バルトフェルドの放送を耳にした瞬間、アスランは思いきり舌打ちをする。 「本気で、俺の邪魔をしてくださるつもりですか、あなた方は」 いや、彼等だけではない。放送を耳にしたらしい者達――その多くが顔に見覚えがある――が自分を探して動き出しているのだ。これでは、真っ直ぐにキラの元に駆けつける事ができそうにない。 「だからといって、諦めるわけがないだろう」 自分が……とアスランは付け加えながらそっと空き部屋の中に滑り込んだ。 そして、自作の端末を取り出すとスイッチを入れる。そのままいくつかキーを押せば、端末に光点が現れた。 「トリィの居場所……はずいぶんとデッキから離れているな」 先ほど戻ってきたキラが自室で着替えている可能性もないわけではない。しかし、カガリとラクスを待たせている今、そのような悠長な真似を彼がするだろうか。 「ということは……おいていったと見る方が正しいのか」 まぁ、現状で戦闘に連れて行くようなことをキラがするとは思えないが、とアスランは呟く。 「なら、控え室だろうな」 キラの場合、あのような立場だとしても普通に皆と同じ控え室を使うだろう。だから、いるとすればそこではないか。 「ムラサメ隊のメンバーも一緒だと、ちょっと厄介だな」 カガリに対するのとは別の意味でキラをあがめ奉っている連中だし、と少しあきれたような口調でアスランはこう呟く。だが、それのおかげでキラの足場が固まっているのだからしかたがない。そうも考えてはいた。 何よりも、害虫駆除の役目を担ってくれているのだし、とも。 そこまで考えたときだ。 ふっと、ある可能性にアスランは気づく。 「だが、キラが受け入れてしまえば、あの連中はその相手を認めてしまうかもしれないな」 いや、連中だけではなくフラガやバルトフェルド達もだ。 「シン、に妙に同情的だったしな、キラは」 以前の時もそうだった、と聞いている。 相手の女に同情を寄せていたせいで押し切られて利用されていたのだ、と。 シンが同じような行動に出ないとは限らない。 「……どうしてお前は……」 いつでも自分以外の人間を選ぶのだろうか、とアスランは思う。 キラは自分を受け入れてくれている。だが、それは決して恋愛感情に発展しないのだ。 そばにいてくれればそれでもいい、と最初は思う。 しかし、すぐにそれだけでは物足りなくなってしまうのだ。 自分にとっての一番が《キラ》ならば、キラにとっての一番は《自分》であって欲しい。 こう考えるのはワガママなのか。 「でも……俺にはお前しかいないんだ……」 だから、と呟くとアスランはまた行動を開始する。そんな彼の様子に気づいたものは、幸か不幸か誰もいなかった。 フラガの予想通り、パイロット控え室にはバルトフェルドの放送は入っていなかった。そして、外から漏れていた音は、シャワーの音がかき消してしまう。 だから、彼等はいったい何が起こっているのか知らなかったと言っていい。 「キラさん。そのまま服を着ると、濡れるよ」 髪の毛が乾いていないから……といいながらシンがタオルをキラの頭にかぶせてくる。そんな、どこかのどかな仕草も、そのせいかもしれない。 もっとも、それでもキラはある意味焦っていたのだ。 「でも、ラクスとカガリを待たせているから……」 早く行かないと……とキラは言い返す。 「それでも、です。キラさんはここの責任者なんですから、せめて髪の毛ぐらい乾かしてくれよ!」 戦闘が終わったばかりだから、あの二人でも納得してくれます……という言葉に、そうなのだろうか、とキラは考えてしまう。 「それに、そんな恰好でキラさんを歩かせたら、俺が怒られます!」 フラガとバルトフェルドに、とシンはさらに言葉を重ねてくる。 「そんなことはないと思うけど……」 二人とも、人前ではともかく裏ではけっこうずぼらなはずだから……とキラは言い返す。もっとも、そういうところを親しくない相手に見せない辺りはさすがなのかもしれないが。 「ともかく、髪の毛を拭かせて」 もうアンダーの首から肩にかけて色が変わっている、とシンは口にする。 「……シン君って、意外と世話好き?」 そんな彼の好きにさせながら、キラはこう問いかけた。 「好きな相手限定だけどな」 だから、今はキラだけだ……と彼は笑い返してくる。その表情にキラは思わず耳が熱くなってくるのがわかった。 「えっと」 それに気づいたのだろう。シンが困ったような表情で言葉を口にする。 「そういう表情されると、キス、したくなるんだけど」 一応、自分も男だしさ……と彼はさらに付け加えた。キラのことが、そういう意味で好きだし、とも。 「……それは、よくわかっている……」 頬が熱くなるのを感じながらも、キラはこう言い返す。 「シン君に『好きだ』って言ってもらうのはいやじゃないし……」 むしろ、嬉しいかもしれない……とキラは正直に口にする。 「キラさん」 そういうことを聞いたら、本気でキスをしたくなるじゃないですか……とシンはため息をつく。 「……する?」 別に、いやじゃないし……とキラは付け加える。 「本気にするよ」 「……いいよ」 キラが言葉を返した瞬間、シンの少しかさついた唇が、キラのそれの上に重ねられた。 |