カガリ達もまた、無事に入港してきた。
 だからこそ、とキラは思う。
「いったい、何が目的なんでしょう」
 あの所属不明艦はまだ、近くに潜んでいるのだ。だから、何かを企んでいることは間違いない。
 しかし、その目的がわからないのだ。
「……さぁな。わからない以上、それなりの配置を整えておかなければいけないだろうな」
 バルトフェルドがこう口にしたときだ。
「失礼します」
 言葉とともにシンが入室してくる。
「シン君?」
 どうして彼が、とキラは思う。先ほどまで警護のために出撃をしていたのだから、てっきり今は整備を行っているとばかり考えていたのだ。
「ちょーっと気になることがあってな。そっちの坊主はキラの護衛優先にしてもらったんだよ」
 何もなければいいんだけどな……と答えをくれたのはフラガの方だ。
「そうだな。何事もなく終わればいいんだが……そうとは考えられなくてね」
 俺もフラガも……といわれて、キラは眉を寄せる。戦場での経験が自分よりも豊富な二人がそろってこう言うのであれば、そうなのかもしれない。
「でも、何でシン君……」
 彼でなくても、護衛だけならば……とキラは呟く。
「俺たちが一番安心できるからだよ」
 自分たちがかならずそばに付いていられるとは限らないからな、とフラガは言葉を返してくる。だから、信頼できる人間をキラの側に置いておきたいだけだ、とも。
「お前も、そいつならそばにいられても気にならないようだしな」
 一緒に寝られるくらいだし、とフラガはさらに付け加える。その瞬間、キラは自分の頬が熱くなるのがわかった。隣ではシンが目元を染めている。
 これでは、何かあったと勘ぐってくれ……と言いたくなる態度だ、ということはわかっている。それでも、まだ生々しい記憶がそれを止めようとする意識よりも強いのだ。
「ということで、出迎えに行くか」
 あれが騒ぎ出す前に……とフラガは苦笑とともにキラの肩に手を置く。
「ラクス達は事情を話して納得してくれたが……あいつらじゃ無理だろう」
 というよりも、ただ一人だけが……と言われてしまえば、納得しないわけにはいかない。
「……そうですね」
 しかし、シンを連れて行けばいったで、また問題が起きるような気がするのは錯覚だろうか。
 少なくとも、アスランがうるさいだろう事は目に見えていた。それをどうやってなだめればいいのか、とも考えてしまう。
「キラさん」
 そんなキラの気持ちを読み取ったのか。シンがおずおずと声をかけてくる。
「お願いね、シン君」
 確かに、彼がそばにいてくれるのは、フラガ達に劣らないくらい安心できるというのは事実だ。だから、アスランにも何も言わせるつもりはない。自分がそのような態度でいれば、きっと大丈夫だろう、とキラは心の中で呟いていた。

「久しぶりですわね、カガリ」
 ふわりと見慣れた微笑みを浮かべながら、ラクスが近づいてくる。
「そうだな。実際に顔を合わせるのは本当に久しぶりだ」
 通信回線越しでは、よく会話を交わしてはいたが……とカガリも頷く。
「でも、どうしてここにいるんだ? 先に入港していたんだろう」
「カガリに会いたかったからに決まっておりますわ」
 カガリの問いかけに、ラクスはさらに笑みを深めながらこう言い返す。だが、それだけではないだろう……とカガリは思う。視線だけで確認をするようにアスランを見つめれば、彼女の笑みはさらに深まる。
「もうじき、キラもいらっしゃるそうですわ」
 そして、カガリの疑問を肯定するかのようにラクスはこう口にした。
「……何もなければいいんだが……」
 何か、微妙に空気がおかしいからな……とカガリは付け加える。
「そうですわね」
 確かに、何かがおかしい……とラクスも頷く。
「何があっても、対処が取れるようにしてあるがな」
 そんな彼女たちの会話に、イザークが口を挟んでくる。
「そのために、ディアッカを先にここによこしていたんだしな」
 女の機嫌を取り結ぶだけに時間を費やしていたわけじゃないだろうし、と口にすれば、ディアッカは「取りあえずな」と言い返してくる。
「それ以上に、キラのことを優先させてもらったが……かまわなかったよな?」
 この言葉に、イザークだけではなくカガリもラクスも頷いた。
「まぁ、ザフトから来ている連中はもちろん、オーブの連中も心配はいらない。地球軍から送り込まれた連中も、整備陣に関しては不安はないと思うが……」
 問題はそれ以外メンバーだ、とディアッカは声を潜めながら付け加える。残念だが、そちらのメンバーを全員自分で確かめられたわけではない、とも。
「それに関しては仕方がありませんわね。貴方は、あくまでもオブザーバーでしたもの」
 そういう立場であれば、好き勝手に動けないのは最初からわかっていた……とラクスは付け加える。
「それでも、それなりに危険人物を絞り込めたのだ。それでいいことにしておこう」
 無能ものという言葉は口にしないでおいてやる……とイザークが口にした瞬間だ。
「キラ!」
 デッキ内に響き渡っているのではないかとしかいいようがない喜色に飛んだ声で、アスランがこう叫ぶ。慌てて視線を向ければ、入り口の所にいるキラに向かって彼が駆け寄ろうとしているのが見えた。
「……しまった。あれから目を離していたな」
 こう言いながら、ディアッカが即座に行動を開始しようとする。しかし、いくらコーディネイターでも、今から彼に追いつくのは不可能だろう。
「引きはがすのが面倒だな」
「……それでも、何とかしなければいけませんわ」
 キラのためにだけではなく、何かあったときにすぐに対処が取れるように、とラクスは言い切る。それにカガリも頷くと自分たちもまた後を追いかけようときびすを返した。
 だが、次の瞬間、カガリは信じられないものを目の当たりにしてしまう。
「……何をやっているんだ、あいつは」
「お約束といえばそうなのかもしれないが」
「本当に、キラ以外、目に入っていませんのね」
 あきれたように口にする三人の前で、おかれてあった機器に足を引っかけて転んでいるアスランの姿があった。