何を考えているのか、まじでわからねぇけど……今回だけは感謝かな」
 犯人はカガリか! と言いたい。だけど、今口を開けばとんでもない声しか出ないような気がする。だから、キラは逆に唇をかみしめた。
「ねぇ、キラさん。ここ、触っていい? 最後まで、しないから」
 だが、シンがこう言いながら刺激を加えてくれば、すぐに唇はほどかれてしまう。
「……バカ……」
 恥ずかしいから、そんなことを聞くな……とキラは言外に付け加える。
「俺、バカだから……勝手に誤解するよ」
 こう言うときだけきちんと自分の意をしっかりと読み取ってくれるのはどうしてなのか。
 だが、そんな思考も、シンが与えてくれる刺激にあっさりととけてしまった。