「やっぱり、シンってキラさんに注目されているのね」
 不意にメイリンがこう言ってくる。
「あぁ、メイリンもそう思う?」
 ずるいわよね……とルナマリアが即座に同意の言葉を口にした。
「何、言っているんだよ。ルナだってメイリンだって、ちゃんと気にしてもらってるじゃないか」
 そんな二人に向かって、シンはこう言い返す。しかし、心の中では全く別のことを考えていた。
 キラが自分を信頼してくれているらしいことには疑いを挟む余地はない。むしろ、それが嬉しいと思う。それどころか、自分が彼を守らなければ……とまで考えるようになっていたことも否定しない。
 それだけのものを、キラは自分に与えてくれているのだから。
 でも、それだけでは足りないと感じてしまうのは何故なのか。
 もちろん、いつもそう感じているわけではない。何かのタイミングで、時々そんな気持ちになってしまう、というだけなのだ。でも、その方が余計に気に入らないと思ってしまう。
 理由がわかっていれば、まだ動きようがあるのだ。
 でも、わからないから黙っているしかない。
 それが自分にとって一番取りたくない選択肢だ、とわかっていてもだ。今下手に動けば、きっとキラに迷惑がかかる。だから、せめて自分がどうしてそうなるのかを知らなければいけない。そう思う。
「ただ、さ。キラさんも男だから、やっぱり女性に守られるって言うのに抵抗があるだけだろ」
 ついでに、年上に傅かれるのもなれていないって言っていたから自分あたりが丁度いいのではないか。シンはルナマリア達に告げる。
「そういえば、カガリさんもそうおっしゃっていましたよ。キラさんは普通のお宅でごく普通に育ってきたから、本当なら今のような状況はストレスの原因になっているのかもしれないって」
 オーブの者達をはばかってなのだろうか。メイリンが声を潜めながらこういった。
「ラミアス艦長やノイマンさん達も、同じようなこと言っていましたし」
 だからこそ、彼等はキラに普通に接しているのだといっていた……と彼女はさらに付け加える。
「そういうことなら、あんたは適任よね」
 よく礼儀は忘れるし、でも懐いた人には甘えるしね〜、とルナマリアがからかうようなセリフを投げつけてきた。
「でも、時々それが行きすぎて反発しているようだけど」
 アスラン相手ではそうだったでしょう、と彼女は付け加える。もっとも、懐く前にあれこれあったせいで機会を逸したようだけど、とも。
「なんだよ、それ」
 アスランに反発をしていたのは事実だが、だからといって懐くつもりなんてなかった。むしろ、あのふらふらとした態度が気に入らなかったと言っていい。
 今なんて、それがさらにふくらんでいる。その理由もすぐに思い当たった。
「やっぱり自覚していなかったわけね」
 こっちからすればバレバレだったわよ……とルナマリアはため息をつく。
「まぁ、懐こうとしてもどうせ、レイが邪魔したと思うけどね」
 レイはレイで、実は独占欲が強かったから……と付け加えられた言葉に、シンは微かな苦笑を浮かべてしまう。彼が自分に向けていた執着の意味は、彼女が考えていたものとは違う、とわかってしまったのだ。
 それでも、あのころの自分にはそれが必要だったことは否定しない。
「まぁ、今はアスランよりキラさんよね、あんたの場合」
「悪いか?」
 キラが自分を受け入れてくれたから、自分も素直に彼のそばにいられるのだ、ということもわかっている。でなければ、きっとこんな風には過ごせなかっただろうということもだ。
「悪いなんて言ってないわよ。うらやましいだけで」
「……結局は、それか」
 女性陣にとって、自分のポジションはそういうものなのか……とシンはため息をつく。
「で、アスランさんはどうしたんだ?」
 最初はそっちだっただろうと聞き返せば、意味ありげな笑みを返してくる。
「だって、ねぇ」
「そうそう。アスランさんとキラさんって、別方面だもん。ここにジュール隊長とかエルスマン副官がいたら、本当に目の保養よね」
 それぞれ別の意味で美形だもん……と言う言葉にシンは頭を抱えたくなった。
「どうでもいいけど、今のセリフ、ミリアリアさんはともかく、他の人には聞かれないようにしろよ」
 でないと、男性陣から反発が出るに決まっている。シンがそういえば、
「当たり前でしょう!」
「さすがに、そこまでバカじゃないわよ」
 即座にこんなセリフが返ってきた。
「でも、ノイマンさんやフラガさんも別の意味で素敵なのよね」
「そうそう。大人だからかしら、やっぱり」
 こちらは別段声を潜めなくてもいい内容だ、と思っているのだろうか。二人は楽しげにオーブや地球軍の男性陣の話をしている。さすがに、そこまで付き合っていられるか、とシンは立ち上がった。
「シン?」
「キラさん所に戻る。好きなだけ話していればいいだろう」
 そもそも、誰が恰好いいなんて言う話に付き合わせるな! とシンは言外に吐き捨てる。
「……何言っているの。乙女にとって一番重要な話でしょう!」
 自分だって、マリューのように素敵な人と結ばれたいのだ、とルナマリアは言い返す。
「ルナの性格で?」
「シン!」
 シンの言葉に、ルナマリアのまなじりが切れ上がる。
「後は料理か。せめて、人が喰えるものを作らないと、絶対ふられるぞ」
 マリューは料理が得意らしいし、とフラガから聞いたセリフを負けじと付け加えた。
「真実かもしれないけどね! もう少し女心を考えなさいよ、あんたは」
 でないと、それこそ、付き合ってくれる女の子なんて一生できないわよ! と彼女は即座に反撃をしてくる。
「別にいいよ……」
 失うかもしれない恐怖を考えれば、大切な存在なんて作らない方がいい。そんな気持ちにもなっている。
「……シン……」
「取りあえず、今優先しなきゃないのは、キラさんのことだしさ」
 他のことはもっと落ち着いてから考える……と口にすると、逃げ出すようにその場を後にした。