「少しは進展しているのかね、あいつら」 周囲の状況を確認しながら、フラガはこう呟く。 「していなければ、シンにも《ヘタレ二号》の称号をやろう」 即座にバルトフェルドがこう言い返してくる。 「ちなみに、一号って、誰?」 愚問かもしれないけど、とディアッカが口にした。その口調が非常に楽しげに感じられる。 「もちろん、あれだよ」 それにバルトフェルドはこう言い返す。 「キラのことになれば、某家庭内害虫よりも厄介で女性陣にあきれられている存在だ」 そこまで言うか、と地球出身者は誰もが思う。しかし、確かにそうである以上、否定できないな、とも。 「あれは、人類以上に古くから存在していて、さらに変化もほとんどしてないからな。そういった意味では見事だよ」 もっとも、女性陣からの嫌われ方も見事だがな……と彼は付け加えた。 「そうなわけ?」 しかし、今ひとつぴんと来なかったのだろう。ディアッカがこっそりとフラガに問いかけてくる。 「お前、遭遇したことがなかったのか?」 「残念ながら」 バナディーヤにいた頃はもちろん、オーブにいた時も見なかった。あるいは自分が気が付かなかっただけかもしれないが……と彼は口にする。 「後で、マリューあたりにでも聞いておけ。どれだけ嫌な存在か教えてくれるぞ」 もっとも、ミリアリアはやめておけ、と忠告しておく。それだけで決定的に嫌われる可能性大だぞ、と付け加えれば、ディアッカはこくこくと首を縦に振って見せた。 「まぁ、当面はあれの意識を連中に向けさせておけるだろうけどね」 状況的に判断をすれば、一番まずいのはオーブの船が入港するときだろう……とバルトフェルドが口にする。彼等が一番、到着が遅いのだ。 「まぁ、警備のためにムラサメ隊は出しておくが……」 それだけで十分かどうかはわからない、と彼は顔をしかめる。 「あぁ……キラのフォローもだな」 ついでとばかりに、フラガはこういう。 「……それもあったね」 完全に蚊帳の外におかれている彼が、この状況を知ったらどうなるか。 だからといって、今教えるわけにはいかない。 「イザークにも根回ししておかねぇと……」 もっとも、無駄かもしれないが……とディアッカがため息をつく。 「大丈夫です!」 不意にメイリンが口を挟んでくる。 「ラクスさま経由で連絡をすれば、きっと大丈夫です」 今回のことは、ラクスも賛成していたから、と彼女は続けた。 「そうか」 なら、大丈夫か……とフラガも呟く。 「キラってまじで愛されているなぁ」 小さな声でディアッカがこういう。 「今更、何を言っているんだ?」 最初からわかっていたことだろう……とフラガは笑い返す。だからこそ、ここに集まっているのだ。 「そうだけどな。愛情が空回りしている奴もいるし」 退いてやるのも愛情だろうに、とディアッカは呟く。実際、ラクスはそうしているではないか、とも。 「あいつはな……思いこみが強すぎるんだよな」 自分にはキラしかいない。 こう思い込んでいるからこそ、アスランは必死にキラにすがりついている。そうしなければ、きっと、キラが自分から離れて言ってしまうと思いこんでいるのだろう。 そうならないように、別の絆を欲しがっているんじゃないのか……というマリューの意見は的を射ているのかもしれない。 「他の誰を好きになろうと、キラにとってあいつが大切な存在だっていうのは変えようがないんだろうがな」 しかし、それを告げても、あいつは曲解しかしないだろうし……とフラガはため息をつく。 「いや……この件に関してだけは、記憶がなかった方がよかったかもしれないな、俺は」 マリューを悲しませないとかキラを支えるという点では、記憶を取り戻した今の方がいいのだろうが、アスランに対してだけは《ネオ》のままでいた方が好き勝手言えたかもしれない。そんなことも考えてしまう。 何も覚えていなければ、見たままのことを口に出せたはずだし、とも。 「……おっさん……」 あきれたようにディアッカが言い返してくる。 「そんなことになってたら、ラミアス艦長に関して、本気を出していたかもしれないねぇ」 絶妙とも言えるタイミングでバルトフェルドが口を挟んできた。 「……それはそれで困るな……」 難しい問題だ、とため息をつく。 「それに……誰が何を言ってもだめだと思うぞ。あいつの耳に届くのは、間違いなくキラの声だけだ」 キラが下手にあいつに同情しているから問題なんだろう……とバルトフェルドは言い切る。 「もちろん、それがキラの長所でもあるんだが……それが裏目に出ているな」 一度、引導を渡させるしかないのだろうが、それこそ難問だ、と彼は付け加えた。 「まぁ、シンとのことがうまくいけば、キラにしても何か考えるかも、な」 そうなることを希望して今回の茶番を仕組んだわけだが……とフラガは笑う。 「ばれたときの対策も考えておくか。連中への対策も含めて」 「そうだな」 それが無難だろう、とバルトフェルドも頷く。 「取りあえず、カガリ達に連絡を。もっとも、気づかれていることをあちらに悟られないようにしてもらわなければいけないがな」 ということで、動かないとな……と呟く彼に、誰もが自分の仕事を再開した。 |