ロゴスが原因を作り、デュランダルが拡大させた戦争は終結をした。
 だが、戦争は人の心に大きな爪痕を残している。
 いや、それだけではない。
 母体である《ロゴス》は解体されたものの、まだまだブルーコスモスの残党は残っている。そして、不満分子もだ。
 だからといって、オーブとプラントがそれぞれ表立って動くわけにはいかないのではないか。そんなことをすれば、大西洋連合の中に潜んでいる不満分子が爆発をするかもしれない。
 では、どうするか。
「……独立した組織を作るしかないんだろうが……」
 問題は、それを誰に預けるかだ、とカガリは呟く。
「いや、いないわけではないが……」
「おそらく、一番適任者は、一番任せたくはない方、ですわよね」
 ラクスの言葉に、彼女も同じ人物を脳裏に思い描いていたのだ、とカガリは悟る。
 実力的にも、そして人望と言った点でもおそらく問題はないだろう。だが、とカガリは心の中で呟く。彼の心はどうだろうか。
 あの日々を知っているからこそ、それが不安でならない。
 それでも、為政者である以上、自分たちはどこかで割り切らなければいけない……と言うこともわかっている。
 身内のひいき目を抜いても、現在、キラ以上の適任者がいないと言うこともまた事実なのだ。
「信頼できる方にそばについていて頂いて……キラの負担を軽くすること。それが私たちのできることではないでしょうか」
 平和を維持していくためには……とラクスは呟くように付け加える。
「……それが、私たちが一番していかなければならないこと、だな」
 もう二度と世界を戦渦に巻き込まない。
 そのために必要なことならば決断を下さなければいけないだろう、とカガリは決断をする。
「そちらから、誰を回せるか……早急にリストアップしてくれ。こちらは……おそらくアークエンジェルのメンバーをメインに選出することになるだろうな」
 キラを任せるとすれば、彼等が一番適任だろう。何よりも自分が信頼できるから……とカガリは心の中ではき出す。
「確かに。彼等であれば大丈夫ですわね。こちらからの人選も急がせますわ」
 後は、大西洋連合に属していた者達の中からも何人かピックアップしたいところではあるが……とラクスは口にする。
「それについては、フラガに任せる。彼であれば……それなりに信頼できるものを知っていそうだからな」
 いろいろな意味で……と付け加えれば、ラクスは静かに頷いて見せた。
「……カガリ……」
 だが、次の瞬間、ラクスはためらうように言葉を唇に乗せる。
「何だ?」
 彼女にしては珍しい態度だな、と思いながらカガリは聞き返す。
「こちらからのメンバーに《彼》を入れたいと思いますが……かまいませんか?」
 そうすれば、ラクスはきっぱりとした口調で言葉を口にした。
「彼?」
 誰のことだ……と問いかけようとしてカガリはやめる。思い当たる人間をすぐに思い出したのだ。
「……そんなにまずいのか?」
 あいつの立場は……と代わりに問いかける。
「そういうわけではありませんわ。ただ、彼自身のために環境を変えさせた方がいいのではないか、と思っただけです」
 どうも、うまく居場所を見つけられないようなのだから、とラクスは付け加えた。
「……キラに危害を加えないというならかまわないがな」
 一番の問題はそれだろう、とカガリは思う。
「大丈夫だと思いますが……」
 だが、彼自身がかなり不安定な状態だから、確実だとは言えない……とラクスは付け加える。
「そうか」
 確かにそうかもしれない。
 生き残ったとはいえ、彼はそれまで抱いていた全ての価値を覆されたのだ。自分自身の存在意義すらも見失っている可能性はある。
「ただ……キラの言葉が、彼にとっての支えになっていると思われますので……」
 だから、キラの側に置けば落ち着きを取り戻すのではないか。ラクスはそう考えたらしい。
 その気持ちはわかる。
 だが、果たしてキラは大丈夫だろうか。
 彼を支えようとして、また自分自身の心のバランスを崩してしまわないだろうか、という点だけが心配なのだ。
 だが、と……すぐに思い直す。
 彼の能力は、間違いなく必要になるだろう。
 その存在があれば、キラが直接最前線に出ることが少なくなるだろうとも思えるのだ。
「……そうだな」
 なら、認めなければならないだろう、とカガリは自分に言い聞かせる。
「ラクスが必要だと思うのであれば、妥協するしかないだろう」
 それに、直接キラと関わるとは限らないし……と心の中で呟いた。
「ありがとうございます、カガリ」
 彼女に向かって、ラクスはこう告げる。
「……礼を言ってもらうのは、まだ早いな」
 全てはそれの設立が認められて、実際に動き出すまでは、その言葉は待っていて欲しい、とカガリは口にした。そうすれば、ラクスは小さく頷いて見せる。
「まずは、もっと計画を煮詰めなければいけませんわね」
 そして、こう口にした。

 三ヶ月後、新しい組織が産声を上げた。