どこに火種が残っているのかはわからない。 だからといって、彼女たちのスケジュールをこれ以上狂わせるわけにはいかない、ということも事実だ。二人そろって、というのがパフォーマンスとしても必要である事も否定できない。 「……というわけで、俺が先発で乗り込んできたわけ」 久々顔を合わせても、彼は変わらないな……とディアッカの表情を見ながらキラは思う。 「オーブからは……来てないわけ?」 「必要ないだろうって、キサカさんが。あるいは、手を割けないだけかもしれないけど」 まだ、何があるかわからない。だから、現在のオーブに不満を持っている人間を洗い出している最中らしいのだ、とキラは苦笑とともに言葉にした。 「というわけだから、取りあえずオフレコにしておいてね」 いずれは、オーブから正式に経過が報告されると思うから……と付け加える。 「……まぁ、必要最低限には話をしておくぞ」 イザークとラクスぐらいには……と言外にディアッカは告げてきた。 「もちろん、彼等にまで内緒にしておけ、というのは無理でしょう」 わかっているから、といいながら、キラは視線で彼を促す。さすがにこれ以上は立ち話ではできないと思うのだ。現状では、どこにあちら側の人間がいるのかわからなくなってきているし、とも。 「そういや、あれは使い物になってるわけ?」 ふっと思い出した、というようにディアッカは話題を変える。そのさりげなさに、誰もそれが故意に行われているものだとは気が付かないのではないか。それなりにディアッカと付き合いがあるキラですら、今の態度にそう感じさせられるほどだ。 「あれって……どっち?」 思い当たるのは二人ほどいるけど、とキラもその話題に乗ることにする。 「かわいげのない方」 ディアッカは即答した。しかし、キラには思い当たりものがない。 「かわいげって……二人とも可愛いよ。ルナマリアはしっかりとしているし、シンはシンで、最近はムウさん達の代わりに僕の世話を焼いてくれているし」 今はシミュレーションをしているはずだから、二人ともこの場にはいないけど……とキラは付け加える。オーブや地球軍から来た者達とのフォーメーションの確認をさせているのだ。そして、それの監督はフラガがしてくれているはず、とキラは口にする。 「……ふぅん」 次の瞬間、ディアッカが意味ありげな表情を作った。 「ディアッカ?」 どうかしたの……とキラは一抹の不安を抱えながら問いかける。彼が今浮かべている表情がどのような意味を持っているのか、思い当たるものがあるのだ。同時に、普段からよく似ている……とは思っていたが、余計なところまで彼に似なくてもいいのに、とも思ってしまう。 「で、どこまで行った?」 予想通りと言うべきか。 興味津々といった口調でディアッカはこう問いかけてくる。 「どこまでって……この前、演習で月軌道までは行ったけど……あの時も、シン君にあれこれ押しつけちゃったっけ」 というよりも、バルトフェルドがシンに自分の面倒を全て押しつけたのだ。その結果、何故か彼がルナマリアに恨まれる結果になってしまったようだ、ともキラは呟く。 「そういう事じゃないって」 わかっていて言っているだろう、お前……といいながらディアッカはキラの肩に手を置いた。そのまま自分の方へを引き寄せる。 「ディアッカ、痛いって」 こんな風に、屈託なくふれ合える相手……というのは、自分が今必要なものなのだろうか。キラはディアッカに言い返しながらもこんなことを考えてしまう。 昔は、アスランとよくこうしていた。 しかし、今の彼とはできない。 理由はわからないがそう思ってしまう。 「お前が、ちゃんと白状してくれるなら、離してやるが?」 こんな風に笑いあえればそれが一番なのに、と心の中で付け加える。 「……ミリィに泣きつくよ」 ともかく、今は別のことを考えよう。そう思って反撃に出ることにする。 「ラクスの方がいい?」 「……キラ……」 どっちもやめてくれ、とディアッカは訴えてきた。そんな彼にキラは微苦笑を向ける。 「どうしようかな〜」 そしてさらに言葉を重ねれば、ディアッカの表情がものすごくゆがむのがわかった。 「頼むって……ラクスはともかく、ここでミリィに嫌われるのまじできついんだって」 ようやくメールに返事が返ってくるようになったんだから、とディアッカは必死の形相で訴えてくる。 「じゃ、ディアッカもこれ以上余計なことは言わないでね」 そんな彼に、晴れやかな口調でキラはこう言い返した。 何か、目の前の光景がものすごく気に入らない。 それがどうしてなのだろう、とシンは本気で悩んでしまう。 キラとディアッカ、それにルナマリア達が話をしている光景のどこに、自分がむかつく理由があるのかわからないのだ。 ルナマリア達に関して言えばいつものことだし、ディアッカがキラにとって大切な友人であることも聞いている。 それなのに、どうしてこうもいらいらするんだろうか。 思わず、小さなため息が出てしまう。 「シン君?」 それに気が付いたのか。キラがいつものように声をかけてくれた。 「こっちにおいでよ」 ね? と彼はシンを手招く。 それだけで、いらいらが解消してしまった事に、シンは心の中で自嘲の笑みを浮かべたくなった。もっとも、それを表情に表すことができないと言うことももちろんわかっている。 「はい」 素直に頷くと、キラ達の方へと歩み寄っていく。 「こっち、こっち」 だが、キラの向かいに座ろうとしたシンをディアッカが強引に呼び寄せる。 「あ、ずるい!」 自分がねらっていたのに、とルナマリアが即座に抗議の声を上げた。 「ずるいも何も……女性陣がキラの隣の争奪戦を始めたらまずいだろう?」 だから、ここにはこいつを置いておくのが一番安全なんだって……とディアッカが言い返す。 「キラもその方が気持ち的に楽だろう?」 そのまま彼は話題をキラに振った。 「……ミリィなら昔から一緒だからいいけどね」 でなければ、シンがいいかな、とキラも頷いてみせる。 「ミリィは、俺が困るから……な?」 その言葉に、ディアッカが苦笑とともにこう言い返す。 「何が『な?』なのよ!」 即座にミリアリアが反論をする。それに、キラだけではなくシンまでもが思わず笑いを漏らしてしまった。 「ミリィ……いいじゃない」 「よくないわよ! こいつは私よりもイザークを優先するのよ!」 そんな相手と付き合えないわよ! と彼女は叫ぶ。好きになってくれるなら、自分だけを見て欲しいもの……という彼女の言葉に、シンは自分の疑問の答えを言われたような気がした。 |