同じ頃、フラガとバルトフェルドもまた頭を悩ませていた。
「ともかく……だ。オーブの連中には悪いが、キラのいる場所から一番遠いところに用意しておいたが……」
「相手が相手だからね。当然、抜け出すものと考えておいた方がいいだろうな」
 そして、目的地は当然一カ所だろうな……とバルトフェルドも頷いてみせる。
「さすがに、それに関しては阻止しなければいけないだろうがな」
 どのような手段を使ってでも……と付け加える彼に、フラガは苦笑を深めた。
「いっそのこと、トラップでも仕掛けておくか?」
 おしおきの意味をかねて、とフラガは口にしてしまう。そうすれば、事態を知った女性陣から思い切りお小言の嵐を浴びるだろうし、とも。もっとも、それで彼が大人しくなるかどうかは別問題だが。
「いい考えだが……キラが引っかかりそうだな」
 特に、沈没寸前の時は……とバルトフェルドが冷静に指摘をしてくる。はっきり言って、今回の準備でキラの仕事量は既に極限を超えているのだ――それでも、他の連中がかなり使えるようになっているから、まだマシなのかもしれないが――だから、沈没寸前のキラを、シンが部屋まで引きずっていく姿が日常化しつつある。シン本人にしてみれば、抱えて歩きたいところなのだろうが、さすがに、二人の体格差ではまだ無理だろう。
「……それなんだけどな」
 にやりと、フラガは唇をゆがめる。
「いっそのこと、トラップを仕掛けている間、坊主をシンの所に引っ越しさせるっていうのはどうだ?」
 その方が、あれこれしやすいだろう……と付け加えれば、バルトフェルドが一瞬目を見開く。だが、すぐにその口元に笑みが浮かんだ。
「それは面白いな」
 そして、こんな感想を漏らす。
「あの初々しさには見ていて楽しいんだが……いい加減焦れてきたしな」
 さっさと次のステップに進んでもらってもいいかもしれん、とさらにこんなセリフまで彼は口にした。
 しかし、それに関してはフラガも同じ意見だ。
 完全にできてしまえば、アスランの頭も冷える可能性がある。もっとも、逆に暴走する可能性があることも否定はできないが。だが、アスランがショックで呆然としている間にいくらでも対処は取れるだろう。
 何よりも、キラが幸せになってくれるのではないか。そう思うのだ。
「ネズミも雄と雌を同じ部屋に閉じ込めておけば子供ができるっていうしなぁ」
 女性陣には決して言えないようなセリフも、バルトフェルド相手では遠慮することがない。
「あぁ、それはいいな。いっそ、故意に閉じ込めるかね?」
 強制的に休暇を取らせる意味でも……と彼も乗ってくる。
「根回しをしておいて……やるか?」
「うまくいったら、祝杯……ということでね」
 こう言いながら、二人は思いきり人の悪い笑みを口元に浮かべた。
「でも、できると思うかね?」
「……キラはともかく、シンの方はまだまだオコサマだからなぁ……据え膳を食えるかどうか」
 まして、相手がキラだしなぁ……とフラガは呟く。
「いや、若いからこそ勢いがつけば最後まで突っ走るんじゃないかね?」
 その言葉に、バルトフェルドがこう言い返してきた。
「おやおや。虎さんはそう言う方だったんですか〜」
「なんの。君の武勇伝には負けると思うよ」
 こんな会話も楽しめるしな……と思いながら、フラガはさらに言葉を重ねる。
「じゃ、かけるか?」
「いいな」
 即座に話がまとまった。そのまま、二人はキラとシンを同じ部屋に閉じ込めるために必要な根回しをするために動き出す。
「できれば、あいつらが来る前に結論が出てくれればいいんだけどな」
 こう呟く声に、答えは返ってこなかった。

 当人達は、そんなことを仕組まれているとは考えてもいない。いや、それどころではないといった方がいいのか。
「シン君……悪いけど、そこの書類をマリューさんに渡してきてくれる?」
 そうしたら、帰りに食堂によって何か飲み物を取ってきてくれると嬉しい……とキラは付け加える。
「はいはい。ついでに、何かつまむものももらってくるから、食べてくださいよ」
 今朝から、軍用の栄養ドリンクしか口にしていないだろう、とシンは言い返す。戦闘中ならともかく、日常でそんなものを口にする人間を初めて見た、とも。
「そう? イザークもよくやっているって聞いたよ」
 後ディアッカも……と笑いながら、キラは言葉を返してくる。
「あの人達に比べて、キラさん、細いじゃないですか」
 それに、彼等は十分、ペース配分をわきまえているようだし……とシンは思う。実際、今はキラと同じくらい忙しい様に見えるディアッカも、休むときにはしっかりと休んでいるのだ。少なくとも、食事だけはちゃんと食堂で取っているはず。
「そうかな?」
「そうです!」
 キラの言葉に、シンはきっぱりと言い返した。
「……でも、僕は別段これで体をこわすこともないし……」
 だから、大丈夫だと思うんだけど、とキラは苦笑を浮かべた。
「キラさんが大丈夫でも、見ている人間の方はそう思えないんです!」
 シンは即座に反論を返す。
「せめて、食事だけは食堂で取ってくれれば……それで妥協できるんですけどね」
 それもしてくれないから、とシンは思わず愚痴をこぼしてしまう。
「ごめん……でも、今きちんとしていないと、後が困るし……」
 アスランが来たら、きっと仕事にならなくなる。キラはこう呟く。
「それでも、その時にキラさんが倒れたら、もっと大変です!」
 アスランがあれこれごり押しをしてくるのが目に見えている……とシンは言い返す。
「……そうかな?」
「そうです!」
 あの迫力でやられたら、きっと、ラクス以外の人間には太刀打ちができないのではないか。少なくとも、自分が入手した情報からではそうとしか判断できない。その結果、アスランがここに配属されるようなことになったらどうするのか、とシンは付け加える。
「それは……困るね」
 完全に仕事が滞りそうだ、とキラもため息をつく。最悪、出撃しようとするのを邪魔してくれるかもしれないし、とも。
「でしょう? だから、食事と睡眠だけはきちっと取ってくださいよ」
 ね、というシンにキラはようやく頷いてくれた。
 しかし、その言葉をどこまで信頼していいものか。微妙に悩んでしまうシンだった。