ラクス達との打ち合わせは何事もなく終わったのに、とディアッカは思わずため息をつく。
「まぁ、ある意味、予想してたとおりだけどな」
 しかし、よくもまぁ、これだけ馬鹿なセリフを口にできるもんだ……と目の前の光景を見ながら、彼は続ける。それに付き合えるキラも、かなり度量が広いな、と関心もしてしまう。これがイザークなら、とっくの昔にぶち切れているよな、とも。
「しかし、キラが通信を終わらせるって言っているのに、何を聞いているんだか、あいつも」
 こうなれば、無理矢理割ってはいるべきか……とそう思ったときだ。
「失礼します!」
 シンとルナマリア、それにムラサメ隊の一人が飛び込んでくる。
「キラさん、すみません! 緊急事態です!!」
 シンがこう言いながら近づいていく。
『……邪魔をするな、シン!』
 今、キラと話をしていたのは自分だ……とアスランが口にする。
「ったく……そういう状況じゃないだろうが……」
 本当に、アスランはキラが絡むと状況認識がバカになるな……とディアッカはため息をつく。それはシンも同じだったらしい。
「何を言っているんだよ! 非常事態なんだぞ? あんたが来るまえにみんながあの世に言っていたら、意味ねぇじゃん」
 それでもダダこねるわけ? とアスランに向かって直球勝負を仕掛けるシンは何かを吹っ切ったからなのか、それとも以前から変わっていないのか。判断に悩むところだな、とディアッカは心の中で思う。
「悪いけど、アスラン」
 それに、キラは優先順位を間違えるような存在ではない。
「今はここまでにして。シン君だけならともかく、他の人も一緒だ……ということは、間違いなく何かあったということだし」
 責任者である以上、自分はそちらを何とかするのが自分の義務だ、ときっぱりと言い切る。
『キラ!』
 しかし、アスランはさらに追いすがろうとしてきた。
「うるさいよ、アスラン……って」
 キラがさらに文句を言おうとした瞬間だ。いきなりアスランの姿がモニターから消える。その代わりに、見慣れた人物の姿がそこには映し出されていた。
「……カガリ……」
 その手の中にあるのは、ひょっとしてスパナ、だろうか。あんなもので頭を殴られたら、いくらコーディネイターでもあの世に行きかねないぞ、とそう思う。
『すまなかったな、キラ。かまわないから、そちらの処理をしてくれ』
 だが、カガリは平然とこう口にしてきた。
「やだ、恰好いい……」
 そんな彼女の様子にルナマリアが感嘆の声を上げている。
「……今日だけは同意をするな、俺も」
 いや、彼女だけではなくシンまでもがこんなセリフを口にした。もっとも、ディアッカにしてもそう思うのだから仕方がないのかもしれない。今目の前にいるのは、昔、レジスタンスに身を投じていた頃のカガリそのままだからだ。
「ありがとう、カガリ。じゃ、また後で」
 そんな彼女に向けて、キラはふわりと優しい笑みを浮かべるとこう告げる。
『あぁ。これ抜きで、ラクスと一緒にゆっくり話をしような』
 多少のおまけは許容してやるから、とカガリも、また言葉を返してくる。そして、そのまま彼女は通信を終わらせたようだ。
「ということで……何があったの?」
 キラは表情を引き締めると、シン達へと視線を向ける。そしてこう問いかけた。
「すみません……私のミスで、現在、一部の機体の動作が不能になってしまいました」
 ルナマリアがこう言ってくる。
「いえ、彼女だけが悪いわけではありません……新型のシステムがすばらしかったので……他の機体に入れたらどうなるのか、確認できるだろうかと我々が彼女に頼んだわけです……」
 そうしたら、見事に機動不能になってしまったのだ、とムラサメ隊の代表としてやってきたらしい男がこう言ってくる。
 しかし、何かおかしい。
 というか、彼等の表情に違和感を感じてしまうんだが……とディアッカは心の中で呟いた。
 そんな彼の前で、キラが小さなため息をつく。そして、そのまま視線をメイリンへと向けた。
「今回の首謀者が誰なのか、聞いてもいいかな?」
 にっこりときれいな笑みを作りながら彼はそう口にする。その瞬間、メイリンだけではなくシン達までもが視線を周囲に彷徨わせ始めた。
「……って事は何だ? 非常事態が非常事態じゃなかったって事か?」
 思わずディアッカはこう問いかけてしまう。
「多分、ね。シンが一緒にいて、こんな事態を引き起こすはずがないし……あまりにタイミングがよすぎる」
 一緒にシステムを構築してきたのだから、どのような事態になっても対処ができないはずがないだろう、とキラは言い切る。
「……すみません。バルトフェルド隊長とフラガ一佐からの指示で……アスランの様子があれだったら、即座に連絡をするようにといわれていました」
 その後のことは彼等の判断だろう、とメイリンが白状をした。
「……すみません、半分、嘘です……機動不能になったのはシミュレーターの方なので……」
 今、マードックが修理をしている、とルナマリアが口にする。
「愛されているなぁ、キラ……っていうか、嫌われてるのか、あいつが」
「そういうわけじゃないと思うんだけどね」
 単に、遊ぶのに丁度いいと思っているだけではないか……とキラは言い返す。
「忙しいときに限ってそういうことをしたがるんだよね、ムウさんもバルトフェルド隊長も」
 苦笑とともに付け加えられた言葉に、ディアッカは同じ表情を返してしまう。
「二人とも、いっぺんあの世に行きかけたくせに、変わってないのか」
 というよりも、それだからこそ拍車がかかったのか……と考え直す。
「どうだろうね」
 元々がそうだった可能性の方が高いけど……とキラは言い返してきた。
「ともかく、機体がそのまま使えるならいいや。今回のことは、取りあえず不問にしておくね」
 何か、嫌な予感がするから……とキラは真顔で付け加える。
「アスランの奴は気づいていなかったが……イザークの方が可能性を指摘しているから大丈夫だろう」
 部下達にもそのつもりで指示を出しているはずだ、とディアッカは頷く。
「困ったものだね」
「あぁ」
 二人は顔を見合わせてこう頷きあった。