ようやくキラに会える。
 というよりも、どうして今まで会わせてもらえなかったのか。そっちの方が疑問だ。
 そして、キラも、どうして自分がこういう状況にあるというのにフォローしてくれなかったのだろうか、とも考えてしまう。
 自分を優先しないと言うことが、キラの本音なのだろうか。
「そんなことは……」
 ない、と思いたい。
 もしそうだとしても、きっと、責任者としての立場がそうさせたのに決まっている。いや、きっとそうなはずだ……とアスランは結論を出した。
 でなければ、キラが自分を後回しにするはずがないんだ、と心の中で呟く。自分が彼を後回しにしたとしても、キラが自分を後回しにした事はないんだ、とも。
 いや、全くなかったわけではないな……と不意に思い出す。
 しかし、それにはかならずラクスとカガリが関わっていた。そして、その二人は今ここにいる。
「……あの二人じゃ、しかたがないのか」
 自分だって、あの二人には逆らえないのだし……とアスランは小さなため息をつく。
「っていうか、あの二人に勝てる人間がこの世にいるのか?」
 今現在……とディアッカが声をかけてくる。
「いるとしたら、それこそキラだけだぞ」
 まぁ、あいつの場合、性格的に女性陣を立てるだろうが……と彼は続けた。その言葉が、微妙にしゃくに障るのはどうしてだろう。というよりも、自分以外の口からキラのことを知っているようなセリフが出るのが気に入らないのか。
 だが、彼はまだいい。
 キラと親しいことがわかっているから、まだ我慢できる。
 それでも、自分の前でこんな風に言わないで欲しい……と思うのはどうしてなのか。
「ところで、さっきの言葉の意味、わかったのか?」
 あれでわからないなら、もうどうしようもないけどな……と彼は付け加える。
「何が言いたい」
 さっきのあれ、というのは、自分がキラの側にいなければいけない理由、という問いかけのことだろうか。
「ひょっとして、これは最悪パターンなのか」
 俺としては、かなり温情をかけたつもりだったんだけど……という言葉がアスランの精神を逆撫でしてくれる。
「ディアッカ!」
 温情とは何なのか、とアスランは言外に告げた。しかし、ディアッカはまったくそれを意に介さない。
「……アスラン、先に言っとくけどな」
 その代わりというように、まじめな口調で言葉を口にし始める。
「何だ」
「俺もイザークも、キラの味方だからな。あいつがそうしたいって言ったら、無条件で手助けする」
 ついでに、邪魔する奴がいたら、徹底的に排除させてもらうから……とも彼は付け加えた。
「何が言いたい」
「それもわからないほど、お前ってバカだっけ?」
 アスランの問いかけを、ディアッカは軽く交わす。その内容はともかく、いい方が気に入らない……とそう思う。
「俺も……邪魔をするなら、ただではおかないけどな」
 たとえ、自分以外がみんなそう考えていたとしても、だ。
 ただ一人。キラさえ、わかってくれればいい。
 アスランはそう思っていた。

 アスランに現実を見せなければいけない……ということはわかった。だが、そのためにはどうすればいいのだろうか、とキラは思う。
「キラさん、大丈夫だから」
 それが顔に出ていたのだろうか。シンがこう言ってくれた。
「シン君……」
「大丈夫。今はわからなくても、いずれわかるときが来ると思うから」
 自分がそうだったし……と彼はどこか恥ずかしそうな口調で告げる。それは、憎しみしか見ていなかった自分を省みてのセリフだろう。
「シン君は……強いからね」
 自分の欠点を真っ直ぐに見つめて、それを変えようとできる人間は強い。キラはそう考えている。だから、一時期とはいえ、全てを投げ出して逃げ出そうとしていた自分は弱いとも。
「……俺は……キラさんの方が強い、と思う」
 だが、シンは真顔でこう言ってきた。
「僕は……弱いよ。人に嫌われるのも、傷つけるのもいやで、逃げていたから」
 しかし、それでは何も変わらないと思ったから、今はここにいる。それは事実だ。
「でも、それを認められるっていうのは、強いと思う」
 シンはこう言って笑う。
「そういってくれて、嬉しいけど……」
 でも、アスランはそう思ってくれないだろう……とキラは心の中で呟く。それはわかっているからこそ厄介なのだ。
「大丈夫だって。キラさんは、一人じゃないんだから」
 自分だけではなく、ラクスやカガリもいるだろう……とシンは付け加える。
「そうだね」
 それでも、とキラは心の中で呟く。大切な幼なじみを失うかもしれない恐怖は消せないのだ、と。
 だが、アスランのためを考えればここできちんと全てを解決して丘泣けばいけないだろう。そう思う。
「アスランと、きちんと話し合わないとね」
 そういって、キラは微笑んだ。

「……あれで、無自覚なのか?」
 カガリは思わず、隣にいたフラガに問いかけてしまう。
「シンの方は自覚しているようだがな」
 キラの方はまだまだ、とフラガは付け加える。そんなところも彼らしいのかもしれないが、とも。
「……まぁ、キラだからな」
「キラですからね」
 それにラクスも頷く。
「どちらにしても、それも決着が付くだろうな」
 今、とバルトフェルドは口にする。そうでなければいけないのだ、とも。
「というわけで、アスランが来たぞ」
 その瞬間、彼等の間に緊張が走った。