はっきり言って、困った……とシンは思う。
 目の前であんな会話を繰り広げられては出て行くわけにはいかないじゃないか、とそう思うのだ。
「……女って、わかんねぇ……」
 ミリアリアの言っていることはわかる。しかし、ルナマリアのは……とシンはため息をつく。
「ともかく……今はやめておくか」
 ここで出て行くような愚を犯すつもりはない。そんなことになれば、本当にいいかもにされてしまう。まして、自分の気持ちを自覚してしまった今は、だ。
「仕方がない。部屋に戻るか」
 小さなため息とともにシンはきびすを返す。そして、そのまま何歩か歩いたときだ。
「アスカ」
 不意に声がかけられる。
「はい?」
 あの二人にこの声が届いていないといいんだが……と思いながら、シンは振り向く。聞こえてしまえば、自分の選択は無駄になるし、とも。
「よかった。キラが呼んでいるんだが、部屋にいなかったからな」
 探していたのだ、と彼は付け加える。
「すみません、ノイマンさん」
 まさかそんなことになっているとは思わなかった……と言外に付け加えながら、シンは頭を下げた。同時に、いったい何があったのだろうか……とも思う。
「気にすることはない。アスカは今、休憩時間だからな。どこにいようともかまわない。呼び出そうと言うことになったのは、こちらの都合だしな」
 そういって、ノイマンは穏やかな笑みを浮かべる。それは、大人の余裕なのだろうか。そして、自分に、それがあれば、キラはもう少し頼ってくれるかもしれない。こんなことも考えてしまう。
 もっとも、そうだったら自分たちは出会うことはできなかっただろう、とすぐに思い直す。
 それに、これから変わっていけばいいだけじゃないか、とも。
「向上心があることはいいことだ。理由がなんであれ」
 どうやら、自分の考えなんてしっかりと気づかれていたらしい。ノイマンはこう言って苦笑を浮かべる。
「……あの……」
「キラ達はブリーフィングルームにいる。俺は少しハウと打ち合わせがあるからな」
 ついでに、ホーク姉も引きずり込んでおくか……という言葉にシンはあれっと思ってしまう。
「……ルナ、もですか?」
「彼女であれば、ザラを適当にあしらってくれそうだからな」
 つまりは、アスランをキラから引き離すための打ち合わせ、ということか。
 今の彼女であれば、間違いなく協力してくれそうだ、とそう思う。それに、自分が出て行かない方がいいことも簡単に想像が付いた。
「わかりました。ブリーフィングルームですね」
 だったら、キラの側に行った方がいい。そう判断してこう告げる。
「そうしてくれ」
 ノイマンが小さく頷き返した。だが、すぐに彼はふっときまじめそうな表情を和らげる。
「ノイマンさん?」
「どうやら、君の方は吹っ切れたようだな」
 となると、後はヤマトか……と呟かれた言葉の意味がわからないわけがない。
「……あのですね」
「ヤマトは鈍いからな。アスカが頑張ってくれ」
 だから何をですか……とそう言い返しながらも、シンは自分の頬がだんだん熱くなっていることに気づいてしまった。

 大まかな警備の話し合いを終わらせて、後は雑談だけ、というときだった。
「シンです」
 端末からシンの声が響いてくる。
「……シン君?」
 どうして、とキラは思わず呟く。彼は今休憩時間だったはずなのに、何かあったのだろうか、とも。
「あぁ、俺が呼んできてもらったんだ」
 そういってにやりと笑ったのはフラガだ。
「ムウさん?」
 なんで、とキラは呟く。パイロットにとって休憩を取るのも大切な仕事だ、とそういっていたのは彼だったのに、とそう思ったのだ。
「あいつが、お前の補佐だっていうのはみんなが認めていることだしな。アスランの攻撃を一番受けるのはあいつになりそうだろう?」
 だから、一応話をしておいた方がいいだろう、とそう思ったのだ。そういって彼は笑う。
「……だからって」
「まぁまぁ。いいじゃん。俺もあいつと話したかったし」
 女性陣抜きで……という言葉の裏に隠された意味がわからない。
「ディアッカ?」
「さすがに、下ネタに関しては女性陣の前ではできないだろう?」
 にやりと笑いながら彼が口にした言葉に、キラは呆然としてしまう。その隙を逃さず、フラガはさっさとシンに入室の許可を与えていた。
「ムウさん……」
 本当に、どうして自分を無視して物事を進めるのだろうか、とそう思ってしまう。自分は一応ここの責任者なのに、とも心の中で呟く。
「失礼します。お呼びだって聞きましたけど?」
 キラさん、とシンが呼びかけてきた。それになんと言い返すべきか……とキラは悩んでしまう。
「あぁ、呼んだのは俺だ」
「ついでに、俺も話があったしな」
 そんなキラを無視して、よく似た表情で二人がにやにやと笑いを漏らす。はっきり言って、それは思い切りまずいのではないかと思わせるものだ。
「というわけで、さっさとこっちに来い」
 しかし、何と言って彼等を止めればいいのか。
 それ以前に、自分の言葉を聞き入れてくれる気があるのかどうかもわからない。
「……変なことだけは言わないでくれるといいなぁ……」
 というより、言わないでくれ。
 そう祈るしかできないキラだった。