自分の後ろに座っている人間の浮かれぶりに、思わず撃ち殺してやろうかなどと、カガリは物騒なことを考えてしまう。
 取りあえず、オーブ内での不満分子の洗い出しは情報部に任せることにした。そして、呼び出すためには自分たちがいない方がいい……とそう判断をしてキラ達の元に向かうことになったのだ。
 その中にアスランの姿があるのは、彼に押し切られたからではない。むしろ、目を離すと何をしでかすかわからない、と言う理由の方が大きいのだ。
「ラクスが、既に布陣を整えてあると言っていたしな」
 アスランを排除するための……という言葉をカガリは飲み込む。そんなことを後ろにいるアスランに聞かれたら、何をしでかすのかわからないのだ。一度暴走をすれば、自分が納得するまで、周囲にどれだけ迷惑をかけようとも止まらない。だからこそ厄介なのだ。
「……また、キラにあんな事を言われても困るし、な」
 もっとも、そうなればそうなったで、ただではすまないだろうが……と思う。自分やミリアリアだけではなく、今度はラクスやイザーク達もいるのだ。キラ大切な連中の前で失言をはけば、みんなに袋だたきにあうに決まっている。
 そうすれば、少しは懲りるだろう……と心の中で付け加えた。
「その時は、下手に同情をしないようにキラに言っておかないとな」
 せっかくの構成のチャンスを潰さないように……とも付け加える。
 アスランのためだ、といえばキラだって、取りあえずは納得してくれるだろう、とそう思う。
 キラだって、今のアスランの状態がいいとは思っていないはずなのだし。
「そういや……あちらはあちらで問題があったな」
 あっちの方は少しは進展したのか……とそう付け加える。
「……まぁ、キラのそばにさえ近づけなければいいのか」
 あれを……といいながら、カガリはまたアスランへと視線を向けた。
 そこではアスランがパソコンのモニターを見つめながらうっとりとした表情をしているのが見えた。その表情を見れば、そこに何が映し出されていたのか簡単に想像が付いてしまう。
「まったく、あいつは……」
 どうしてああなんだか……とため息をつきたくなる。
「やっぱり、置いてくるべきだったか」
 オーブの恥をさらしに行くようなものだぞ、とそうも呟く。
 もっとも、プラント側のメンバーの中心もアスランのこれはよく知っているはずだから、驚きはしないだろう。
 問題なのは、キラの部下達のほうか。
「……いっそ、一服盛らせるか」
 会談が終わるまで眠らせておくというのも一つの手だな……と本気で思ってしまう。
 しかし、それはあまりにあまりだろうか。
 カガリがこんなことを考えた瞬間だ。
「……キラ……」
 アスランの妙な呟きが耳に届く。
 その瞬間、カガリは自分の中に残っていたアスランに対する同情心が完全に消える。
「ラクスに相談だな」
 こうなれば、意地でもキラの側に近づけさせてたまるか。カガリはその思いを新たにしたのだった。

「三人で顔を合わせるのは久しぶりですわね」
 ラクスはふわりと微笑みながら、こう呟く。
「あれが来なければ、もっと幸せでしょうに……ますます悪化しているそうですから」
 困ったものですわね……と付け加えれば、背後から意味不明のうめき声が響いてきた。
「どうかなさいましたか?」
 言葉とともに視線を向ければ、イザークが頭を抱えているのがわかる。
「イザーク?」
「……何でもありません……」
 ラクスの問いかけに、彼はこう言い返してきた。
「それならよろしいのですが……無理はなさらないでくださいね。今の状況であれば、シホさんにいて頂くだけでも十分だと思いますわ」
 だから、休んでください……とラクスは付け加える。
「大丈夫です」
 少しもそうは思えない表情のまま、彼はこう言い返してきた。その口調には、どこか悲壮感すら感じられる。
「……そうですの?」
 いったいどうしたのだろうか、とラクスは小首をかしげた。その瞬間、さらりと髪が音を立てる。
「でも、本当に無理はなさらないでくださいね。あちらに着いたら、活躍して頂かなければいけませんもの」
 アスランを止められるとすれば、ザフト内ではイザークとディアッカぐらいだろうから……とラクスは真顔で付け加える。
「オーブの方々も頑張ってくださる、とは思いますが……ナチュラルの方がほとんどだそうですし。キラに近づけたくありませんもの」
 今のキラには、アスランのあの思考のループに付き合うだけの余裕があるとは思えないから……とラクスはため息をつく。
「その予定で、ディアッカを先に行かせたのですが」
 信用できるかどうか……とイザークは付け加えた。
「大丈夫だ、と思いますわよ」
 彼はしっかりとやるだろう、とラクスは微笑み返す。そう思える根拠があったからこそ、自分は許可を出したのだから、とも。
「ハウ嬢がいますからね。彼女の前であれば、それこそ張り切るでしょうが……」
 アスランがさらにグレードアップしていればどうだろうか、とイザークはぼやいている。
「キラの周囲の連中も協力をしているから、大丈夫だろうとは思いますが」
「そうですわよ。後は、シンに頑張って頂きましょう」
 いろいろな意味で……とラクスはさらに笑みを深めた。
「シン・アスカ……ですか?」
「えぇ。どうやら、現在、キラの護衛役は彼だそうですの。だから、彼に頑張ってアスランを止めて頂きませんと」
 こうは言うものの、もちろんそれだけではないのだ、とラクスは心の中で付け加える。別の意味でも彼に頑張ってもらわなければいけないのだ。
 もっとも、ミリアリアや他の者達からのメールを見れば、それなりに進展しているようには思える。後は、ようやく芽生えた若葉を誰かに折られないようにするだけだ。
「アスランには邪魔させませんわ」
 自分に言い聞かせるようにラクスはこう呟く。
 同時に、いっそどこかで失態を犯してくれないか……とそう思う気持ちもある。そうなれば、それこそ引導を渡せるのに、と。
 だが、それではキラが悲しむことになる。
「本当、難しいですわね」
 小さなため息とともに、ラクスはこう呟いた。