いったい、どこにいるだろうな……と思いながら、シンは取りあえず食堂に顔を出す。そうすれば、そこに目的の姿を見つけることができた。
「ルナ」
 声をかければ、即座に彼女は視線を向けてくる。
「久しぶりね、シン」
 返ってきた言葉に、微妙に棘があるような気がするのはシンの錯覚ではないだろう。彼女は、自分だけがキラの側で仕事をしているのが気に入らないようなのだ。これで、最近はキラの私室に入る許可までもらった――といっても、そのほとんどが寝坊しているキラをたたき起こしたり食事に引っ張り出したりという、色気も素っ気もない理由ではあるが――などと知られてはただではすまないのではないだろうか。
「キラさんが、付き合ってくれって」
 シミュレーションの相手に、と彼女のイヤミが飛んでくる前にシンは取りあえずこう口にする。
 しかし、ルナマリアの反応はシンが予想していたものと微妙に異なっていた。
「キラさんが?」
 彼が相手をしてくれるのか、と彼女は目を輝かせると問いかけてくる。
「そこまでは聞いてない。ただ、ルナが頼めば、今日は無理でも時間を割いてくれるんじゃないのか?」
 いずれ、ルナの方の機体のOSもチェックしたいようなことを言っていたから……とシンは付け加える。だから、その前に癖を確認しておきたいのだ、と言っていたから、とも。
「……何か、やっぱり面白くないわね」
 だが、何故かルナマリアは不意に機嫌を斜め下に移動させてしまう。
「ルナ?」
「そういうことをすらすらと口にできる、って言うことは、それだけキラさんと話をしているって事でしょう。シンのくせに!」
 だから、それは何なのだ、とシンはあきれたくなる。
「仕方がないだろう。キラさんをはじめとした人たちがそうしろって言っているんだから」
 こう言いながらも、心の中で、自分がキラの部屋に自由に出入りできるなんて知られたらまずいな、と呟く。そんなことを彼女に知られたら、今以上の文句を聞かされることになるのは目に見えていた。
「そうだけど……でも、やっぱり、キラさんのそばにいられるポジションのあんたがうらやましいというか何というか……」
 取りあえずあんたはねたまれる対象なの! とルナマリアは言い切る。それに関しては、これ以上反論をしても意味はないことはわかっていた。
「……ともかく、来るのか来ないのか?」
 こちらの方が重要だし……と思ってこう問いかける。
「行くに決まっているでしょう! キラさんのそばに行ける機会なんて、ものすごく貴重なんだから!」
 逃してたまるものか、と彼女は言い切った。
「わかったから……なら、さっさとそれ片づけろよ」
 そうすれば、それだけ早く終わるから……とシンは真顔で口にする。
「わかっているわよ!」
 言葉とともにルナマリアはプレートの上に残った食べ物をものすごい勢いで食べ始めた。残すという選択肢がないのは、パイロットが体力勝負だ、ということを彼女もよく理解しているからだろう。
 ということは、やはりキラのあの食欲は少し異常なのではないだろうか。はっきり言って、ルナマリアはもちろん、メイリンよくも食べないのだ、彼は。
 それでも、とシンは心の中で呟く。
 以前よりも食べるようになったのだ、とフラガ達から聞かされている。それならば、自分の存在も無駄ではないのか、とも思う。
 でも、もう少し食べてくれると安心できるんだけどな……とシンは心の中で付け加えた。ただでさえ忙しそうなのに、あれではいつか絶対に倒れるのではないか、と不安なのだ。
「シン」
 そんなことを考えていた彼の耳に、ルナマリアの声が届く。視線を向ければ、プレートを手に持って立ち上がっている彼女の姿が確認できた。
「……早食いすると太るぞ」
 ぼそっとシンはこう呟く。
「何よ、それ!」
「何って……フラガさんがラミアス艦長に言ってたセリフだけど?」
 それがどうかしたのか、と真顔で問いかければ、
「……男って……」
 どうしてこんなにもデリカシーがないのかしら……とルナマリアはため息をつく。
「キラさんも男だけどな」
 それにシンはこうはき出す。
「シン!」
 キラさんは別なの! と騒ぎ出すルナマリアの声に、シンはあきれる以外できなかった。

 それでも、キラの元に戻ってきた時にはそんな感情は完全に脇に置きやっている。
「キラさん、連れてきましたよ」
 こう呼びかければ、何かを確認していた彼が視線を上げた。
「ご苦労様、シン」
 ふわりと微笑むキラの顔を見た瞬間、何故か鼓動が跳ね上がってしまう。もっとも、それは最近よくある症状だ、と言っていい。しかし、それがどうしてなのかといわれれば答えることはできないだろう。
「別に……」
 このくらいならそんなに手間じゃないから……とシンは自分の感情を押し殺すように口にする。
「シン、あんた……」
 もう少し取り繕ったらどうなのか、とルナマリアがシンの脇腹を肘でつついてきた。キラは一応自分たちの上官に当たるのだから、とも。
「そうは言うけどな、ルナ」
「僕がいいって言ったんだよ」
 シンが彼女に言い返す前に、キラがこう言ってくる。
「どうも、シン君がやりにくそうだったし……僕はあまり気にしないから」
 むしろ、ずばずば言ってもらった方が作業的にも楽だし……と付け加えれば、ルナマリアとしてもそれ以上何も文句は言えないようだ。
「ともかく……今日は外から観察したいから、シン君とシミュレートしてくれる? それを見て、取りあえずOSを組んで見るから」
 新型の方もチェックしたいし……とキラは微笑みを浮かべたまま口にする。
「……キラさんが相手をしてくれるわけじゃないんですか?」
 それに、ルナマリアは思い切り『残念』と顔に書きながら口にした。
「ルナ」
 自分だって、そういう意味ではまだキラに相手にしてもらってないのに、どうしてこいつだけ……と思いながら、シンは相手の名前を呼ぶ。
「だって……」
「また、いつか……ね」
 普段であれば、こうなってしまえば手を付けられないルナマリアも、キラには逆らえないのか。渋々と頷いてみせる。そういうところはさすがなのか、とシンは考えずにはいられない。どう考えても、屈強なメンバーを掌握するには華奢すぎる彼なのに、誰もが逆らえないのはこうだからなのだろうかとも思う。
「というわけで、用意してくれる?」
 準備ができたら始めるから……と言うキラの言葉に操られるように、シンとルナマリアは行動を開始した。