我に返ったアスランが何をしでかすかはわからない。だからといって、予定をかけてカガリ達が変えると言うこともできない、というのは面倒だ。シンはそう思う。 「ともかく、だ」 固まったままのアスランをディアッカが連れ出したところで、バルトフェルドがゆっくりと口を開く。 「あいつにも時間が必要だろうが……万が一のことを考えると、お前は部屋にいない方がいいと思うが」 まぁ、トラップを解除していないというのも理由の一つだがな、と彼は楽しげな口調で付け加える。 「……バルトフェルドさん?」 「というわけで、今晩もシンの部屋で過ごすんだな」 アスランが動くとすれば、今晩だろうし……という言葉に、誰もが納得をした。自分でも、こう言うときには少しでも早くキラの気持ちを変えてもらおうと思うに決まっている。そういうことに関しては、よく似ているのかもしれない、自分たちは。 「でも」 言葉を口にしながら、キラは首をかしげる。 「ばれたときの方が恐いと思うんですが……」 それこそ、ここを破壊しそうで……と彼は告げた。 「何。お前がどこにいるかはみなが口をつぐんでおけばいいことだ」 今日だからこそ可能だがね、とバルトフェルドは即座に言い返してくる。 「アスランのことだ。どうせ、君の部屋の場所ぐらい、もう特定しているだろうからね」 だから、真っ直ぐにそちらに向かうだろう……と彼は断言をした。 「ということは、トラップに引っかかる可能性が高いと言うことだよ、キラ。その後でなら、君がどんな服装で駆けつけてもごまかしようがある」 どのみち、自分かフラガが先に行って対処してからでなければ、キラを近づけさせるようなことはしないが、とも口にする。 「それに関しては、シンにも協力してもらうが」 かまわないな? とバルトフェルドは視線をキラからシンへと移してきた。 「もちろんです」 キラを危険にさらすようなことは――その原因がアスランだとしても……いや、それだからこそ――してはならない、とシンは頷き返す。 「だから、僕は子供じゃないんだけど」 自分の身ぐらい自分で守れると思う……というところがキラらしいといえば、キラらしいのか。 「でも、俺が安心できるんだけど」 守らせてもらえば……とシンは言い返した。こう言えば、キラが妥協してくれるとシンだって学習しているのだ。 「……そういわれたら、反論できないけど……」 それでも、とキラがぶつぶつ呟いている。しかし、これで大丈夫だろう、とシンは思う。 「ということで、こっちは決まりだな」 他のものもかまわないな、とキラを無視してバルトフェルドは周囲の者に確認を求めている。 「あぁ」 「もちろんですわ」 女性陣――と言うよりは権力者といった方が正しいのか――二人が頷いてしまえば、もう話は決定したも同然だ。 「……あのね、二人とも」 まだ文句を言えるのは、やはりキラだけだろう。 「僕、男なんだけど……」 何か、ゲームのヒロインポジションだよな……と唇をとがらせている。 「ということは、ラスボスがアスラン?」 思わずシンはこう言い返してしまう。 「アスランでは力不足ですわ」 せいぜい中ボスぐらいでしょう、と笑いながら口にするラクスの知識はどれだけ広いのだろうか。彼女がゲームをするとは思えないから、と勝手なことをシンは考えてしまう。 「そうだな。アスランなら、魔女に使われている下っ端がいいところだ」 カガリであれば、まだやりそうだよな……と心の中で呟く。もっとも、その時間があるかどうかはわからないが。 キラですらあれだけ忙しいのだ。 国を背負っている彼女たちの忙しさは、その比ではないような気がする。プラントのように役割分担がきちんとしている所とは違って、オーブはカガリの決済がなければ何も進まないはずだし、とも。 そう考えると、凄いのだろうか、彼女は。 アスハじゃなければ、無条件で尊敬できるのにな……と心の中で呟いてしまうのは、まだ、あの時の衝撃がしこりとなって残っているからかもしれない。それでも、キラ達と出会う前よりはそのしこりは小さくなっている。 だから、きっといつかは、ちょっとした胸の痛み程度になってくれるのではないか。 シンはそう考える。 キラの家族である以上、そうなってくれた方がいいだろう、とも。 「ともかく、明日は予定通りでいいんだな?」 確認のためにバルトフェルドがこう言ってくる。 「そのはずですが……でも、あちらの対処がありますから」 微妙に変わるのではないか、とキラが言い返す。 「まぁ……ダコスタ君とラミアス艦長達が行かれたんだ。適切な対処を取ってくれるだろう」 任せても大丈夫だろう、とバルトフェルドは笑う。 「それに、ここにお前達がそろっているんだ。話は早いだろうな」 相談と決定がすぐにできる。そうなれば、後は指示を出すだけだろう、と彼は付け加えた。 「まぁ、そうですけど」 でも、とキラはさらに言葉を重ねようとする。 「というわけで、シン。キラを連れていけ。アスランが出てくると厄介だ」 そのまま部屋に閉じ込めておけ……という言葉に、シンはしっかりと頷き返した。同時に、キラの腕に自分のそれを絡める。 「シン君?」 何を、とキラは慌てたように問いかけてきた。 「許可が出ましたから、部屋に行きましょう?」 アスランが出歩かないうちに……とシンは口にしながら、歩き出す。 「でも!」 「いいから、いいから」 反対側の腕をカガリが掴んだ。そのまま、シンと歩調を合わせて歩く。 「カガリまで〜!」 キラの叫びだけが、その場に残された。 |