自分の目的地はとっくにばれていたらしい。
 いや、それしかないと誰もが考えていたのか。
 もっとも、自分も隠したことはないから、ある程度一緒に過ごしていたものには明白だろうな、とアスランは苦笑を浮かべる。
 だからこそ、ここにこれだけアークエンジェルのメンバーが集まっているのだろう。いや、それだけではなくオーブ軍の者も確認できた。
「こうなると、極悪犯の気分だな」
 自分はただ、キラに会いたいだけなのに。
 どうして、今はそれが許されないのか。そんなことすら考えてしまう。
 キラが偉くなったからか。
 それとも……まだあの時のことを――キラではなく――周囲の者達が許してはくれていないのか。
 おそらく後者だろうな……とアスランは思う。
「……あの時は、あれが正しいと思っていたんだ……」
 あの二人を戦場から離すには、厳しいことも言わなければいけない、とそう考えていた。それがわかってくれたからこそ、キラは許してくれたのではないか。
 まぁ、女性という者は、些細なことでもずっと根に持つ存在だから、カガリやミリアリアが許してくれないのはしかたがないのかもしれない。だからこそ、カガリにはこき使われているんだろうな、自分は、とそうも思う。
 でも、だ。
 だからといって、こんな風に邪魔されるいわれはないと思う。
「かくれんぼをしたい年齢じゃないんだけどな、俺も」
 進もうとしたときに人影を見つけて、アスランはとっさに身を隠す。
 もっとも、キラならこんな状況も楽しむのかもしれないが。
 そういう性格はしばらく身を潜めていたようだけど、最近、また表面に出てきたようだ。それはきっと、自分がそばにいてあのころのように接していたからからだろう。
 そういった意味でも、キラには自分が必要なのに……とアスランは唇を噛む。
「まったく……キラはぽややんなんだから、どうせ髪を乾かさずに寝るとか、朝たたき起こさないと起きないとか……誰かがそばに着いていないとダメなんだぞ」
 いくらバルトフェルドやフラガでも、この調子ではキラの日常生活までは面倒を見ていられないのではないか。
 かといって、他の誰にできるかと言えば……と考えれば、二人ほど思い当たる人物はいないわけではない。
 マリューとミリアリアなら細かな気遣いをしてキラの面倒を見てくれるだろう。特にミリアリアはヘリオポリス時代からの友人で、そのころからけっこうキラの面倒を見ていてくれたらしい。
 だが、彼女たちにしても眠っているキラをたたき起こせるだろうか。
「ラミアス艦長なら、できるか」
 そして、その事実に関して恋人であるフラガが文句を言うはずはない。
「……でも、彼女でもキラの嫌いなにんじんとかピーマンをこっそりと食べてやるなんてできないよな」
 むしろ、無理にでも食べさせようとするだろう。そういった面では女性陣の方が厳しいに決まっている。
 しかし、それでキラの食欲が落ちてしまえば問題だ。
「にんじんもピーマンも、俺ならごまかしてやれるのに……」
 ついでに、キラが好きな果物系をこっそりと増量してやるとか……とそんなことを考えていたせいだろうか。
 アスランは背後から近づいてくる気配に気が付かなかった。
 いや、相手にしてもアスランと同レベルの存在×2なのだから当然といえば当然なのかもしれない。
「確保!」
 がばっと、背後から羽交い締めにされた、と思った次の瞬間、耳元で遠慮なくこう叫ばれる。
「ディアッカ!」
 相手が誰か気づいて、アスランは思わずこう怒鳴り返した。
「放せ!」
「うるさいぞ、アスラン」
 だが、それに言葉を返してきたのは彼ではなくイザークだった。
「貴様のワガママのせいで、どれだけの人間が迷惑を被っていると思っているんだ!」
 いらつきを隠せないという表情で彼はさらに言葉を重ねてくる。
「ワガママ?」
 自分の行動の何がワガママだ、というのか……とアスランは思う。キラに会いに行くのは自分にとって当然の権利だろう、とも。
「ワガママだろうが。今の貴様は、キラの副官ではなく、ただのオーブの軍人だ。それなのに勝手に動き回るのはワガママではないのか?」
「そうそう。キラだって、今回の事後処理をして、お姫様二人と挨拶をして予定を確認したら、お前と個人的に話をしてくれたかもしれないぞ」
 でも、今回のことで無理だろうなぁ……とディアッカは続ける。キラが許してもカガリとラクス、それにバルトフェルド達が許さないだろう、とも。
「だから!」
「うるさい! この腰抜け!」
 アスランが反論をしようとするのを、イザークが封じる。
「そうそう。いい加減にしておかないと、さっきのお前のドジシーンがエンドレスでネットに流れるぞ」
 キラ〜、といって駆け寄ろうとしてずっこけたあのシーンが……とディアッカが笑いながら口にした。
「……はぁ?」
「ラクス嬢が、そのくらいしてやってもいいんじゃないかって言い出してな」
 それだけならまだしも、と彼はさらに言葉を重ねる。
「必要なら、アークエンジェルでのそれとかミネルバでのこれとか、全部編集してやるとも言っていたなぁ。いくらキラでも、一発で幻滅をする奴にするとか言っていたぞ」
 普通であれば、そんなことただの世迷い言だ、と切り捨てられるだろう。しかし、それを口にしたのがラクスであれば話は別だ。
「それに、お前、ディオキアのホテルでものすごくまずい失態をしたって?」
 メイリンが言っていたが……とディアッカが耳元で囁いてくる。
 ディオキアとホテル、二つのキーワードから導き出される結論は一つしかなかった。
 確かに、あれをキラに知られてはいけない。
 そう思って、アスランは動きを止める。
「ということで、行くぞ」
「まぁ、お小言だけですむことを祈っているんだな」
 呆然としているアスランを引きずるようにしてディアッカとイザークは歩き出した。