みなが予想していたとおり、というべきなのだろうか。
 そのことのアスランは、思い切りいらついていた。
「……せめて、キラの顔だけでも見ることができれば……」
 もう少し落ち着いていられるのではないか。そう思う。二言三言、彼と話ができればもっと落ち着けるだろう、ということもわかっていた。
 要するに、自分は今《キラ》不足なのだ。
「最近は、情報交換の相手が、あの人達に限られていたしな」
 バルトフェルドとフラガという、ある意味、アスランでも太刀打ちができない――そして文句も言えない――二人だ。
 フラガに関してはつつこうと思えばつつけるのかもしれない。だがそうすれば、自分の失態を逆に追及されかねないと言うこともわかっていた。どうやら、ミリアリアがあの時の自分のセリフを彼等に教えたらしい。それはきっと、彼女が今でもアスランに複雑な思いを抱いているからだろう。そして、それに関してはアスランも自分が文句を言える立場でないことはわかっている。だから、今回のことにしても彼女を責めるわけにはいかないのだ。
 アスラン自身にしても、今思えば何であんな事をキラに言ってしまったのかと思う。彼がそうしなければならなかった原因を作ったのは、そもそも自分たちなのだし、と。
「でも、それとこれとは違う」
 キラだって、あの時のことは水に流してくれたのだ。
 そして、もう同じ失敗はしない。
 それなのに、どうして誰もが――カガリも含めて、だ――自分がキラと連絡を取ろうとするのを邪魔するのだろうか。その理由がわからない、とアスランは心の中で呟く。
「……確かに、今が一番忙しい時期だというのはわかっているが……」
 いや、それだからこそ、自分を応援に行かせてくれ、とカガリにも訴えている。プログラムはともかく、その他のことに関しては自分の方がキラよりも経験が上なのだし、とも。
 それに……とアスランは小さなため息とともに言葉をはき出す。
「キラが考えていることは顔を見ただけでわかるのに」
 だから、自分がそばにいれば、適切なフォローができるに決まっている。それなのに、どうして……とアスランは拳を握りしめた。
「どうして、キラも……俺が必要だって言ってくれないんだ」
 他の誰が反対しようと、キラがそういってくれれば全ては収まるのだ。
 それなのにどうして……と思う。
 もちろん、キラが言っている理由も理解はできる。だが、納得できるかと言われると別の次元だとしか言いようがない。
「キラ」
 自分がキラ不足でおかしくなる前に、せめて声だけでも聞かせてくれ。アスランはそう呟いていた。

「ということで、そちらから依頼があった物資については、次の補給の時には送れるはずだ」
 カガリの言葉に、キラは小さく頷いてみせる。
『ありがとう』
 微笑むキラの姿はいつもと変わらない。だが、カガリの意識は一瞬だけ前髪の間から見えたものに向けられていた。
「キラ……」
『どうなさいましたの、キラ。そのおでこは』
 だが、カガリが問いかけるよりも早くラクスがこう口にする。ということは、自分の見間違いではないのだ、とカガリは思う。
『おでこ?』
 しかし、キラの方は何を言われているのかわからないというように小首をかしげてみせる。それでも、さりげなく視線が彷徨っている仕草から判断して、ごまかそうとしているのだとわかってしまう。
「キラ。いい加減にしないと、直接押しかけるぞ」
 もちろん、そんなことが実際にできるはずはない。それはキラも他の者達もわかっているはずだ。
『カガリ……』
 それでも、キラが不安そうな表情を作ったのは、自分ではなく自分のそばにいる誰かのことを思い出したからだろうとカガリは判断をする。
『そうやってキラをいじめるんじゃないって』
 苦笑とともにフラガが口を挟んできた。
『お前さん達は心配しているようなことは、本当に何も起きていない』
 アスランが押しかけてきているわけでも何でもないから……と彼は付け加える。そんなことになっていたら、ここでゆっくりと話もしていられない、とも。
「まぁ、それはわかっているが」
『そんな状況になっていましたら、無条件でイザークをそちらに向かわせていますわ』
 アスラン捕獲のために……とラクスが告げる。
「そうだな。適当に撃ち落とせと命令をしてるかもしれないな、私も」
 最近、嫌なくらいに鬱陶しいんだ……とカガリも頷いて見せた。
『鬱陶しい?』
「あぁ。そのうち、きのこでもはやすんじゃないのか、体から」
 重箱の隅をつつくような指摘をしてくるだけならまだしも、最近はぐちぐちとうるさいのだ。それがどうしてなのかはあっさりと想像が付いている。そして、自分がさっさと根を上げて許可を出すのを待っているのだろう。もちろん、そんなこと、問屋が卸さないが。
『それはまずいですわね、少し』
 本気で実力行使に出るかもしれない、とラクスがため息をつく。
『来ても入れないがな』
 ハッチを閉じてしまえば、アスランでも自分が歓迎されていないだろうと理解するだろう、とバルトフェルドは口にする。
『ついでに、外部から侵入できそうなところには監視装置でもおくか。どうせ、アスランの知識はアカデミーで教えられたことの応用だろう』
 それならば、簡単に推測できる、と彼は続ける。
『それよりも、一度、直接報告を聞いた方が早いような気がしますけどね』
 いつもの定期連絡であれば、適当な口実をつけて通信を切ることもできるだろうし……とキラは付け加えた。要するに、自分の顔が見られないからいらついているのだろう、とも。
『何ですか、それ。どこの三歳児の理屈ですか!』
 あきれたようなシンの声が響いてくる。モニターに映っていないと言うことは、センサーの感知範囲外にいると言うことだろう。そして、キラ達が同席を許す程度に彼は信頼を得ていると言うことなのか。
「あいつのキラばかぶりは昔からだ。たまに、変な方向に暴走するから厄介なんだよ」
『そうですわね。結局は、自分の物差しでしか周囲を測れないお馬鹿な人なのですわ、アスランは』
 辛辣な二人のセリフに、男性陣は苦笑しか浮かべることができないらしい。
「で、キラ。その額はどうしたんだ?」
 アスランのことでごまかそうとするなよ、とカガリは口にする。その瞬間、キラが思いきりため息をついたのがわかった。