「……名前、ですか?」
 結局、自分だけではいい考えが思い浮かばなかったキラは、シンに相談することにした。
「何がいいって言われても……」
 すぐには出てこない、と彼は言い返してくる。
「っていうか、俺の意見なんて聞かれると思わなかったから」
 普通は、そこまで決めてからテストに入るんじゃないかと……とシンは付け加えた。
「そうなの?」
「少なくとも、インパルスはそうでした」
 他の機体もそうなのではないのか、と言われて、キラは首をかしげる。
「……オーブだと、最初はみんなXナンバーしか付かないらしいから。運用できるかどうかわからなくて却下された機体もあるって言う話だし」
 開発の人間が調子に乗ってとんでもないものを作ってくるからね、と苦笑とともに口にした。そのいい例が、今回のあれだろうとも。シンもなんのことかすぐに察してくれたらしい。
「まぁ、あれ以外は十分以上の性能ですから」
 キラが作ってくれたシステムがそれを引き出してくれているし……と言うシンの言葉が、どこかこそばゆく感じられる。
「君がそういってくれるなら、OSの方は大丈夫だね」
 ということは、後はあちらのバックアップユニットに関してだけか……とキラは心の中で呟く。他の二つが十分に使用可能だから、当面は心配はいらないと言うバルトフェルドの言葉は正しいのだろう。
「となると、後はやっぱり……」
「……名前、ですか」
 面倒くさい、と二人は思いきり顔に出してしまった。だからといって、決めないわけにもいかないのだ。
「オーブ風に決めるか、それともって言うことだけでも考えておけば、後は適当に語感のいい名前を探してくればいいかな、って気もするんですけど」
 いざとなれば、αとかγとβでもいいですけど……とシンは言い切る。
「それは……カガリ達が文句を言いそうだね」
 もう少し威厳のある名前を付けろ、と彼女なら怒鳴るだろう……とキラは苦笑を浮かべた。
「……あの人なら、そのくらい言いそうですね」
 シンがちょっと吐き捨てるようにこう呟く。
「まだ……カガリのことは嫌い?」
 その言葉に、キラは思わずこう聞き返してしまう。
「……あの人は……今はもう、そうでもないです。でも、実力を伴わない言葉は、まだ信用できない……」
 守りきれる自信があるならいいが……と彼は続ける。
 その言葉の裏に、シンの心の傷がどれだけ深いのかをキラは改めて見せつけられた様な気がするのは、錯覚だろうか。
「シン君……」
 どう言葉をかければいいのか、キラにはわからない。
「……でも、キラさんは信じられる。そう思うから、俺はここにいるんです」
 そして、守ることを自分は選んだのだ……とシンは言い返す。
「それだけは信じて欲しいなって思うんだけど……」
 キラの態度から何かを感じ取ったのか、シンはこんなセリフを口にする。
「君の事は、疑ってないよ」
 シンの言葉に、キラは即座にこう言い返す。
「むしろ、僕の方が信頼されていないんじゃないかなって思っていたんだけど」
 確かに、シンはこうしてそばにいてくれるし、力もかしてくれる。そんな彼が気になっていたことも否定しない。
 だから、フラガ達が言っているような意味で彼を見ていたわけではない……とキラは心の中で呟く。いや、そう思いたいのだ、とも。
「そんなこと、あるわけない!」
 キラ個人を知らなかったあのころならともかく、今は……とシンは即座に言ってくる。
「あんただけだったんだよ……俺に、戦う事じゃなくて死んだ人のために何かできることを考えていいんだって、そういってくれたのは」
 ラクスはともかく、カガリはそんなことを一言も口にしたことがないだろう、とも。
「シン君」
「だから……だから、俺は」
 こう言いながら、シンの手がキラの体を抱きしめてくる。いや、すがりついてくると言った方がいいのかもしれない。
「わかっているよ。だから、落ち着いて」
 ね、と囁きながら、そっとその背中をなでてやる。
「キラさん……俺は……」
 デュランダルが戦争のない世界を作ってくれると言ったから……と彼は嗚咽とともに口にした。だからこそ、それが正義だと思っていたのだ、とも。
「わかっているよ」
 シンの望みがいつでも変わらないと言うことを……とキラは囁く。
 ただ、タイミングが悪かったからこそ、自分たちは敵対をすることになったのだ。でなければ、もっと早く同じ道を進むことができたのかもしれない。
 過去は帰られないけど、未来は違うから……とも付け加えた。
「……キラさん……」
 シンの腕にさらに力がこもる。手加減がないそれに、キラは痛みを感じていた。しかし、それを口には出さない。
「だから、これ以上、道を間違える人や利用される人がいないように……僕たちは頑張らないと、ね」
 一緒に戦ってくれるのでしょう、とキラはシンの耳元で囁いた。
「……はい……」
 キラが自分にそれを望んでくれるなら、とシンは頷いてみせる。
「君が離れたいと思わないうちは、ずっと一緒にいるよ」
 だから、安心して……と口にしたのはどうしてなのか。その理由はキラ自身にもわからない。
「キラさん……」
 それに、シンは何度も首を縦に振った。
「だから……あれの名前を本気で考えようね」
 自分の中に余計な感情が芽生える前に……と言うわけではないが、キラはこうも付け加える。
「はい、キラさん」
 それに、シンは泣き笑いの表情を作って見せた。