「まったく……何をしているんだか、ルナも」 自分だけならともかく、キラにまでジュースを浴びせるなんて事はないだろう、とシンは呟く。 「でも、あの状況なら怒れないよ」 気を遣ってくれた彼女にディアッカがちょっかいをかけたのが原因のようだし、とキラは苦笑を浮かべる。 「そうですけどね」 でも、キラにかけることはないだろう……とシンは思う。どうせなら、ちょっかいをかけた相手に向かってかければいいのに、とも。 「ともかく、シャワーを浴びないと……べたべただしね」 このまま乾くことになれば恐いよ、とキラが口にする。 「そうですね。さすがに、髪の毛ががびがびになりますしね」 こう言いながら、二人はシンの部屋へとたどり着いたのだが……そこである問題に直面してしまった。というのか、それはシンの方だけの問題なのかもしれないが、それでも間違いなく厄介な事態だと言うことだけは言える。 「キラさん、先にシャワー浴びてください」 一緒にシャワーブースに入ったら、どんなことになるかわからない。だから、と考えて、シンはこう口にした。 「でも、君はどうするの?」 というよりも、シンの方がたくさん浴びてるでしょう、とキラは言い返してくる。だから、先に使うならシンの方ではないか、とも。 「ダメ! そんなことをしたら、俺がみんなに怒られる」 フラガ達男性陣はともかく、女性陣――特に、ラクスやカガリと直接連絡を取っているミリアリア――は敵に回したくない。そんなことになればキラの側にいられなくなる可能性が高いのだ。いや、それだけならばまだしも、パイロットという役目すら取り上げられかねない。 戦えない自分にどんな価値があるのか。 はっきりあって、ないとしか言いようがないのではないか、とシンは思っている。 「……そんなこと、しないと思うけどね」 みんな、とキラは苦笑を浮かべた。 「なら、一緒に入る?」 そして、予想もしていなかったセリフを口にしてくれる。 「キラさん!」 あのですね……とシンは慌ててしまう。 「俺が、キラさんをそういう意味で好きだ……って事は知っていますよね?」 「もちろん」 「じゃ、あの狭いシャワーブースで一緒にシャワーを浴びるようなことをしたら、俺が何をしでかしそうかも、わかっていますよね?」 はっきり言って、同じ部屋でキラと一緒に眠っていた……というだけであんな状態になってしまったのだ。キラの素肌を直接眼にしてしまったら止まれる自信がない。 ないどころか、かなりまずいことをしでかしてしまうに決まっている。 それが合意の上での行為ならば、誰も何も言わないだろう。 しかし、自分はまだ、キラからその合意をもらっていないのだ。だから、とシンは付け加える。 「……自分にそういう感情が薄いから、すぐに忘れちゃうんだよね」 そうすれば、キラは申し訳なさそうにこう口にした。 「別に、それはいいんだけど……そういうことだから、悪いけど、先に入ってくれませんか?」 その間に、着替えだのなんだのを用意しておくから……とシンは笑う。 「俺としては、キラさんをそのままにしておく方が精神的によくないので」 だから、先にどうぞ……と半ば放り込むようにキラをシャワーブースへと移動させる。そして、そのままドアを閉めてしまった。 「さて、と……着替えとタオルだよな……って、キラさんの予備の軍服、まだクリーニングから戻ってないじゃん!」 どうするんだよ、シンは慌てる。だが、そうしている間だけ、まずい妄想から逃げていられたことは事実だった。 ボルテールのブリッジ内で、イザークは最大限に不機嫌そうな表情を作っていた。 「それは、本当なのか?」 言外に、確認ミスだったらただではすまさないと付け加えながら、こう問いかける。 「残念ですが……」 間違いなく真実だ、と目の前の相手は言い切った。彼がここまで言い切るのであれば、嘘ではないのだろう。 「いつかは動くとは思っていたが……予想よりも早かったな」 いや、今だからこそ動いたのだろうか。イザークは心の中でそう付け加える。 「不本意だが、あちらと連絡を取らなければいけないな」 自分たちだけでも十分だとは思うが、そういうわけにはいかないだろう。目的は、自分たち――ラクス――だけではないはずなのだ。 「回線を開け。あちらなら、誰か掴まるだろう」 オーブ側へは彼等から連絡をしてもらえばいい、と彼は付け加える。 「わかりました。すぐにあちらに通信許可を求めます」 このデーターはどこまで提示していいのか、とイザークに指示を求める言葉を彼は付け加えた。 「全部提示してもかまわん。あぁ、その前に相手が誰かを確認してからだな」 キラやディアッカ、バルトフェルト、それにフラガあたりであれば大丈夫だろう。しかし、その他のものではどうなのか、今のイザークでは判断が付きかねる。 「わかりました。それでは、回線が開き次第、隊長に回します」 ある意味、丸投げに等しい状況ではあるが、その方が確実と言うことは事実だ。いつもなら怒鳴りつけるところではあるが、今回ばかりはそうはいかないだろうと納得をする。 「任せる」 だから、こう言うだけにとどめた。その瞬間、彼が思いきり胸をなで下ろしたこともわかる。 ディアッカがいないと、こう言うときに不便かもしれないな、とイザークは心の中ではき出す。それとも、自分の態度が悪いのか。 後で信頼できそうな誰かに確認しておこう……とイザークは心の中で呟いた。 その時だ。 「回線、開きました」 予想よりも早く報告が飛んでくる。と同時に、モニターにはバルトフェルドの姿が映し出された。 『こちらでも状況は掴んでいる。おびき寄せる意味でも、こちらに来てもらった方がいいだろうな』 あちらは気づいているのかどうかはわからないが、同じように伝えておく、と彼は続ける。 やはり気づいていたのか、と思いながらも、イザークは頷いて見せた。 「ところで、キラは?」 いつもなら声をかけてくるはずの彼の姿がないことに気づいて、無意識のうちに口にしてしまう。 「あぁ、食事中とか何かならかまいませんが」 次の瞬間、バルトフェルドは思いきり意味ありげな笑みを口元に浮かべる。 『別件で手が放せなくてな。ラクスなら知っていると思うぞ』 この言葉に、イザークは何かを感じ取った。しかし、ここで問いかけるわけにも行かないことも事実だろう。そんなことをすれば、キラの立場が悪くなりそうだ、とも。 「わかりました」 よろしく伝えてください……といいつつ、後でディアッカに確認してやる……とそう誓っていた。 |