しかし、それがこんなに長い時間になるとは思わなかった。 『すまん……どれだけ頑張っても、他の場所に被害を及ぼさねぇためには、明日の朝までかかる……』 しばらくして端末越しに連絡を寄越してきたマードックが、あの大きな体を本当に小さくしながらこういう。 「そんな……」 『大丈夫だ。少なくとも、あれが出てくるまでには解放してやるから』 そういう問題ではないのではないか、とキラは頭を抱えたくなる。 「アスランが来る前に出られないと、人死にが出ますよ」 だけならばいいが……最悪、ここが居住不能になるのではないか。そんなことすら考えてしまう。 『……あぁ、それはよくわかっているが……ただ、そこの電源系統が厄介だからな。慎重に作業を進めないとまずいだけだって』 さすがに、重要な場所の電源を落とすわけにはいかないだろう、と彼は苦笑を浮かべる。現在誰も使用していないキラの部屋はともかく……と言われてしまえば納得しないわけにはいかない。 「……わかりました。でも、できるだけ早くお願いしますね」 小さなため息とともにこう言えば、 『わかってるって』 意地でも間に合わせるから、とマードックは言い返してくる。 『ということで、作業にはいるから、切るぞ?』 さらに付け加えられた言葉に、キラは素直に頷いて見せた。 彼の姿がモニターから消えたところで、キラは小さなため息を漏らす。 「キラさん……」 「ということで、早くても明日の朝、みたいだね。ここから解放されるのは」 先にシャワーを浴びておいてよかったのかな? とキラは苦笑とともに付け加える。このままベッドの中に潜り込んでしまっても、誰にも怒られないと言うことだし、とも。 「あはははは、そうですね」 しかし、何故過信は乾いた笑いを漏らすだけだ。 「シン君?」 どうしたのだろうか、とそう思う。 「……ちょっとすみません……トイレに行ってきます」 呟くようにこう言った次の瞬間、シンは真っ直ぐにトイレへと駆け込んでいく。しかも、微妙に前屈みになりながら、だ。 「……あっ……」 そこまでされてしまえば、いくらキラだって、彼がどうしたのかはわかってしまう。自分にその感覚が薄いとはいえ、同性である以上、彼の体の反応が何の感情から起こったものなのかも、だ。 「そっか……」 それは辛いよな、とキラは呟く。 「でも、今までそんなそぶりを見せたことはなかったのに……」 昨日も同じようなことしかしていないけど……何が違うのだろうか、と思う。記憶の中をさらってみても、変わったこと問えばこうして閉じ込められていることぐらいではないだろうか。 「ひょっとして、気を遣ってくれていたのかな」 だとしたら、思い切り彼に我慢をさせていたのだろうか。それはきっと、自分が彼に甘えていたと言うことなのだろう。 実際、シンがそばにいてくれることはいやではない。いや、むしろ心地よいとも思っている。 「でも……僕に、何がして上げられるのかな?」 そんな彼のために……とキラは呟く。 しかし、いくら考えても答えは見つからない。 「って言うのか……男同士ってどんなことをするわけ?」 考えてみれば、それすらも自分は知らないのだ。シンは知っているのかもしれないけれど、今更に今更の疑問である以上、問いかけるわけにもいかないだろう。 「調べたら、出るかな?」 そんな彼の視線の先には、パソコンがあった。 ようやく収まった熱に、シンは小さなため息をつく。 「失敗したな……」 キラの前でこんなことになるはずじゃなかったのだ。 「これで、キラさんに嫌われたらどうしよう……」 ともかく、いつまでもここにこもっているわけにはいかない。嫌われそうになったら、必死に謝り倒して何とか許してもらうしかないだろう。 「もう二度とこんなことをしないって言えば……大丈夫かな?」 大丈夫だといいな……と呟きながら、手早く後始末をする。そして、そっとドアを開けた。 「シン君……」 そうすれば、困ったような泣き出しそうな、そんな表情をしたままキラが視線を向けてくる。 やっぱり、嫌がられたのだろうか。 そうだよな。自分だって、男におかずにされているなんて知ったら嫌な気持ちになるし……とシンは心の中で呟く。それでも、我慢できなかったのだから仕方がないだろう。 「……すみません、キラさん……」 ともかく、さっさと謝った方が勝ちだ。そう思って、シンはこう口にする。 「いや、謝る事じゃないから……」 好きな相手のそばにいれば普通のことだ、と思うし……と口にしながらも、キラはその顔にさらに困惑の色を深めていく。 「僕の方が、気を遣わないといけないことだったのかもしれないし……」 次第にキラの声も小さくなっていった。 「そんなことはないです!」 キラの側にいられて、本当に嬉しいんだから! とシンは慌てて言い返す。 「だから、気にしないでいいんだって……俺が変な妄想をしたのが悪いんだから……」 そういいながら、シンは何気なくキラの手元を確認する。そうすれば、パソコンのモニターに映し出されているものが何であるのか、はっきりとわかってしまった。 「キラさん、それ!」 「……ちょっと、調べていたら……」 出てきたんだよね、キラはさらに小さな声でこう言ってくる。 ひょっとして、彼のあの表情はこれを見たせいだろうか。 「そういうことをしたいって言うのは否定しないけど……その前に踏まなきゃないステップ、って言うのがあると思うんだよね」 第一、そこに書いてあることが全てじゃないし……とシンは付け加える。 「シン君?」 「ともかく……俺は、キラさんが嫌がることはしたくないんです!」 そのくらいなら、我慢する方がいい! とシンは叫ぶ。 「シン君……でも」 「……まぁ、キスぐらいは許してくれると嬉しいですけど……」 今ならいいのだろうか。そう思いながら少しだけ本音を漏らす。 「そのくらいなら……大丈夫だと思う」 「じゃ、試してもいい?」 いやなら、すぐに離れるから……とシンはキラの側に近づきながら問いかける。それにキラはそっと頷いてくれた。 |