今回のことを計画した馬鹿に対する処分は、カガリとラクスがきっちりと追及すると言うことになった。それに関してはキラにも文句はない。というよりも、彼女たちがするのが普通だろう。
 となると……と小さなため息をつく。
 後はアスランのことだろうか。
「……それが、一番厄介かも……」
 相手が人の心に関わることだけに、とキラは思うのだ。
「だからといって、いつまでも先延ばしにしておいては勘違いがひどくなるだけですわ、キラ」
 しかし、その呟きをしっかりと聞きつけたらしいラクスが、きっぱりとこう言ってくる。
「そうだな。いい加減、あいつの凝り固まった偏見をぶち壊して、目の中の鱗もたたき落としてやらないとな」
 でないと、前にも進めないぞ、あいつは……とカガリも頷いてみせる。
「あいつ、頭はいいのに、バカなのはそのせいだろうしな」
 さらにフラガまでもがこういった。それだけならば、彼等なりのからかいなのかと納得したのだが。
「……確かに、あの人ってバカですよね」
「シン君……」
 彼にまでこう言われるとは思わなかった。
「だって、あの人の言う《キラ》って、俺の知っているキラさんとまったく別物だったんだよ」
 あのころは、自分も詳しく知ろうと思わなかったから……とシンは視線を落とすと付け加える。その理由が何であるのか、キラにもわかっていた。
「でも、今はちゃんと《僕》を見てくれているでしょう、君は」
 シンの目の前にいるキラを、と問いかける。そうすれば、シンはしっかりと頷いて見せた。
「だから、それでいいよ」
 こう言って微笑めば、シンも同じように微笑み返してくれる。だが、それは耳に届いた誰かの咳払いで現実に引き戻されると同時に強ばってしまう。
「……あっ……」
 そういえば、今は二人きりではなかったのだ、と思いだしたのだ。
「……これがディアッカなら、でれでれするな、と怒鳴ってやるところだが……お前ではその気にもならん」
 というよりも、人前でなければ放っておいたのだが、とイザークは真顔で口にする。
「イザーク……」
「お前の趣味はともかく、どうやら、そいつの方があれよりも百倍はましなようだからな」
 少なくとも、現状を見て自分の非を改めることができたようだからな……という言葉は、フラガ達がシンを評するときと同じものだ。だから、アスランよりもまし、という言葉はどう反応していいのか、キラにはわからない。
「もっとも、あの腰抜けにしてみれば、認めたくない光景だったろうが」
 それは、という言葉には、キラも納得しないわけにはいかなかった。
 アスランであれば絶対に騒ぐ。そして、邪魔しようとしてくるのではないだろうか。
 いや、それだけならばいい。
 シンをザフトに戻そうと動き出すかもしれない。
 ラクスがいる以上、それが成功をする可能性は低いだろう。だが、そのせいでシンが傷つくのはいやだ、と考える。
「まぁ、あれが何をしてもここにいる者はみな、お前の味方だがな」
 キラが一番いいと思う環境を作ってやるのも自分たちの役目だろう、とイザークは笑う。
「それに、取りあえずあの腰抜けを使い物にするには、現実を見つめさせることが必要だろうしな」
 自分たちがここにいる間に話が終わってくれるのが一番いいだろう、と彼は続ける。
「そうだな。俺たちだけじゃアスランを止めるのも一苦労だし」
 使える人手は多い方がいいよなぁ、とフラガも頷いて見せた。
「そうですわね。使える者は親でも使え、なんて申しますしね」
 ふわりとラクスが微笑む。
 しかし、その瞬間、イザークの頬が引きつったのは事実だった。
「ラクス……」
「ともかく、アスランにもそろそろきりきりと働いて頂かなければいけませんの。そう考えれば、現実を見てもらうのは早いほうがよろしいでしょう?」
 違いますか、といわれて、キラは思わず首をひねってしまう。
「……逆に使い物にならなくなったりしてな……」
 ショックで……とシンがぼそっと呟く。
「それならそれでかまわん。一から性根をたたき直すだけだ」
 その方が、早そうだ、とカガリが笑う。
「まぁ、それもお前次第だがな、キラ」
 しかし、すぐに真顔になると彼女はこう言ってきた。
「カガリ?」
 どうかしたの? とキラは問いかける。
「はっきり言って、キラはそいつとアスラン。どっちにそばにいて欲しいんだ?」
 返答次第で、あれこれ考え直さなければいけない……とカガリは言い切った。その瞬間、シンが不安そうに瞳を揺らす。
「シン君と、アスラン?」
 そして、キラは……といえば、そんなことを考えたことがなかったと言っていい。でも、二人のうちどちらかといわれてしまえば、答えは一つしかないのではないかとも思う。
「……僕としては、シン君がそばにいてくれた方がありがたいと思う」
 アスランであれば自分のためだと言って勝手にあれこれ進めてくれるに決まっている。しかし、それは責任者としては許してはいけないことだ、とキラは思っていた。
 確かに、バルトフェルド達も自分たちの判断でいろいろとしていることは否定しない。
 しかし、彼等の場合、最終的にどのようなことを目標としているのかはきちんと教えてくれるのだ。それがわかっていれば、その過程でどのようなことをされていたとしても安心して任せられると思う。
「キラさん!」
 キラの言葉に、シンは嬉しそうにこう呼びかけてくる。
「そうか」
 そして、カガリもしっかりと頷いて見せた。
「それならば、遠慮はいらないな」
「そうですわね」
 カガリの言葉にラクスも同意をする。
「ならば、きちんと準備をしましょう」
 彼女のこの言葉が全ての合図になった。