「本当に、今回の事は『あきれた』の一言ですわね」 わざとらしいため息とともにこう言ってくる。 「まさか、貴方がここまでお馬鹿な方だとは思いませんでしたわ」 さらに付け加えられた言葉に、アスランは怒りを抑えられなくなってしまった。 「誰がバカですか!」 「もちろん、貴方に決まっているでしょう?」 怒鳴るアスランに、ラクスが平然と言い返してくる。同時に、その瞳に明確な怒りの色を確認できた。 「バカでなければ、あんな事をするわけがないではありませんか。皆さん、戦闘が終わったばかりで、ようやく緊張から解放されたばかりでしたのに」 新たな問題を引き起こしてどうなるのか、と彼女は付け加えた。 「馬鹿なこととは何ですか!」 自分はただ、一番にキラを出迎えたかっただけだ。 その権利は、自分に与えられているはず。だから、そうしただけだ、とアスランは思う。 「バカでしょう。貴方は、ここで何の権利も持っていらっしゃらないのですよ?」 今のアスランは、あくまでもカガリの部下であって、ここの組織の一員ではないのだ、と彼女はさらに言い返してくる。 「オーブの方々が多くいらっしゃっても、ここはあくまでも独立した組織です。そのような中でオーブの軍人である貴方が勝手な行動を取ってはどうなるのか、わかっていらっしゃらないのですか?」 オーブがここの組織を私物化していると言われてもおかしくはないのだ、と彼女は付け加えた。それがどれだけ恐ろしい状況なのか、わからないはずがないだろう、とも。 「そんなこと……」 「関係ないと言いますか? ここには、地球軍から出向している人も多くいるのですよ。その中に、不満分子と関わり合いがある方もいらっしゃるのではありませんか?」 本人にその気がなくても、そのような方が貴方の行動を耳にされたらどうするか、それも考えられませんの? と遠慮なく彼女は付け加える。 その可能性に気づいていなかった、とはアスランも言わない。 だが、自分はキラにとって必要な存在であるはずだ。 そうである以上、自分が彼のそばにいなければならないはずだ、とアスランは思う。 「……なら、何故俺たちを引き離したんですか……」 そばにいることを認めなかったのはあなた方の方でしょう、と言い返せば、ラクスだけではなくカガリやバルトフェルドまで盛大にため息をつく。その理由がわからずに、アスランは忌々しそうに眉間にしわを寄せた。 「少しは頭が冷えているか、と思ったんだがな」 無駄だったというわけか……とバルトフェルドは気にすることなく口にする。 「そうだな。本当になにも見えていなかった、ということか」 あきれるしかないな、とカガリも頷いて見せた。 「何が言いたい!」 バルトフェルドならともかく、カガリでは遠慮がいらないのではないか。もちろん、公的には許されることではない。だが、今は身内といえる人間しかいない状況なのだからかまわないのではないか。そう考えて、アスランはこう言い返す。 「貴方の目が曇っている、という話ですわ、アスラン」 バカであるだけではなく、とラクスが即座に言い返してきた。 「俺の目のどこが曇っているんですか!」 認められないと、アスランは口にする。 「それすらもわからないから、貴方はバカだ、といっているのですわ」 しかし、ラクスは変わることなく同じ事を繰り返す。 「いずれは気が付いて頂けるものだ、とばかり思っておりましたが、待ったくその気配がありませんものね、貴方は」 ある意味、盲信すぎることは罪かもしれない……と彼女は付け加えた。 「何を言いたいのですか」 自分の罪とは、いったい何なのか。 いや、自分に罪があるはずないだろう、とそう思う。 しかし、彼女たちはそう考えていないらしい。 「……貴方もキラも、いつまでも子供ではないのですよ」 何と言うべきか考えていたらしいラクスの口から出たのは、こんなセリフだった。 「そんなこと、当然ではないですか」 誰だって、いつまでも子供のままではいられないだろう、とアスランは言い返す。ラクスとあろうものがそんな当たり前のこともわからないのか、と彼は付け加えている。 「……自覚がなかったのか……」 「あったらあったで問題だったと思うぞ。あのころは一つ屋根の下だったからな」 ぼそぼそとわきで二人がこんな会話を交わしている声がアスランの耳にも届いた。 「そうかもしれないが……」 「まぁ、そうなっていたら、俺たちも動きやすかったのかもしれないがな」 キラにしても、結論をきちんと出せていたのではないか、と言うバルトフェルドの言葉が引っかかる。 いったい、キラが何を悩んでいたというのか。 それも、彼等の会話から判断してまだ戦争が始まる前からかもしれない。 あのころはカガリの護衛に付いている時以外はずっとキラの近くにいた。そんな自分が気が付かなかったなんて……とアスランは呆然とする。それとも、キラが自分に気づかれないようにしていたのだろうか。 きっとそうに決まっている。 しかし、そのせいで彼は、さらに心を痛めていたのかもしれない。 それを「罪だ」といわれるのだったら、甘んじて受け入れなければいけないのではないか。そんなことをアスランは考えていた。 「残念ですが、貴方の考えは的はずれ、ですわよ、アスラン」 アスランの罪はそのようなことではないのだ、と彼女は言い切る。 「ラクス?」 「それをおわかりにならないから、貴方はバカだ、と申し上げているのですわ」 気づいていれば、まだまだ治すチャンスがあったかもしれないのに、と彼女は付け加えた。 「結局、貴方がお馬鹿なせいでキラは一番辛い選択をしなければならないのですわ」 そして、こう付け加えるとそっとため息をつく。 だが、アスランにはまったく身に覚えがない。 「失礼するわね」 その時だ。ラミアスがそっと顔を出す。 「キラ君が司令室に着いたわ。どうするの?」 こちらに連れてくるのか、それともみんなが移動するのか、と彼女は言外に問いかけてきた。 「我々が移動しよう。アスランを除いてな」 そうすれば、あっさりとバルトフェルドがこう言い返す。しかし、その内容はとても納得ができるものではない。 「何故!」 「それを、まじめに考えてみるんだな。お前が見ている《キラ》が真実なのかどうか。とは言っても、時間はないだろうが」 泥縄でもないよりマシだろう。そう告げる彼に、アスランは唇を噛むことしかできなかった。 |