通路に出れば、誰かと連絡を取っていたらしいフラガの姿を確認することができた。
 自分が出会った彼は彼女たちと同じように全てを奪われていたらしい。それがわかっていても、シンはアスランに対するものと別の意味で複雑な感情を抱いてしまうのだ。
「あぁ、連れてきたな」
 しかし、相手の方は違うのか――それとも、それを悟らせないためか――平然とした口調でこう声をかけてくる。
 キラの方は何かを聞かされているのか、別段気にする様子を見せない。だが、マードックや自分はそういうわけにはいかないのだ。
 だからといって、自分が問いかけていいものか、とシンが悩んでいたときである。
「何かあったんですかい?」
 マードックがこう問いかける声が耳に届いた。
「あったっていうかなんて言うか……地球軍からの出向組の到着が予定より遅れるって言う話だよ」
 まぁ、あれだけ盛大に叩かれたんだ。使える艦艇も限られているって言うことだろう、とフラガは苦笑を浮かべる。
「仕方がないので、一応オーブからの補給船でこちらに向かって頂くことになりました」
 戦艦に関しては、何かを考えなければいけないだろう……とキラは付け加える。
「当面は、アークエンジェルとエターナルの二隻で何とかなるとは思いますが」
 せめて、自前の輸送船ぐらいは何とかしないといけないかな、とキラは呟く。
「まぁ、それに関しては御姫さん二人が何とかしてくれるのを期待するしかないんじゃないのか?」
 一応、バックアップは臨めるのだろう、と言うマードックの言葉にキラとフラガは苦笑を返してきた。
「あまり、それをあてにしてはいけないのでしょうけどね」
「そうだな」
 ひも付きと言われたくないから……と言う言葉の裏に隠されている複雑な事情をシンは察してしまう。だが、それでもできる限り中立の立場を取りたいと思っているのだろう、彼等は。
「難しいもんですな」
 まぁ、新しい組織を立ち上げるのは、そういうものかもしれないが……とマードックは呟く。
「今までは、かってに抜けがけして周囲には事後承諾ばかりでしたからね」
 まぁ、それはそれで別の苦労があったが……とキラはふわふわとした口調で告げる。
「……それはそれで問題だろうが」
 あきれたようにフラガがこういう。
「フラガさんにだけは言われたくないですね」
「確かに、無理を通すのは一佐の方が得意でしたからな」
 だが、それに対しキラとマードックが即座に反論を返す。
「いろいろと人には言えないことをやってきたじゃありませんか」
 さらに付け加えられた言葉に、フラガは気まずそうに視線を流した。その表情からは、あの時の《彼》の面影を見つけ出すことは難しい。
 やはり、それは人為的に精神を操作されていたからなのだろうか。
 考えてもわからないことだとわかっていても、そう思ってしまう。
「いざとなれば、技術者を募って、自前で何とかするしかないでしょうね」
 マルキオに相談をすれば、ジャンク屋ギルドとつなぎを取ってくれるだろうし……とキラは口にする。
「マルキオ様でしたら、地球軍の連中も文句は言わないでしょうからな」
 それにマードックも頷いて見せた。
「ともかく、移動しませんか? シン君の意見を聞かないと」
 それから、機体の割り当てをしなければいけないだろう、とキラは言う。
「だよなぁ……」
 できれば、それぞれの艦に適当に振り分けたいし……とフラガも頷く。
「……もっとも、そっちの坊主が使いこなせるかどうかはわからないがな」
 さらに付け加えられた言葉に、シンは少しだけむっとしてしまう。
「大丈夫ですよ。データーだけでしか確認できませんでしたが、インパルスもデスティニーもシステムとしては一緒です」
 問題は、機体の癖だけだ……とキラは口にする。
「そうかもしれんな」
 機体との相性だけは何ともしがたい……とフラガも頷く。
「まぁ、それはシミュレーション次第でなんとでもなるだろうがな」
 本人にその気があれば……と彼は付け加えた。
「自分に任された機体なら、きちんと責任を持ちますよ、俺は」
 いろいろな意味で、とシンは即座に言い返す。
「そういえば、インパルスの開発当初から関わっていたんだっけ?」
 ディアッカから聞いたけど……とキラがシンに問いかけてきた。
「はい」
「なら、大丈夫かな」
 システムの方は自分が修正をすることになるけど……とキラは微笑む。それなら、誰かさんとは違って、自分の負担が減るだろうな、とも彼は続ける。
「それは俺のことか?」
 即座にフラガが口を挟んできた。
「自覚があるのでしたら、あれはご自分でどうぞ」
 もっとも、キラも負けてはいない。
「……坊主……」
 かわいげがなくなった……とショックを隠しきれないという表情でフラガは呟く。
「二十歳の男にかわいげがあってどうするんですか」
 いや、十分可愛いです……とシンは心の中で呟く。だが、それを口に出さないだけの分別は彼にもあった。
「すまんな」
 いつものことだ、とすまなそうにマードックが口にする。
「いえ。嫌いじゃありませんから」
 こういう雰囲気は……とシンはいい返す。
「いいこだな、お前は」
 言葉とともにマードックの手がシンの頭をなでる。自分は子供ではない……と思いつつも、その手の感触がどこか嬉しいと思ってしまうシンだった。