デッキに足を踏み入れた瞬間、目の前に機体が飛び込んでくる。 それはインパルスによく似たフォルムを持っていた。 「これは……」 「インパルスの発展系、かな? シルエットシステムではなく、ストライクと同じようなバックアップパーツの交換システムを採用しているけど」 基本的な操作は変わらないよ……とキラは付け加えた。 「……これを、俺に?」 てっきり、ザクかでなければグフあたりが回されてくると思っていたのに、とシンは心の中で呟く。 「ザクやグフ、ムラサメなんかをカスタマイズするよりも、新型の方が楽でしょう?」 いろいろな意味で、と微笑む彼にシンは『それでいいのか』と思ってしまう。 「確かになぁ。お前さんもキラと同じで、汎用機だと動きに制限がでそうだからな」 ストライクでさえ、キラの動きに耐えきれなかったのだ……と口にしたのはマードックだ。 「だったら、最初から新型を与えておいた方がこっちとしては楽だしな」 「まぁ、キラの代わりにお前さんにきりきりと働いてもらわなきゃない、って言うのも事実だからな」 さらにフラガがこう言ってくる。 「ムウさん?」 それは……とキラは言い返す。 「お前さんは指揮官だからな。あきらめろ」 何よりも、敵が一カ所にだけしか出てこない、とは思っていないだろう? とフラガは付け加える。キラは一人しかいないのだし、とも。 「そうですけど……」 「だから、そういうときのために、もう一隊、主力を作っておかなければならないだろう?」 アークエンジェルで逃げ回っていたときとは違うのだから……という言葉を耳にした瞬間、キラは何やら複雑な表情をを作ったのがわかった。それがどうしてなのか、今のシンは知っている。ここに来る前、ディアッカが教えてくれたのだ。 その瞬間、キラが何も苦労していないと思いこんでいた自分をシンは恥じた。 同時に、ますますあの男が苦手になったというのは事実である。 「そいつなら、実力の方は申し分ない。後は、的確なフォローをできる人間を一緒に付けてやれば大丈夫だろう」 まぁ、一番いいのは、そのような状況にならないことだが……とフラガは口にした。 「そうですね」 ようやくキラは納得したらしい。素直に頷いて見せている。 「まぁ、その前に、これを使い物にしないといけないわけだが」 それに関しては、頑張ってもらうしかないんだが……とフラガは苦笑を浮かべた。 「僕はしばらくこちらにかかりきりになりますから、ムウさんは、自分で何とかしてくださいね」 そうすれば、キラは即座にこう言い返している。 「やぶ蛇だったか……」 フラガが嫌そうに顔をしかめたのがわかった。苦手なんだよなぁ、と呟いているのもわかる。 「ちゃんと見張ってるから、心配しなくていいぞ」 なれているからな、とマードックが笑う。その瞬間、本気でフラガが嫌そうな表情になる。しかし、キラは既にシンの方に視線を向けていたために、それには気づいていないようだ。 「そういうことだから、しばらく付き合ってね」 ふわりと微笑みながらこういうキラに、シンはしっかりと頷いていた。 だいたい、シンの癖は覚えているんだけど……といいながら、キラは取りあえず組んだOSをシミュレーターに入れる。 「早速で悪いけど、一回、シミュレーション、してくれる?」 使いにくい所があったら、すぐに直すから……と言えば、シンは頷き返す。そのまま彼はシミュレーターの中をのぞき込む。 「コクピットの仕様は、ザフトのものと一緒だから、わかるよね?」 シンにこう問いかければ、 「大丈夫です」 とすぐに言葉が返ってきた。 「そう。じゃ、お願いね」 キラの言葉を耳にしたからだろうか。シンはためらうことなくシミュレーターの中に体を滑り込ませていく。その仕草も手慣れたものだと感じさせた。 実のところ、キラ自身はいまだにシミュレーターを使ったことがない。 技能も何も、全て実地で身につけてきたものだ。そう考えれば、自分がおかれていた状況の異常性を改めて認識させられる。 でも、とキラは心の中で呟く。 それだからこそ手にできたものがあるのだ。 何よりも、今更そういっても仕方がないことだ、とキラはその考えを振り切る。 「準備できたね?」 その代わりに、そばにあるモニターのそばへとキラは移動をした。そして、キラは中にいるシンに呼びかける。 『大丈夫です』 即座に言葉が返ってきた。 「じゃ、始めてくれる?」 この言葉を合図にしたかのように、シンはシミュレーションを開始させる。 記憶の中に刻まれていたシンの動きから癖を推測して組み立てたOSだったが、取りあえずは使いこなせているようだ。だが、やはり細かなところは本人の意見を聞いて修正しなければいけないだろう。 そう考えていたときだ。 「さすがだな……何とかとはいえ、あれを使いこなせるか」 いつの間にかキラの肩越しにモニターをのぞき込んできたフラガがこう呟く。 「そうですね」 基本のシステムだけなら問題はない。後は、バックアップパーツとの相性を考えなければいけないかな、とキラは心の中で呟く。 「まぁ、しばらくはお前はこっちを中心に動け。他のことは俺と虎さんで何とかなるだろう」 ならないのは、カガリとラクスとの連絡ぐらいじゃないのか……と彼は苦笑を浮かべながら付け加える。 「ですが」 「大丈夫。このくらいは甘えなさい」 あっさりとフラガはキラの言葉を封じた。本当にいいのか、というようにキラは彼の顔を見上げる。 「突発事項は起きない限り、大丈夫だって。まぁ、書類だけは目を通してもらうだろうけどな」 と彼は笑い返す。それに、キラは静かに頷いて見せた。 |