食事も終わったし、取りあえず部屋に戻って明日の準備を……とシンとキラが歩いていたときだ。
「おっ! ちょうどいいところであったな」
 ホイ、お裾分け……といいながら、フラガがシンの腕の中に紙袋を落としてくる。それをとっさに受け取りながらも、シンはフラガをにらみ付けた。
「……あんたって人は……」
 どこで何を広めているんだよ! とそのまま詰め寄る。
「いや……みんな、気にしてたからな。お前らの関係がどうなるのか」
 だから、だな……と彼は視線を彷徨わせ始めた。
「それって、俺たちのプライベートだと思うんですけど……」
 もし、自分が振られたらどうするつもりだったのか、とシンはさらに詰め寄る。そんなことになったら、恥をかくだけじゃすまないだろう、とも。
「誰も知らないなら我慢しますけどね、みんなに知られているんじゃ……ここにいられなくなるじゃないですか!」
 さらにこう付け加えたときだ。
「それ、困るんだけど……」
 脇からキラが口を挟んでくる。
「キラさん」
「……キラ……」
 何気なく視線を向ければ、彼が本気で怒っているのがわかってしまった。もちろん、フラガもわかっているのだろう。頬が引きつっている。
「そういうことですからね。これ以上、これに関しては広めないでください。今までムウさんが教えた人たちにも、そのことに関してはしっかりと釘を刺して置いてくださいね」
 でないと、仕事、放り出しますよ? とキラは付け加えた。その迫力に、フラガですら腰が引けている。
「あぁ、それいいですね。俺も、キラさんと一緒に寝ますから、その時は」
 時間になっても起こさなければいいだけですよね〜、とシンは口を挟む。そうすれば、キラは困ったように苦笑を浮かべた。
「まぁ、そうなんだけどね」
 最近は、シンをあてにしているから、とキラは口にする。だから、シンが起こしてくれなければ、いつまでも眠っている可能性があるなぁ、とも付け加えた。
「……頼むから、それはやめてくれ……特に、今は」
 あいつらが来るんだから、とフラガは真顔で言ってくる。
「なら、何をどうすればいいのか、わかっていらっしゃいますよね? フラガ一佐」
 うわ〜、役付名称がこれだけ恐いと感じたのは初めてだ……とシンは心の中で呟く。それだけ、今回のことでキラが怒っている、ということなのかもしれない。
「……わかったよ……」
 ここまでされてはフラガとしても引き下がらないわけにはいかないのか――それとも別の理由なのか――首を何度も縦に振りながらこう言ってみせる。
「では、お願いしますね。今日中に」
 そんな彼に、キラはしっかりと念を押した。そうしなかったらどうなるかわからない、とも。
「ということで、行こうか、シン君」
 こう言ってきたキラに、シンは満面の笑みとともに頷き返す。
 そのまま二人は、どこか呆然としているフラガをその場に残したまま歩き始めた。
 彼の姿が見えなくなったところで、シンは腕の中の物の存在を思い出す。
「そういえば、これ……」
 どうしよう……とシンはキラを見つめる。
「……一応、中を確認してから、かな。この調子だと何が入っているかわからないし」
「そうですね」
 フラガのあの隊度から判断して、彼だけの単独行動ではないはずだ。シンはそう思う。
「バルトフェルド隊長が何かされていたら、恐いですし」
「やだな、それ……冗談にならないって」
 シンの言葉に、キラが即座にこう言い返してくる。
「ですよね。あの人、何かまずそうだもん」
 楽しければ何でもいい……とまでは行かないだろうけど、けっこうやばいことにも詳しそうだ、とそう思う。
「どうせ遊ぶなら、アスランにしてくれればいいのに」
 それも、こっちに被害が及ばない方法で……とシンは呟く。
「……退屈しているような暇はないと思うんだけどねぇ……でも、バルトフェルドさんだからね……」
 キラもまたこう口にする。
「でも……これだけで終わらないような気がする」
「そうですね」
 絶対に、何か企んでいる……とシンは心の中で呟く。
「一応、対処できるようにしておきますね」
 取りあえず、とシンが言えば、キラも頷いて見せた。

「あららら……感づかれているようだね」
 モニターを見つめていたバルトフェルドが、それでも楽しげにこんな言葉を漏らす。
「まぁ、あれだけ派手に動いていれば気が付くと思いますよ」
 というか、キラが本気で怒っている以上、かなりまずいのではないか……とマリューが口を挟んでくる。
「そうですね。ここで、ラクスさんやカガリさんにあれこれ言われたら、矛先はアスランだけじゃなくこっちにも向きますね」
 その時は、バルトフェルド隊長が全部引き受けてくださいね、と言い切ったのはミリアリアだ。
「家の女性陣は恐いね」
 わざとらしいため息とともにバルトフェルドはこういう。しかし、女性陣は耳を貸してくれる様子はない。
「ともかく……二人の雰囲気が元に戻ったのはいいと思います。後は、邪魔が入らないようにするだけだと思うんですけど」
 メイリンがそっと口を挟んだ。
「そうね……今回のムウの行動は逆効果だったものね」
 後は見守るしかないのかもしれないが……とマリューはため息をつく。
「キラ君、頑固だから」
「そうですね。あの頑固さ加減は、アスランの盲目ぶりとためを張りますよ」
 ミリアリアの批評はかなり手厳しいが、それでも的を射ているとバルトフェルドは思う。だが、似ているようで大きな違いはあるが……とも心の中で付け加えた。
 キラの場合、きちんと説明をして納得をすれば自分の非を認めることも厭わない。そして、自分を変えていくこともできる。
 だが、アスランは……と言えば、答えは既に出ているだろう。
「……キラの場合、背中を押してやることが重要なんだよな」
 そういうことで、計画通り実行しよう……とバルトフェルドは心の中で呟く。だが、それは女性陣にばれないようにしなければいけないようだな、とも。取りあえず、実行前には、だ。
「何かおっしゃいました?」
 呟きだけは耳に届いたのか。ミリアリアがこう問いかけてくる。
「何。同じように二人の様子を盗み見ている君達も、同罪なのかどうか、とそう思っただけだよ」
 この言葉に、女性陣は即座に反論をしてきた。それをバルトフェルドは苦笑を浮かべながら受け流す。
「いや。やっぱりみんな、元気なのがいいね」
 そして、どこまで本気なのかわからない呟きを漏らしていた。