さて、どうするべきなのか。 そんなことを悩んでいた時だ。壁の端末が通信が入ったことを教えてくれる。 「あっ」 即座に応答をしなければいけない。そう思ってシンが動こうとするよりも早くフラガが行動を開始した。 「控え室、だ」 端末を操作すると、こう言葉を返している。 「……失敗したな……」 その様子を見て、シンは思わずこう呟いてしまう。 「シン君?」 どうかしたのか、とキラが言外に問いかけてくる。 「こう言うときは、俺が真っ先に動かないといけないと思うんだけど」 フラガに先を越されたから、とシンは唇を噛む。 「でも、相手がアスランの可能性だってあるんだから……ムウさんに出てもらった方がよかったかもしれないよ」 でないと、何をしでかすかわからないから……とキラはため息をついた。彼にそんな表情をさせるアスランは今までに何をやらかしてきたんだ、とちょっと気になってしまう。 しかし、それを問いかけるわけにはいかないのではないか。 「そうかも」 アスランが暴れてくれるのは厄介だよな、と代わりに頷いてみる。 「まったく……僕はもう、彼に守ってもらわなければいけない子供じゃないのにね」 月にいた頃と違って……とキラはまたため息をつく。 「そうだったんだ」 自分が知っている《キラ》は今の、自分以外の存在を守るためなら自分自身が傷つくことを怖がらない彼だ。 そういう彼だからこそ『守りたい』と思うようになったのかもしれない。 いや、それだけですまなかった、というべきか。 だからといって、後悔なんてしていないんだけどな……とシンは心の中で呟く。 「僕たちの年齢だと第一世代というのが珍しいらしいからね」 それだけで同じコーディネイターからいじめられたから……とキラは苦笑を浮かべる。 「そんなこと……」 関係ないだろう、とシンは思う。少なくともオーブであれば、だ。 「オーブにいるときにならないけどね。アスランの知り合いは、みんなプラントの人だったし……僕の友達はナチュラルの方が多かったからね」 種族の違いなんてどうでも良かったから、世代の違いも同じだった。 だが、彼等はそうではなかったらしい。 第二世代の中でも、特に優秀なアスランが一緒にいたから余計だったのかも、とキラは付け加えた。 「……わけわかんねぇ」 「アスランに言わせると、僕は成長が遅かったらしいから」 そんなつもりはなかったけど、とキラは苦笑を浮かべる。 「まぁ、今では思い出だけどね」 いいことも悪い事も含めて、と彼は付け加えた。そういえるようになるまでに、どれだけの苦労を重ねてきたのだろうか。シンはそう思ってしまう。自分は、まだそういいきることができないから、とも。 「キラさん」 でも、彼に何かを言わなければいけない。そんな気がして、思わずその名前を唇に乗せる。 「いずれ、シン君にもそういえる日が来るかもしれないよ」 自分は、三年近くかかったから……キラは悲しげな微笑みを深めた。 「……そう、ですね」 そうだといいですね、とシンは微笑み返す。 「そうできるよ、きっと」 どんなことでも、いずれは思い出になるから……とキラは付け加える。 「というところで、いいか?」 お二人さん、とフラガが口を挟んできた。 「報告をしていいかな?」 まぁ、キラのそんな表情を見ているのは楽しいけどな……とからかうように彼は付け加える。その瞬間、キラの頬が見事としか言いようがないくらい赤く染まった。 どうやら、キラは完全にフラガの存在を忘れていたらしい。 その表情からシンはこう判断をする。 「……お願いします……」 それでも、報告を聞かないわけにはいかないのだろう。キラは頷いて見せた。 「取りあえず、アスランは確保されたそうだ。というわけで、今、お嬢ちゃん達二人と虎さんの三人がかりでお小言タイム、だとよ」 その場にいるメイリンはもちろん、イザークやディアッカまで既に逃げ腰だ、というのはいったいどのような状況なのだろうか。はっきり言って、あの二人がそんな小心者だとは思えない。 「……ということは、本気で怒っていますね、二人とも」 あまり行きたくないなぁ、とキラも頬を引きつらせている。 「まぁ、あきらめろ」 キラが行かなければいけないで、別の問題が出てくると思うぞ、とフラガは口にした。 「それはわかっていますが……」 怒りまくっているカガリとラクスをいっぺんに相手にしたくないです、とキラは小さな声で呟く。 「まぁ、それは俺も同じだが」 というよりも、キラでなければそれをできる人間なんて、世界に誰もいないぞ……と彼は付け加える。キラであれば、女性陣がまだ手加減をしてくれるが、他の人間では無理だ、とも。 「それは置いて置いても……いい加減、アスランに引導を渡しておいた方がいいと思うぞ、俺は」 でなければ、あいつは現実を見られないのではないか。そういうフラガの意見に、シンも賛成だ。 「そうだよな。いい加減、現実のキラさんは子供じゃなく立派な大人だってあいつが認識していないから、状況が厄介になっているんじゃないですか?」 だからこそ、自分が何をしても許されると思っているのかもしれない。シンは総口にする。 「どちらにしても……アスランには言わなきゃないことがあるから」 しかたがないから行くか、とキラはため息とともに告げた。 「そうそう。男なら開き直るのも大切だって」 しかし、そういう問題ではないと思う。シンはそんなことを考えながらフラガを見つめてしまった。 |