「なかなかいい成績じゃないか。さすがは《紅》というところか?」
 シンとルナマリアのデーターを解析していたキラの耳に、感心したようなフラガの声が届く。
「そうですね」
 そんな彼に、キラは素直に同意をする。
「ただ……」
 それだからこそ、逆に欠点に気づきやすい。自分たちならばまだしも、敵に気づかれれば命すらも失う結果にはならないか。それだけが気にかかるのだ、とキラは心の中で呟く。
「わかってるって。それに関しては、俺たちが矯正していけばいいだけのことだろう?」
 どのみち、オーブの連中とも組ませてみなければいけない頃合いだしな……とフラガは笑う。でなければ、相性がわからないだろうとも彼は続ける。
「まぁ、オーブの連中はそう言う点での割り切りはいいからな。心配はいらない、と思うが」
 それでも、遺恨がないわけではない。特に《シン》に対しては、だ。ただ、オーブの者達はみな大人で、あれが戦争中の出来事だった……と言う一点で自制しているだけだということもわかっている。
「そうですね。バルトフェルドさんにはさらに負担をかけてしまうことになるかもしれませんが、僕も同行すべきでしょうね」
 ついでに、ムラサメのシステムも改良できるならしてしまいたい……とキラは付け加えた。
「虎さんの方は心配いらない、と思うけどな」
 むしろ、キラがいないところであれこれチェックをしたいと思っているのではないか……と彼は続ける。
「だといいのですけど」
 それで不満が出なければいいのだが……とキラは心の中で呟く。
「それも予想の内だろうな」
 ここで人種の違いがどうの、とごねるような連中はいらないからな……と言うフラガの言葉の意味がわからないわけではない。だが、本当にそれでいいのだろうかとも思う。
「そういうことは俺たちに任せておけばいいって」
 キラには性格的に無理だ、と彼は言い切る。だからこそ、自分たちがキラのフォローのためにここにいるのだから、とも。
「ムウさん」
「そういう駆け引きは大人に任せておきなさい」
 でも、と言いかけたキラの言葉をフラガはあっさりと封じる。
「お前さんは、取りあえず全員を別け隔てなく接してくれればいい」
 特別は作っても、な……と彼は意味ありげに付け加えた。
「ムウさん?」
 いったい何を言っているのか……とキラは相手を見上げる。しかし、フラガは意味ありげな――そして思い切り楽しげな――表情を作っているだけだ。
「そういや、ムラサメ隊の連中が、お前にシミュレーションを見て欲しいと言っていたぞ」
 不意に話題を替えられてしまったからか。キラは状況がうまく認識できない。
「ムウさん?」
 ムラサメ隊といえば、別段実力的には問題がないメンバーだろう。それなのに、どうして今更自分にシミュレーションを見て欲しいと言い出したのか。
「最近、お前さんはザフトのヒヨッコにかかりきりだったろう? もちろん、それは仕方がないことだ、と連中もわかっている。でも、たまには自分たちにも……と言うことだろうな」
 もちろん、お前が時間があればちゃんと声をかけたりしているのは知っているぞ……とフラガは笑う。だからこそ、連中も努力をしていたんだが。そろそろ、その成果を見てもらいたいって所だろう……とも付け加える。
「……気を付けていたつもりだったのですが……まだまだだった、ということですね」
 ザフトや地球軍から来た者達と比べれば、彼等を後回しにしてしまったのかもしれない。キラは今更ながらにそう気づいてしまった。それでも、彼等なら大丈夫だろうと信じていたことは事実でもある。
 しかし、それは甘えだったのかもしれない。
「あいつらの『キラさま』に対する感情は、これまた強烈だからな」
 誰かさんの病気よりはかなりマシだが……とフラガが笑う。
「まぁ、一度付き合ってやれば当分は大人しいと思うぞ。その間に、あいつらには連中になじんでもらえばいい」
 といっても、ルナマリアの方はもうかなりなじんでいるようだがな……と彼は続けた。
「そうなんですか?」
「あぁ。何にしても、美人は周囲から注目を浴びると言うことだ」
 メイリンもいるしな……という言葉でキラは取りあえず納得してみる。
「というわけで、問題はシンの方だが……それに関しては実力で何とかさせるしかないな。まぁ、お前と同レベルで動けると判断されれば、すぐに納得されるだろうがな」
 アスランがそうだったように……という言葉はどうなのだろうか。そう考えてしまう。
「やっぱり、アスランって……」
「本人も気づいてないようだがな。微妙だったことは否定できないぞ」
 今は別の意味でなま暖かく見守られているようだがなとフラガは笑いながら教えてくれる。
「微妙な立場っていうのは、俺も同じだったからな」
 そしてこうも付け加えた。
「ムウさん」
「あぁ、俺の方はまったく心配いらないぞ。お前だけじゃなくお嬢ちゃんもしっかりとフォローしてくれたからな」
 さすがに、記憶を失っていた上にマインドコントロールまでされていた人間に、いつまでも怒りを抱いているような人間はオーブにいないって事だろう、という言葉は、ほめているのだろうか。これもまた微妙な問題だよな、と思う。
「おかげで、別の意味で忙しくなったが」
 まさか、ここまであれこれ押しつけられるとは思わなかったぞ、とフラガは何も気にすることがないというように言い切る。
「ならいいですけど……」
 しかし、自分が気づかないところでいろいろとあるな、とキラは思う。それとも、自分に気づかせないようにしているのだろうか。
「あまり悩むなって。お前がそんな表情じゃ、俺がいじめられる」
 お前を泣かせたと言ってな……とフラガが冗談めかした口調でこう言ってきた。
「何ですかそれは!」
「それだけ、お前がみんなに愛されていると言うことだよ」
 カガリもそうだけどな、と言われても納得できない。
「実力と人望があるって事だ。悪い事じゃないだろう」
 だから、あきらめろというのは忠告なのだろうか。今ひとつ釈然とできないキラだった。