キラ達が向かったのは、オーブが所有していたプラントの一つだった。
 ここはかつてのヘリオポリスと同じで元々が資源及び工場プラントだったこともあって、施設が充実している。そして、地球とプラントからもほぼ等距離にある。
 だから、何かあっても即座に対処できるだろう。
「……地上にも一応、部隊を置いておきたいところではあるがな……」
 これから自分たちが使うことになる部屋を見回しながら、バルトフェルドはこう呟く。
「まぁ、そっちはオーブをはじめとした連中に頑張ってもらうしかないだろうな」
 地球上のことは……とフラガが口にする。その方が人々の混乱を最小限に収められるだろう、とも。
「そうだな。オーブで収拾が付けられなくなったときはお呼び出しがかかるだろう」
 その時に、自分たちは向かえばいい。
「……そうですね」
 確かに、それが無難だろう。しかし、それで手遅れにならなければいいのだが……とキラは心の中で呟く。
「オーブにはアスラン達もいるし、プラントにはイザーク達がいる。それぞれ優秀なパイロットも付いているからな。心配はいらないだろう」
 自分たちは、できるだけ活躍の場がない方がいいのだ。存在をしていることでバカの動きを封じればいい。そうなることが理想だろう、と言葉に、キラも素直に頷いても見せた。
「そうなれば……オーブ軍やザフトから優秀な人材を取り上げてよかったのかどうか、わからなくなりますけどね」
 思わずこう口にすれば、
「あぁ、気にするなって。少なくともオーブの連中は選別が大変だったらしいぞ」
 とフラガが苦笑とともに言葉を返してくる。
「その筆頭が誰かは、お前もわかっているだろう?」
 さらに付け加えられた言葉に、キラは思わず苦笑を返す。
「こっちの方も、元々エターナルに乗っていたクルーがメインだから、心配はいらないぞ」
 パイロットに関しても、心配はいらないだろう……とバルトフェルドも付け加える。キラのすごさは、身にしみているはずだからな……とも。
「それって……」
「ザフトの連中で、お前のすごさを知らない人間はいないからな」
 ラクスやイザーク、ディアッカはもちろん、メイリンも触れ回っていたからな……と彼は笑う。
「それって、嬉しくないです……」
 というよりも、あまりあれこれ話を広げないで欲しいな……とキラはため息をつく。
「取りあえず、連中の顔を見に行くか?」
 細々とした指示はノイマンやダコスタが出してくれているだろうが、やはりキラが顔を出すと雰囲気が変わるだろう、とフラガは言う。
「そうしてこい。こっちは任されよう」
 必要だと思われる作業をピックアップしておく……と言う言葉はありがたいのだろうか。それともイジメなのか。ちょっと悩むところではある。
 だが、現実問題としてやらなければならない作業だと言うことは否定できない。
「お願いします」
 自分よりも彼の方が経験がある。それがよくわかって言うから、キラは素直にこう告げた。
「任せておけ」
 バルトフェルドはにやりと笑うとこう言い返してくる。それにキラも微笑みを返した。

 顔見知りのものが多いのか。それとも別の理由からなのだろうか。
 目の前では、ザフトのものもオーブ軍のものもこだわりがないというように語り合っている。その中にはメイリンの姿もあった。
 だが、自分たちはそういうわけにはいかない。
「……まぁ、それも当然なんだろうな」
 自分たちと違って彼等はあの戦いの最中もともに戦った仲なのだ。中には、前の戦いの時からの顔見知りのものもいるらしい。
 ならば、あの様子も当然だろうとはわかっている。わかっていても疎外感は消せないのだ。
 そんなことを考えていたときである。
「お姉ちゃん、シン」
 言葉とともにメイリンが駆け寄ってくるのが見えた。その後ろにがっしりとした体格の壮年の男性の姿が見える。
「どうしたの、メイリン?」
 服装からして、オーブから来た人間だろう。と言うことは、アークエンジェルに乗っていたクルーだと言うことになる。
「あのね、マードックさんが挨拶をしておきたいって」
 アークエンジェルの整備チーフなの、とメイリンは彼を紹介してくれた。言われてみれば、どこかエイブスと似通った雰囲気を身に纏っている。
「これから、一番、お世話になるかもしれないでしょう?」
 それは、自分たちが状況次第でどちらの艦で出撃をするのかわからない、と言うこともあるからだろう。
「そうね」
 それでなくても、パイロットと整備クルーは一番密接な関係にあると言っていい。彼等との信頼関係がこれからの任務と大きく関わってくる以上、紹介してもらった方がいいだろうと、シンも思う。
「お前さん達が、元インパルスとデスティニーのパイロットか」
 すぐそばまでやってきた相手がシンとルナマリアの顔を見てこう口にする。
「お前さん達には、本当に手こずらせてもらったぜ」
 この言葉にシンは思わず身を強ばらせた。
 しかし、ガキだなぁ、と彼は何でもないように続ける。
「クルーゼ隊の連中も、やっぱり坊主だったしなぁ。キラも、最初会ったときはよくなく坊主だったし……」
 と磊落に笑う彼の態度からは、とてもこだわりがあるようには感じられない。
「まぁ、今度は味方なんだ。よろしく頼むぜ」
 こう言いながらマードックは二人の肩を遠慮せずに叩いてくる。
 こういう人は嫌いじゃない。というよりも、こういう人がいてくれるなら安心できる、と思う。
「……はい」
 痛みに少しだけ顔をしかめながら、シンはこう口にした。