その情報は、しっかりとアスランの耳にも届いてしまった。
「カガリ!」
 勢いのまま、アスランはカガリへと通信を入れる。ここでキラ達に通信をつなげないだけの分別は辛うじて残っていたらしい、と自分でも思う。
『この忙しいときに何の用事だ!』
 お前に与えた任務は終わったのか、と彼女は問いかけてくる。
「……それよりも、キラの方が優先だろうが!」
 今すぐ、自分を救援に向かわせろ! とアスランは叫ぶ。
『必要ない』
 しかし、カガリはあっさりとその言葉を否定してくれた。
「何故だ! お前はキラを見殺しにする気か」
 だとするなら、誰が何を言おうと今すぐオーブ軍なんて辞めてやる。そして、そのままキラの元に行く、とアスランは心の中で付け加えた。
『そのキラから増援は必要ない。自分たちだけで十分だ、と連絡が来ている。この程度で増援を求めては、自分たちの努力が無駄になる、とな』
 自分もその意見に賛成だ、とカガリは続ける。自分たちがあの組織をキラ達に預けた経緯を考えれば、オーブはもちろん、プラントも増援を出すわけにはいかない。彼等だけでも大丈夫なように、人選だけは細心をはらったが……と言われても、アスランには納得できない。
「だが、カガリ!」
『……キラに勝てないお前が行ってどうなる』
 混乱の元にしかならないだろう、と彼女はきっぱりと言い切った。そのくらいなら、まだフラガやムラサメ隊の方がきっちりとキラのバックアップに回り、なおかつフォーメーションを組めるだけマシだ、とも。
 その言葉に、アスランは唇を噛む。
 確かに、キラの実力は誰にも追随を許さないものだ。しかし、彼の心はどうなのか、と思う。
 それを理解できるのは自分だけだ、とアスランは今でも信じている。
 カガリにしてもラクスにしても、同じように考えてくれているものだ、とそう考えていたのだ。しかし、彼女たちはそろいもそろって自分からキラを遠ざけようとしている。
『第一、今からお前がそこからオーブに戻ってシャトルを用意して出撃したとしても、全ては終わっていると思うぞ』
 そこまでキラは無能ではない。
 逆に、この瞬間に相手を全て動作不能にして一網打尽にしているかもしれないだろう、とカガリはさらにアスランに追い打ちをかけてくれる。
「そうかもしれないが……」
 事後処理だって……と反論しかけた。
『バルトフェルド隊長があの場にいる以上、誰よりも適切な判断をしてくれるだろう』
 キラのことにしても、アークエンジェルのメンバーがいる以上、何も心配はいらない……とカガリは断言をする。むしろ、アスランが行った方が厄介な状況になるとも断言をしてくれた。
「カガリ!」
 なんなんだ、それは……とアスランは思う。
『言っておくが、シャトルを強奪してキラの所に行こうなんて考えるなよ。そんなことになったら、オーブの恥だからな。無条件で撃墜させる』
 それよりも、自分の仕事をきちんとやれ。片手間にやっているから、今回のようなバカが出たんじゃないのか、とカガリはしっかりととどめを刺してくれた。
 それにどう反論をしようか。アスランはすぐには思い浮かばない。
『ともかく、お前はお前の仕事をしろ。それがキラのためになる』
 その隙にカガリはこう言うと、さっさと通信を終わらせてくれる。
「カガリ!」
 アスランの呼びかけだけがむなしくその場に響いた。

 アスランとの会話を終わらせると、カガリは思わず髪をかきむしった。
「カガリ」
 そんな彼女の行為をとがめるかのような声が脇から飛んでくる。
「わかっている」
 だけどな……と彼女は続けた。
「取りあえず、アスランに対する警戒は強化するように伝えてある」
 その言葉を最後まで言わせることなく、キサカがこう告げる。
「そうか」
 なら大丈夫か……とは思うものの、今ひとつ不安を払拭できない。それは、アスランという人間をよく知っているからだろうか。
 そんなことを考えていたときだ。
「失礼します」
 ノックの音とともに補佐官の一人が飛び込んでくる。普段は考えられないようなその態度にキサカの眉が寄った。
「何があったのか?」
 こういう時のけじめを忘れるような教育を彼等はされていない。それなのにこんな行動に出たのには、きっとそれなりの理由があるのだろう。そう思って、取りあえず次の言葉を促した。
「キラさまからのご連絡がありまして……」
 その言葉に、カガリは思わず腰を浮かせる。
「キラが、なんて言ってきたんだ!」
 まさかと思いながら、カガリは問いかけた。
「あちらにちょっかいをかけてきた者達は全て捕縛したそうです。ご安心くださいと」
 出撃をする、と連絡があってから、まだ一時間と経っていない。それなのに、もう事態を収拾したのか……とカガリは思う。
「さすがはキラさまですね」
 この事実を知れば、アスランもだだをこねられないだろう、とキサカが笑いとともに口にした。
「それだけか?」
 キサカの言葉に小さく頷きながらも、カガリにはまだ何か他に伝えられるべき言葉があるような気がしてならない。
「……テロリストの中に、自分が《セイラン》の血族だ、と主張しているものがいるそうなのです」
 自分では判断ができないから、誰か確認できるものを寄越して欲しいと、そうおっしゃっていました……と彼は続ける。
「……セイラン、だと?」
 今更、その名前を聞くことになるとは思わなかった。その思いのまま、カガリはこう呟いていた。