目の前の光景を、自分はただ黙って見ているしかできない。 それがものすごく気に入らない……とアスランは唇を噛む。キラの隣で戦うのは、シンではなく自分だったはず、いや、そうでなければ行けなかったのに、とそう思う。 だから、さっきだってキラが『ダメだ』などというとは考えても見なかった。 逆に、キラの方から頼まれる、と思っていたのだ。 「……どうして……」 キラは自分を連れて行かなかったのだろうか。 それなのに、シンにはためらうことなく呼びかけた。 この差はいったい何なのか。 「離れていたから、か?」 だから、キラは自分ではなくシンを優先するようになったのかもしれない。それはある意味予想していたことではあるが、やはり面白くないな、と心の中で呟く。 「やっぱり……無理にでも着いてくるべきだったか?」 そうしていれば、きっとキラは今でも自分を頼りにしてくれていたに決まっている……とアスランが呟いたときだ。 「貴方がそうなさっていれば、ここまできちんとした組織になっておりませんでしたわね、ここは」 しかし、そんなアスランの言葉をラクスがきっぱりと否定してくれる。 「……ラクス……」 どうして、いきなりそんなことを言うのか。そうは思う。しかし、他の者達と違って即座に反論ができない。 マルキオの元に身を寄せていたときに、一番、キラの側にいたのは彼女だ。それは、キラを守るために、自分がカガリの立場を守らなければならなかった以上、しかたがないことだとはわかっている。 それでも、いや、それだからこそ、次第にキラとの距離が広がってしまったのかもしれない、とそうも考えてしまう。 「貴方は、何がおっしゃりたいのですか?」 だからといって、黙っているわけにはいかない。そう思ってこう問いかける。 「本当にわからないのですか?」 しかし、即座に答えを教えてくれないのがラクスだ。逆にこう聞き返される。 「貴方のおっしゃることがわからないので」 アスランが言葉を返せば、彼女はあきれたようにため息をつく。 「何も見ていらっしゃらないのですね、貴方は」 だから、正しい判断ができないのですわ、とも付け加える。 「ラクス!」 いくら彼女でも、そろそろ限界を超えたぞ、とアスランは思う。言っていいことと悪いことがあるだろう、とも。 「……ラクスの言葉は、間違ってないな」 それなのに、カガリまでもがこう言ってくる。 「だから、何が言いたいんだ!」 いや、彼女だけではなく他の者達までラクスの言葉に同意だというような表情を作っているのが気に入らない。 それはどうしてなのか。 答えを知りたいのに、教えてくれないところまでそっくりだ。 「それこそ、自分で気づかなければ意味がないことだぞ、アスラン」 癇癪を起こそうとした小さな子供をたしなめるような口調でバルトフェルドがこう言ってきた。 「誰かに教えてもらっては意味がない。そういうことがある、ということも、お前はわかっているはずだ」 違うのか? という言葉は否定できない。それでも、他の者達はわかっているのに自分だけがわからない……という状況は気に入らないのだ。 「ともかく、まずは自分の思考を整理して、それがいったいいつからのものなのか、ゆっくりと考えてみるんだな」 そして、それが変わっているのかいないのかをよく考えろ、とバルトフェルドはさらに付け加える。 「……お優しいですわね、バルトフェルド隊長」 「ヒントぐらいは与えるものだろう、ラクス」 でないと、このバカはいつまで経っても答えを見つけられないぞ……と彼は言い返す。 「そうだな。それでもわからない可能性があるんだ。多少は情けをかけてやってもいいんじゃないのか」 さらにカガリが追い打ちをかけるようにこんなセリフを口にしてくれた。 「……いったい、俺が何をわかっていない、と言うんだ……」 この場にいる者達の言葉を総合すれば、そういうことになるだろう。 話の流れから判断をして、それはキラに関わることだと言うこともわかる。 だが、それは何なのか……と思うのだ。 キラのことなら、昔からよくわかっている。 確かに、ヘリオポリスの一件の後は、微妙に考えがずれていたこともあった。それは、お互いの立場のせいだったと思う。 実際、自分が《ザラ》の名を捨てた後は、同じ方向を見ていくことができた。 オーブに移ってからもそうだったはず。 その道が、一瞬離れかけたのは、自分がデュランダルの言葉に惑わされたときかもしれない。 しかし、それも修正できたはずだ。 今度の件にしても、最初はカガリの事を考えていたからなのだろう、とそう思っていた。彼女の身に何かがあれば、キラはもちろん他の者達も動けなくなってしまうから、と。 しかし、現実は違っていた。 キラは自分を選んではくれなかっどころか、隣を歩く存在としてシンを選んだらしい。 いったい、自分とシンの何が違うというのか。 自分の方がキラのことをよく理解できているのに。 あるいは、シンに押し切られたのかもしれない。 だったら、今の状況が間違っているのではないか。 あの時、誰が何を言おうともシンがキラの部下になることを反対するべきだったかもしれない。そう思う。 そうすれば……と思いながら、アスランは何気なくモニターに視線を移した。 漆黒の虚空の中にストライク・フリーダムの白い機体は目立つ。だが、それに近づこうとしている敵機を、見慣れない機体が動作不能に追い込んでいた――あれならば、キラが望むとおりパイロットを殺すことはないだろう――おそらく、あの機体を操っているのがシンだろう。 あの二機の動きには、誰も割り込めないように感じられる。 それが、自分自身でも、だ。 「……認められるか……」 とアスランは呟く。 そんな彼を、みなが複雑な視線で見つめていることに、本人だけが気づいていなかった。 |