そのころ、黒幕二人は別のことを相談しあっていた。
「明日の昼過ぎにはあいつらが来るんだよな……ということは、チャンスは今晩か?」
 にやりと笑いながらフラガがこう口にする。
「……性急すぎるような気はするけど……それしかないだろうね」
 それにバルトフェルドも笑いながら頷いて見せた。その様子を見て、マリューが小さなため息をつく。
「どうかしたのか?」
 彼女の仕草に、フラガが不審そうに声をかけた。
「それはいいですけど……ばれて、キラ君達に嫌われても責任はとりませんよ」
 嫌われるだけならともかく、本気で怒ってもフォローしませんからね……と彼女は言い返してくる。
「キラなら、やりかねないか」
 フラガが小さなため息とともにこうはき出す。
「だからといって、何もしないのも、な。このままじゃ、絶対にあのままだぞ、あの二人」
 キラはともかく、シンにしてみれば、蛇の生殺し状態だぞ、それは……と彼はさらに付け加える。
「あぁ、その可能性はあるねぇ。シンはずっとキラに触れられず見つめているだけ、と」
 キラにしてみれば心地よいだろうが、シンは辛いだろうな……とバルトフェルドも頷いて見せた。
「まぁ、キラの幸せだけ……を考えれば、現状が続けばいいんだろうがな。ただ、それだけではダメなんだよ」
 与えるだけでも、与えられるだけでもダメだ……ということは、経験者ならわかるだろう? と問いかければ、フラガは思いきり苦笑を浮かべた。
「それは、そうかもしれませんけど……」
 でも、とマリューはさらに言い返してくる。
「まぁ、一晩だけだ。それなら、いつもと変わらないだろう?」
 いくらなんでも、あれが来る前には解放しておかないと、まずいことは目に見えているしな……とバルトフェルドは笑う。
「それこそ、やめてください。ここが破壊されます」
 アスランなら、キラを取り戻すために施設全部を破壊することぐらいやりかねない。インフィニット・ジャスティスは置いてきたとしても、デッキにはいくらでも機体があるのだから、とマリューは真顔で口にする。
「あいつの実力なら、多少のロックは外しそうだしな。そうなると……安全なのは、キラのフリーダムとシンの新型だけか」
 あれは、キラが作ったロックをかけてあるからな……とフラガは呟く。
「だな……ともかく」
 話を元に戻そう、とバルトフェルドは苦笑を浮かべながら言葉を綴る。
「最後まで行く、行かないはともかく……キラにはシンとゆっくりと話す時間が必要だと思うのだが?」
 しかし、現状では難しい。だから、そのチャンスを与えてやるぐらいのお膳立てはしてもいいのではないか、とバルトフェルドは問いかけた。
「……本当にそれだけならいいのですけどね」
 あなた方の目的が……とマリューがにらみ付けてくる。
「ともかく、キラ君を悲しませるようなことになったら……二人ともただではすまないと思っていてくださいね?」
 アスランに全てをばらすから……というのは最大の脅し文句ではないだろうか。
「心しておこう」
 そう答えるしかない二人だった。

 とはいうものの、諦める気なんてさらさら無い。既に賽は投げられているのだ。
「……マードックさん……決行、だそうです」
 これから、キラとシンを部屋に帰しますから……とミリアリアがそっと耳打ちをする。そのまま、視線をシンとともに彼の機体――名前に関しては、あの二人の許可をもらってから決定することになったらしい――のコクピットにいる二人に向けた。そうすれば、にこやかに会話を交わしている彼等の姿が確認できる。
「了解」
 まぁ、一晩だけだからな……と彼は笑いを浮かべた。
「あの二人じゃ、どうこうなるわけないか」
 そして、ディアッカもまたこう言ってくる。
「フラガさんとバルトフェルドさんはそれを期待しているようだけど……キラとシンだから」
 無理よねー、とミリアリアも頷き返す。
「そうそう。でも、まぁ、話し合い位はできるだろうし……あいつらにとって必要なのは、それだろう?」
 二人とも、まだまだ知らないことが多いはずだ。だから、お互いのことを知る機会ぐらいは作ってやった方がいいだろうな……とディアッカは笑った。
「話をするのは必要よね」
 同じくらい、相手の言葉を聞くことも重要だろう……とミリアリアは思う。
「相手が何を優先するかわからないと、後でとんでもない失敗をするものね」
 自分がそうだったし……と意味ありげに付け加える。
「ミリィ……」
「本当。男って、恋人より親友を優先するものだったなんて、知らなかったわ」
 トールは自分を優先してくれたし、とミリアリアはさりげなく付け加えた。そうすれば、ディアッカがあたふたしているのがわかる。それで、少しは溜飲が下がっただろうか。そんなことすら考えてしまった。
「もっとも、アスランほど行きすぎるのもダメよね」
 あれでは、キラを殺してしまう。
 物理的にではなく精神的に、だ。
「……ミリィ……だから、悪かったって……」
 ディアッカが一生懸命頭を下げてくる。しかし、ミリアリアはあえて視線をそちらに向けない。
「ともかく、言い訳の方も大丈夫ですよね?」
 代わりに、マードックに向けてこう問いかけた。
「あぁ……ちょうど、シンの坊主の辺りは、電源の系統が別だからな。それに巻き込まれるのも何人かいるが、全員がシフト中だから閉じ込められるのはあの二人だけになる、はずだ」
 気の毒そうな視線をちらちらとディアッカに投げつけながら、マードックは言葉を口にし始める。
「しかも、性急に作業を進めるとなると、他の場所にも影響を及ぼしかねないって、設計なんだよ。普段なら、設計者をぶん殴ってやりたくなるところだが、今回だけはかまわないな」
 むしろ、好都合だし……という言葉に誰もが頷いてみせる。
「っていうか……最初からその気だったわけじゃねぇよな、おっさん達」
 そんな部屋をシンにあてがったなんて……とディアッカが呟く。
 それを誰もが否定できないところがちょっと恐いかも……と思ってしまうミリアリアだった。