「アスラン……眉間にしわが寄っているよ」
 荷物をまとめていたキラが、手を止めるとこう告げる。
「俺としては、ものすごく不本意な状況だからな」
 さらに不満そうな表情とともに彼は言葉をはき出した。どうして彼がそういうのかはキラもわかっている。
「カガリがアスランを必要だって言っているんだから、仕方がないよ」
 自分には、取りあえずフラガ達が一緒に行ってくれることになっていた。それに、ザフトからはバルトフェルドが来てくれる。だから、何も心配することはないのだ、とキラは言い返す。
「それはわかっている。でも、俺がキラと一緒にいたかったんだ」
 希望を出したのに、とアスランは本気で悔しそうだ。
「でも、命令でしょう?」
 そういう、とキラは言い返す。
「だから仕方がないよ」
 そういう状況になるとわかっていて、自分たちは戦う道を選んだのだから、とさらに言葉を重ねた。
「……それとこれとは違う」
 しかし、アスランはこう言い返してくる。
「どこが?」
 軍に属している以上、命令は絶対だろう。それはアスランだってよく知っているはずだろう、とキラは思う。
「確かに命令はそうかもしれないが……その命令が間違っていることだってあるんじゃないのか?」
 自分の父も、そしてデュランダル議長もそうだっただろう……とアスランはつけ加える。
「……アスランは、二人の判断が間違っているって言うんだ」
 彼が引き合いに出した二人は確かにそうだったかもしれない。だが、ラクスやカガリは違う、とキラは思う。彼女たちがこの組織を作ろうと思ったことは間違いない、とも。
「そういうわけじゃない」
「だったら、何なの?」
 ただ、だだをこねているようにしか思えないよ、それじゃ……とキラの方がだんだんいらついてきた。
「俺はお前から離れたくないんだって」
 そうすれば、アスランは即座にこう言い返してくる。
「……無理」
 いったい何を……とか、これがもうじき20歳になる人間のセリフかとかキラはあきれたくなる。だが、アスランの方はきわめてまじめな口調で言っているから問題なのだ。
「なんでだ?」
 今も、キラの言葉の意味がわからない……と言うようにこう問いかけてくる。
「今の僕にはアスランがどうしても必要というわけじゃない。でも、カガリは違う。だから、一緒にいるのは無理だよ」
 そういうこと……とキラはできるだけさらりとした口調で告げた。
「だが……」
 俺は、とアスランはしつこくも食い下がろうとしてくる。
「そこまでにしておいてくれる? そろそろムウさん達が向かえに来るから」
 その前に荷物をまとめないと、何も持たずに行くことになる、とキラは少し怒りを滲ませた口調で言う。
「キラ……」
 キラのそんな態度が気に入らなかったのだろう。アスランがどこか憮然としたような口調で名前を呼んでくる。だが、これ以上話をしていても彼は納得してくれるはずがないことは想像ができた。
 だから、キラは無視することにする。
 同時に、カガリに注意をしてもらおうか……とも心の中で呟いていた。

 手渡された辞令を見て、シンは驚きを隠せない。
「……どうして、俺が……」
 自分はてっきり監視付きで飼い殺しにされるものだと思っていた……とは決して口にしない。もちろん、相手にはわかっていただろうが。
「お前が適任だって、判断されたからに決まっているだろう?」
 苦笑とともに、目の前の先輩はこう言ってくる。
「バルトフェルド隊長も許可を出したし……キラと約束したんだって?」
 一緒に花を植えようって、と彼――ディアッカはは問いかけてくる。どうしてそれを知っているのだろう、と思いながらもシンは素直に首を縦に振った。
「まぁ、目的地はオーブじゃないがな。キラに付き合ってやってくれ」
 あいつ以外に、腕の立つパイロットを参加させたいしな、と彼は付け加えた。
「……あの人が一緒でしょう?」
 アスラン……と言う名前を口にするのはまだ少しためらいがある。それが自分のせいだとわかっていても、だ。
「あぁ。アスランか?」
 ディアッカはシンが言いよどんだ内容について察してくれたらしい。こう問いかけてくる。それに頷けば彼は苦笑を浮かべた。
「心配いらねぇって。あいつはオーブに居残りだそうだ」
 まぁ、軍のトップを移動させる以上、仕方がないことだろう。ディアッカはそう付け加える。
「何よりも……ラクスさまもカガリも、本気であいつには腹を立てていたからな」
 もちろん、イザークもな……と言う口調から判断をして、彼自身もそうなのではないか、と推測をした。
「まぁ、そういうことだからな。頑張って、キラの手助けをしてやってくれ」
 できれば、あいつがMSに乗る機会を減らすようにしてくれ、と付け加えられる。
「……あの人は、強いですよ?」
「それはわかっている。でも、戦いに向いているかというと別問題だからな」
 まぁ、それに関してもバルトフェルドがうまく判断してくれるだろう、と言われて、シンはそうなのかと素直に受け止めた。
「と言うことで、頑張ってくれ。お前の同期も何人か行かせるから」
 いったい誰が一緒なのか。それはそれで問題かもしれないが……とシンは心の中で呟く。
「わかりました」
 自分の存在を望んでくれているのであれば、頑張るだけだ。そう判断をしてシンはこう口にした。