そのままずるずると部屋に引きずられると、キラはシンとともに中に押し込まれた。
「カガリ!」
 何をするんだ、とキラは彼女を見つめる。
「ということで、明日、な。目の下の隈が消えてなかったら、ラクスと二人でお小言だからな」
 だから、きちんと休ませろよ……とキラにではなくシンに向かって彼女は口にした。
「何で、シン君に……」
「お前があてにならないからだ」
 そういうことに関しては、とカガリは言い切る。
「どういう手段を使ってでも、キラを寝かせろよ、シン」
 ただし、明日は時間通りに動けるようにさせろ……と付け加えられて、シンは思わず顔を赤らめる。それがどのような意味を含んでいるのか、わかったのだ。
 いや、勝手にそう思ってしまっただけかもしれない。
「……カガリ、あのね……」
 だが、キラも何か困ったような表情でこう言っているところを見れば、自分の勘違いというわけではないのではないか。シンはそう思う。
「ともかく、お前は寝ろ。というか、部屋の中に入れ!」
 こんなところで時間を潰すわけにはいかないだろう……という言葉の裏に隠されている意味にキラも気が付いたようだ。小さなため息をつくと頷く。
「後で、じっくりと話し合おうね、カガリ」
 それでも素直に納得したくないのか。こんなセリフを口にした。そういうところが、どこか可愛いと思う。
「のろけか? まぁ、聞いてやる」
 その時には、自分ものろけ返せるようにしておくから、少し時間をよこせ……と切り返してくるとは予想もしていなかった。
「……カガリ……」
「あれに見せつける意味でも、いい男を捕まえておくか……とラクスと話し合っているからな」
 周囲を見なかったことを後悔させてやろうという話になっているのだ、と彼女は呆然としている二人の前で豪快に笑い飛ばす。
 こういうところが、いつまで経っても女性陣に勝てない理由なのだろうか……とシンは考えてしまった。
「……カガリもラクスも、美人だから」
 すぐに見つかるよ……とキラは微笑む。
 確かに二人とも美人だけど、性格的にどうなのだろうか。そんなことを考えても、絶対に口に出してはいけない。身の危険が……というよりも一応、女性に対する礼儀として、だ。
「任せておけ」
 カガリがこう言ってキラの肩を叩いている。
「じゃ、ゆっくり休め」
 こう言って、カガリは部屋から出て行く。それを関知したドアが自動で閉まった。それを見て、シンは無意識にロックをかける。
「……本当に、カガリもラクスも……」
 人ごとだと思って楽しんでいるな……とキラは頬をふくらませた。
「反対されるより、俺はいいけどな」
 あの二人に反対されたら、自分は簡単にキラの側から排除されそうだし……とシンは苦笑を浮かべる。
「シン君?」
 そんなことはないよ、とキラは言い返してくれた。
「キラさんはそういってくれるけど……アスランに対する態度を見ていると、ちょっと恐くなって」
「……それは、アスランがバカだから……だろうね」
 シンの言葉に、キラは小さなため息をつく。
「まさか、あそこまでひどかったとは、僕も思わなかったし」
 というよりも、表に出ていなかっただけなんだろうね……とキラは付け加える。
「取り返しが着かなくなる前にわかってよかったんじゃないのかなって、思うけど」
 今なら、アスランもまだまだやり直しができるだろうから、とシンはキラの肩にそっと手を置く。
「それよりも、キラさん、本気で休んだ方がいいよ。シャワーはさっき浴びたから省略してもいいだろうけど」
 それとも、浴びる? とシンはキラに問いかけた。
「いいよ。シン君は?」
「俺もいいです」
 浴びるなら、明日の朝でもかまわないだろうし、といえばキラも頷いてみせる。
「じゃ、寝ようか、もう」
「ですね」
 キラの言葉にシンは即答を返す。
「その前に」
 だが、ふっとあることを思い出して言葉を口にする。
「何?」
 どうかした? とキラは聞き返してきた。その表情に、少しだが不安が浮かんでいることに気が付いて、シンの方が慌ててしまう。
「たいしたことじゃないんだけど」
 キラさんにお願いがあって……とシンは笑う。
「お願い?」
 何、とキラはくりんと首をかしげた。その様子がものすごく可愛いと思う。普段とのギャップも大きいけれど、それが魅力的だよな、とも。
「簡単なことだけど……キラさんの協力が必要だから」
 だから、お願いしないと……とシンはさらに笑みを深める。
「僕にできること?」
「もちろん」
 というか、一人じゃできないから……とシンは口にしながら、そっと顔を近づけていく。そして、鼻先が触れあいそうになったところで止まった。
「キスして、いい?」
 そこでこう問いかける。
「バカ」
 そういうことを聞かれても困る、とキラはまぶたを閉じた。それでも、そこから動こうとはしない。
「じゃ、勝手にするから」
 キラさん、素直じゃないから……と心の中で呟きながら、シンはそっと唇を重ねた。